第31話 援軍

突然……


凄まじい爆発音と共にブタフィ達の後ろ二~三十メートルの場所に停めてあった数台のジープが真っ黒い煙を上げて炎上した。


「なっ、何事だ!」


驚いて後ろを振り返るブタフィ。突然の出来事に、狙撃隊も構えを解きその光景を見て呆気に取られていた。


ジープに爆弾でも仕掛けられていたのか?一瞬そう思ったブタフィだったが、実はそうでは無かった。上空を二機の戦闘機が凄まじいスピードで横切り、今の爆発が戦闘機からのミサイル攻撃だと気付く。


「襲撃だあぁぁ~~!戦闘機が攻撃してきたぞ!」


周囲の警備にあたっていた兵士が慌ただしく走り回り、緊迫した空気が辺りを包む。

その数秒後にはブタリア軍基地よりブタフィ将軍へと、今の状況を説明する連絡が入った。


『つい15分程前に、ブタリア王国の領空内に三機の飛行物体の侵入を確認!警告にも応じず迎撃を試みましたが失敗に終わりました……三機のうちの二機の戦闘能力は我が戦闘機の戦闘能力を遥かに上回り、空軍からの報告では、あれはF-35ではないか?との事です!』


「アメリカ空軍だと!」


基地からの報告を受け、驚きの表情で空を見上げるブタフィ。

するとブタフィが見上げていたその方角より、炎上するジープの煙の向こう側から近付いて来る一機の輸送ヘリの姿が見えた。


こちらに向かい高度を下げて来る輸送ヘリを見た兵士の一人が、大声で叫んだ。


「こっちに来るぞ!みんな~~撃ち堕とせ~~!」


その声を聞きつけたブタフィは、慌てて銃を構える兵士達を制止した。


「待て!撃つな!絶対に誰も撃ってはならんぞ!」


先程のミサイル攻撃はどう考えても威嚇攻撃である。大国を相手にこちらから先に直接攻撃を仕掛ける事は、避けた方が得策……と、ブタフィは考えたからだ。


基地からの報告にあった通り、輸送ヘリはアメリカ空軍のものである事がブタフィの目視でも確認出来た。しかし、何故アメリカ軍が今この時期に領空侵犯を侵してまでブタリアへやって来たのか?その理由も解らないまま、やがて、アメリカ空軍の輸送ヘリはブタフィと兵士達の見つめる中、堂々とその中心へと着陸して来た。


ヘリから最初に降りて来たのは、迷彩服の兵士達。皆、肩には銃をぶら下げていたが、ブタフィ達を攻撃するそぶりは見せなかった。それよりは、後から降りて来るであろう人物を守るようにヘリの前に壁を作っているような動きをとっていた。


その奥からは一体どんな人物が出てくるのだろう?ブタフィ達が固唾を飲んで見守る中、最後に姿を見せたのは………


(一体あの男は何者なのだ……?)


ブタフィには、その男に対する面識は全く無い。しかし、チャリパイシリーズ愛読者の諸君にはよくお馴染みの顔である。


この場所には何とも不釣り合いな、にこやかな笑顔で登場して来たこの男こそ……御存知、CIA日本支部のトップエージェント

『ジョン・マンジーロ』その人であった。



♢♢♢



「これはこれはブタフィ将軍。テレビ観ましたよ~ご婚約おめでとうございます」


あの緊迫した状況から一転、まるでで握手を求めて来るジョンの態度に、拍子抜けするブタフィ。


「な、何なんですアナタは?いきなりこんな所にやって来て!」

「いや、確かに仰る通りですな……少々強引な訪問だったかもしれません」

「少々どころの騒ぎじゃない!立派な領空侵犯ですぞ!撃墜されても文句は言えない!」

「いやぁ~、実際に撃墜しようとしてきましたよ、オタクの空軍部隊は。まぁ、ウチのパイロットが上手くかわしてくれましたがね」


愛想の良さとは裏腹に、言っている事は嫌みたっぷりである。まるで、ブタリア空軍をもてあそぶ事などアメリカ空軍にとっては朝飯前だと言わんばかりだ。


「それで!アメリカが一体何の用なんだ!」


ジョンの態度に不愉快そうな表情を浮かべ、ブタフィが話の本題に入った。すると、今までのラフな態度からはは一転、急に表情を引き締めたジョンはブタフィに対し今回の訪問の目的を告げた。


「実は、合衆国大統領からの命を受け、ブタフィ将軍に今回の御婚約に関しての大統領メッセージをお届けに参りました!」

「大統領からのメッセージ?」

「そうです、メッセージです!」


ジョンから今回の婚約に関する『大統領からのメッセージ』という言葉を聞いたブタフィは、思わず顔を綻ばせた。


「なるほど、そういう事でしたか。アメリカ大統領がわざわざこの私とイベリコ姫との婚約に祝福のメッセージとは、大変有難い。どうか大統領に宜しくお伝え下さい」

「いや、その逆です。!」

「なんだとおおぉぉ~~~!最初にアンタ、握手しながら

『婚約おめでとうございます』と言っただろ~がっ!」

「あれは社交辞令だ。だよ」


顔色ひとつ変えず、ジョンはそう言い放つのだった。








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