第30話 処刑

そして、ついに運命の日は訪れた。


処刑日当日……


「せっかく外に出られたと思ったら、なによ~~これっ!」

「あたし達助かるんじゃなかったの~~~~っ!」

「このウソつき将軍~~っ!」

「死んだら化けて出てやる~~!」


既に処刑台に縛り付けられ、身動きもとれないチャリパイの四人とロースはただ、声を大にして喚く事しか出来ない。その五人から離れること15メートル程の場所には、十数名の狙撃隊が控え、その後ろには何人かの軍人と共にブタフィ将軍、そして両腕を兵に抱えられながらここに連れて来られたイベリコの姿があった。


「姫、今のうちによく見ておきなさい。ですよ」


厄介者を一掃出来るとあって機嫌を良くしているブタフィは、イベリコにそんな無神経な言葉をかけ神経を逆撫でしようとするが、今のイベリコにはすぐ傍にいるブタフィの言葉など全く耳に入ってはいなかった。


「ロオオオオオオオオオオオォォォォォ――――――――ス!」


涙を瞳いっぱいに溜めながら、声を限りにその名を叫ぶ。


「イベリコすまない!俺は君を護る事が出来なかった!」


死の間際でさえ、愛するイベリコを護る事にこだわるロースに対し、イベリコは首を大きく横に振って答えた。


「何を言うの!それは私の方だわ!私は貴方達を護れなかった!」


瞳から涙が零れ落ち、頬を伝って流れる。


「ごめんなさい……………」


そのまま、がっくりと膝を地面に着きイベリコは砂を掌で強く握りしめた。

ふつふつと沸き上がる深い悲しみと怒り……イベリコの中で、何かが弾けた。

気が付くとイベリコは、握ったその砂を狂ったようにブタフィに向かって何度も何度も投げつけていた。


「わああああああぁぁぁぁぁっ!」

「うわっぷ!痛い!なっ、何をする!おいお前達、早く姫を押さえつけんか!」


慌てて兵達にイベリコの拘束を命ずるブタフィ。少し位の抵抗は予想していたものの、あのイベリコ姫がこんなにも取り乱すとは、ブタフィにも予想外の事であった。



♢♢♢



絶体絶命………


チャリパイの今の状況を表すのに、これほど適切な言葉は無い。今まで数々の困難を、持ち前の奇跡的な悪運の強さで乗り切ってきた彼等ではあるが、今回の状況は過去のどの状況よりも最悪であると言える。


遠い異国のブタリア王国、完全なアウェイ。


相手は軍隊、縛られて身動きもとれず逃げる事も戦う事も出来ない。


チャリパイ唯一の味方であるイベリコの説得にも全く耳を貸さない冷酷非道のブタフィ……彼が今から考えを改めるとは到底思えない。


そして、何しろ圧倒的に最悪なのは、今日この処刑が執行される事を今この場所にいる人間以外に誰も知らない事である。『イベリコ救出作戦』で行動を共にしたブタマーンをはじめとするトンカーツ市民にもこの情報は伝わっておらず、彼等が助けに駆けつける事は考え辛い事であった。仮にもしチャリパイの誰かにスマートフォンが渡され、誰かに助けを求める事が出来たとしても、もう時間は僅かしか無い。


もう、チャリパイそしてロースの五人が助かるには……今すぐ隕石でも堕ちてきて、ブタフィとその部下達に直撃でもしなければ無理なのでは無いかと思う位に絶望的な状況だった。


散々喚き散らしていたチャリパイの四人も、大声を出すのが疲れてきたのだろう……身体は処刑台に縛られたまま顔だけを上に向け、揃って静かに空を眺めていた。


「これ、マジでヤバイね……コブちゃん……」


ぽつりと呟くように、ひろきが言った。


「きっと、もうチャリパイシリーズもネタが尽きたのよ。読者の皆さん、チャリパイシリーズは今回が最終回です。次回からは、!』が始まります。どうぞお楽しみに!」

「この状況でよくそんな冗談が言えるものね……ある意味尊敬しちゃうわ、コブちゃん……」


呆れ顔でそう呟くてぃーだ。


「冗談でも言ってなけりゃやってられないわよっ!みんな!最後くらい笑って死んでやろうじゃないの!」


そう言って子豚は半ばヤケクソになって笑い始めた。


「そうだね。どうせ死ぬなら笑って死んだ方がいいよね」


その子豚に賛同し、ひろきも一緒になって笑い始めた。


「ったく……最後まで幸せね。アンタ達は……」


口ではそう言いながらも、てぃーだも二人に付き合って笑い始めた。そして、最後にはシチロー、それにロースまで加わり全員で大声で笑い始めた。


「あっはっはっはっは~~~~」


周りの兵士達、そしてブタフィは、何とも理解し難い表情でその五人を眺めていた。


「なんだあれは……あまりの恐怖で気でもふれたのか……?」



♢♢♢



「そろそろ時間です。将軍!」


ブタフィの脇に立っていた部下の兵士の一人が、腕時計の針を見つめながらそう告げた。

処刑執行時刻を告げられたブタフィは、自ら狙撃隊に号令をかける。


「狙撃隊~~!整列!」


五人の罪人に対し、十数名の狙撃隊が所定の位置に整列し、目の前にある台に置かれた銃を手にする。この十数丁の銃のうち、実弾が入っているのは五丁。残りの銃には空砲が入っている。誰の銃に実弾が入っているのかは狙撃手には知らされておらず、全員で一斉に発砲した時に誰が実際に罪人を射殺したのかが判らないような配慮が施されているのである。


処刑の準備が粛々と行われる中、チャリパイとロースの方は先程の笑い声に続き、今度は五人揃って大声で歌を歌っていた。五人が歌っていたのは、日本の楽曲にあって世界で最も有名になった故・坂本 九の名曲『上を向いて歩こう』であった。

この楽曲がブタリア王国で発売された時のタイトルは『SUKIYAKI 』

イベリコと最初に出逢った時にみんなで食べたスキヤキにちなんで選んだ、チャリパイからイベリコへと贈る楽曲であった。


「チャリパイの皆さん………」


もうすでに涙で霞んで、イベリコにチャリパイの姿ははっきりと見る事が出来なかったが、死をも恐れぬその清々しいまでの振る舞いは、まさに『サムライ』と呼ぶに相応しい勇姿であった。




♢♢♢




「ええい、やかましい!黙れ黙れ、歌なんぞ歌っている場合かっ!これから処刑されるんだぞ!お前達はっ!」


この処刑台の上に立てば、どんな人間だって死の恐怖におののき、涙を流して命乞いをしてきたものだ。それがブタフィの権力ちからの証であり愉悦のひとときであるはずなのに、この連中のリアクションの前では全くそんな気分が湧いてこない。


「クソッ!最後の最後まで忌々しい奴等だ……もういい!狙撃隊、銃を構えろ!」


最後まで歌う事を止めない五人に向かって、一列に並んだ狙撃隊が銃を構えた。

そして各々が引き金に指を掛け、今にも弾丸を発射しようとした、その時…………


歌いながらずっと空を眺めていたシチローが、なにか一言呟いた。








「やれやれ、やっと来たか…………


もう少しでだったよ………」
















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