第29話 反故

「クソッ!結局、看守に怒られてスープの量減らされた!」


牢獄の環境改善を訴えるチャリパイの抗議デモも、看守の反感を買うだけで何の効果も無かった。


「私たち、これからどうなっちゃうのかしら……」


そう言って子豚が溜め息をひとつ吐くと、てぃーだが気になる事を言い始めた。


「ブタフィは『アタシ達の処刑を取り止める』と言ったけど、果たしてイベリコとの結婚が決まってからもその約束を守るかしら?」

「ちょっとティダ!変な事言わないでよ!約束は約束でしょ」

「いや、ティダの言う事も一理あるよ!アイツが約束を守るような奴には見えないしね……」

「何、シチローまで冷静に賛同してるのよ!だったら早くここ出なきゃヤバイでしょ!」

「だから、コブちゃんの超能力で……」

「もう無理よっ!スープの量減らされちゃったし!……大体、シチローがお皿なんか叩いて大騒ぎするから悪いのよ!」

「みんなで抗議しようって言ったのはコブちゃんだろ~が!」

「もぅ~~二人とも!ケンカするなら外でやってよ!」

わよっ!」


劣悪な環境に、全員が苛立っていた。


それに……てぃーだが懸念していた、ブタフィの約束の反故の話。これがまさに現実のものになりつつあった。




♢♢♢



「なにを今さら!それでは約束が違うじゃありませんか!」


イベリコがもの凄い勢いでブタフィに食ってかかった。


「そうでしたかな、何しろ最近物忘れがひどいもので……私がそんな約束を本当にしたものかどうか……それとも姫、それを証明するような何かを貴女はお持ちなのですかな?」


婚約会見が済んで一段落したと見るや、ブタフィは手のひらを返すようにロース、そしてチャリパイの命を保証するという約束を無いものにしてきた。


「証明などと、なんて白々しい!私が結婚を承諾するのと引き換えにあの人達を処刑しないと、そういう約束だったはずです!」

「口では何とでも言えますよイベリコ姫。取引をするならば、私に一筆書かせておくべきでしたな!ワッハッハ~~」


口約束でイベリコが何も証明できる物を持っていない事をいいことに、ブタフィは不条理この上ない理論をぶつけて来る。


「なんて卑怯なマネを……許さない!そんな事は私が許しません!」

「イベリコ姫、あの者共は軍に弓を引いた反逆者です!あんな奴等を庇うのはお止めなさい!」

「反逆者なものですか!あの人達は……アナタなんかよりもよっぽど勇敢で正義感のある人達です!」

「おやおや、これから夫となる人間にずいぶんつれない事を言いますね。……これは参った」

(だからこそあの五人には、死んで貰わなければ困るのだ。この姫にこれ以上ヘタな希望とやらを持たれても厄介だからな)


「とにかく、あの者達の処遇は軍の預かる案件です。いくら姫でも余計な口出しはしないで頂きたい!」


宮殿でそんなやり取りがあったのは、婚約会見の二日後の事であった。イベリコの精一杯の猛抗議もブタフィには聞き入れてはもらえずに、チャリパイそしてロースの処刑は翌日の正午執行される事が決定した。





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