第26話 投獄②

チャリパイの四人とロースは、お互いの軽い自己紹介を済ませた後に、しばらく話をしていたが……


「……つまり、イベリコはブタフィ将軍と結婚する事になってしまったという事か……」


チャリパイからこれまでのいきさつを聞いたロースは、ブタフィの卑怯なやり口に憤慨しながらも、それからイベリコを護ってやれなかった自分の不甲斐なさにすっかり意気消沈していた。


それは、ロースだけでなくチャリパイの四人も同じ心境であった。


「イベリコは、オイラ達の命を助ける為にブタフィとの婚姻承諾書にサインしたんだ……情けない話さ……」


シチローが自嘲気味に呟くと、いつも明るいひろきも悲しげに目を伏せた。


「イベリコ可哀想……」


そんなひろきの気持ちを気遣ってか、ロースがひとこと付け加えた。


「イベリコとは、そういう女性なんだよ……だからこそこの国は、彼女によって治められなければならない!」


てぃーだ、子豚、ひろきの三人の視線はシチローの方へと向いていた。この最悪な状況を打破するようなアイデアを、シチローに求めていたのだろう。


「なんとかならないの?シチロー」

「う~~~ん……」

「てか、いつになったら出られるの?あたし達……」

「う~~~ん…………」

「新しい作戦とか無いの?」

「う~~~~~~ん………………………………


………………………………………………………………とりあえず寝る!

今日は疲れた………………」

「・・・・・・・・・」


さすがのシチローも、今回ばかりはお手上げという事か………



♢♢♢



宮殿の地下収容所での生活は、普段自由気ままに堕落した生活を送っていたチャリパイにとって、苦痛この上なかった。


「またパンとスープだけ……これって何ダイエットなのよっ!」


支給される食事だけでは到底足りない子豚は、食事の度にぶつぶつと文句を言っていた。


「ビール飲みたい……」


牢獄の中では飲酒など有るわけもなく、『底無しビール大好き人間』なひろきには堪えがたい毎日である。


「あれから何日経ったのかしら……ここって陽の光が全く入らないから、時間の感覚が分からなくなってくるわね……」

「イベリコはどうしてるんだろう……きっと、落ち込んでいるだろうなぁ……」


床一枚隔てた場所ながら、上の情報は殆ど入っては来ない。てぃーだの疑問に答えるならば、チャリパイが牢獄に入れられてから3日が経過していたが、その間にブタフィ将軍の王室乗っ取り計画は着々と進められていた。




♢♢♢




「各国からの祝辞の順番はいかが致しますか?将軍」

「そうだな……おかしな誤解を生まぬようABC順にしておけ!それより、この私の衣装は少し地味ではないのか?」

「分かりました!それでは将軍のお好みに合う衣装に変更するよう、係の者に伝えておきます!」

「ん、頼んだぞ!なにしろのだからな!」


イベリコに婚姻承諾書のサインをさせてから、ブタフィはすぐに行動を起こした。

二人の婚約発表会見の日を一週間後とし、世界中の主なメディアに招待状を送ったのである。未だにこの婚姻に反対する王室の大臣達に対し、これは大いなるプレッシャーとなるはずである。


ブタフィとイベリコの婚約発表会見が全世界に衛星でテレビ中継されるとチャリパイの四人が知ったのは、会見を三日後に控えた日の事だった。


「ちょっと!それ、ホントなの?」

「本当だよ、牢の看守をしている兵が話しているのを聴いたんだ。

『将軍が王室に入れば、軍の待遇も今より良くなって自分達の給料も上がるんじゃないか』って嬉しそうに話してたよ!」


シチローの話を聴いて、ロースが悔しそうに舌打ちをする。


「クソッ!あの身勝手なブタフィのやりそうな事だ!

全世界に告知されれば、王室だって面子がある。簡単には覆せないかもしれない」


「シチロー、すぐにでもここを脱獄しないと!何か作戦はないの?」


婚約会見まで、あと三日の猶予しか無いのだ。映画での脱獄シーンなどでよく観るような、床から穴を掘って毎晩密かに少しずつ掘り進める……なんて、悠長な事はやっていられない。シチローは、なんとかこの牢獄から脱け出す方法を考えるのだった。


そして、考えに考えた結果……


「よし、作戦の決行は今日の深夜3時……成功の鍵はすべて…………………………………………コブちゃん!君の両肩に懸かっている!」

「えっ?・・・・私・・・・?」


シチローが立てたその作戦とは……….…?


って、それどういう事よ?」


全く意味が分からない……といった表情の子豚に対し、シチローはもう少し分かりやすく説明を付け加えた。


「コブちゃん、確か君は使だ!」

「あっ、そう言えば………そんなこと、すっかり忘れていたわ!」

読者諸君は覚えておいでだろうか?

実は、この子豚はプチ・サイコキネシスの特殊能力を持っているのだ。

その能力を発揮したのは、チャリパイ番外編『~国家組織に立ち向かえ~』                      https://kakuyomu.jp/works/16818023213742130350

のみであり、子豚がそんな特殊能力を持っていた事なんて、作者でさえすっかり忘れていた位である。


サイコキネシスの前に『プチ』が付くのは、その能力の規模がかなり地味である事……つまり、サイコキネシス(念力)と言っても手を触れずに動かせる物は巨大な岩とか人間などの重い物では無く、頑張ってもせいぜい1キロ位の軽い物が精一杯なのだ。


「……という訳で、コブちゃんには看守の隙をついてこの牢の鍵を念力でここまで運んで貰いたいんだ」


牢の鍵は、昼間は看守がいつも腰のベルトに括り付けて持っているのだが、その鍵が看守の手から離れる時間帯が一日に一回だけある。


看守も一日中起きている訳では無く、夜になると寝てしまうのだが、この牢獄の看守は、いつも牢の前にある椅子に座って寝ているのだ。その際、ベルトに付けた鍵の束が邪魔になるのか、看守は鍵の束を椅子の側の壁に付いているフックに掛けてから眠りに就くのだ。


シチローは『作戦決行は深夜3時』と言ったが、勿論この場所に時計などは無い。要は、看守が眠りに就き熟睡してしまってからという事だ。


「よ~し!みんな、私に任せてちょうだい」




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