第27話 子豚の超能力

宮殿地下牢獄


深夜……


薄暗いランプの光だけが灯る牢獄の鉄格子の中、一つの人影がむっくりと起き上がった。


「そろそろ時間だ。みんな、起きてくれ!」


続いて、次々と人影が起き上がる。


「う~ん……時間なの?」

「いよいよ作戦決行ね!」

「そうだ、全員目が覚めたか?」

「コブちゃんがまだ寝てますけど……」


おい……


肝心要の子豚を揺り起こし、いよいよチャリパイは地下牢からの脱出作戦を開始した。まずは、シチローが看守の様子と鍵の場所の確認にかかる。と言っても、確認するまでも無い。看守は気持ち良さそうに寝息を立てていて、簡単には目覚める様子では無かった。そして鍵はいつもの定位置、壁のフックに掛けられていた。


「よし、ここまでは予定通りだ!コブちゃん、よろしく頼んだぞ!」


みんなの期待を一心に集め、子豚は開口一番に言った。


「みなさん、こんばんは!です!これからみなさんに奇跡の瞬間をお見せしましょう!」

「変な自己紹介はいいから!看守が目を覚ます前に、早く片付けよう!」


シチローに急かされ、鍵に一番近い鉄格子に陣取った子豚は精神集中の為に大きく深呼吸をした。


「久しぶりだから上手く使えるかしら……」

「大丈夫、きっと上手くいくよ!」

「作戦の成否はコブちゃんに懸かっているわ!頑張って!」


小さい声ながらも皆の声援に支えられ、子豚は壁の鍵に向かい精一杯の『念』を送った。


「う~~~~ん」

「頑張れ~~コブちゃん!」


チャリパイが閉じ込められている牢獄の鉄格子から鍵までの距離はおよそ5メートル……その鍵をなんとか手の届く所まで引き寄せようと、子豚は強く念じた。


「動けぇ~~う~ご~け~~!」


すると、壁のフックに掛かっていた鍵が僅かに震え出しカタカタと音をたて始めた。


「おっ!キタ――――もう少しだよ、コブちゃん!」

「コブちゃん、ガンバレ~~」

「鍵が浮いたわっ!コブちゃん、あと少しよ!」

「ムキイィィ~~~~~~!」





♢♢♢





……そして、翌朝…………目を覚ました看守は、牢獄の鍵が何故か自分が座っている椅子の脚元に落ちている事に気が付いた。


「おや、何で鍵がこんな所に落ちているんだ?」


あり得ない場所に落ちている鍵を拾い上げ、首を傾げながらまじまじとそれを見つめる看守は、急に何やら嫌な胸騒ぎに襲われ勢いよく椅子から立ち上がった。


「ま、まさか!」


そして、急いでチャリパイとロースが入っている牢獄の中へと目を向けると……



「なんだ……ちゃんといるじゃ無ぇか。驚かせやがって!」


「コブちゃん、あとチョットだったのに……」

「私、お腹が空いてるとあの能力が半減するって事忘れてたわ……」


毎日、僅かなパンとスープでは『コブ・ゲラーの奇跡』を起こすのに十分では無かったようだ。






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