第25話 投獄①

「わぁ~っはっはっは~~っ、残念だったなあ~お前達。所詮、お前達たった四人で我が軍に敵うはずなど無いのだあ~~」


形勢が逆転したと判ると、とたんに調子づくブタフィ将軍。


「フン、さっきまで泣いて命乞いしてたくせによく言うわよ!」

「う、うるさい! あれはお前達を油断させる為にわざとだな……」

「苦しい言い訳ね……」

「やかましい! お前達、少しは今の立場をわきまえんかっ! 形勢は完全に逆転したんだぞ!」


ブタフィ軍の兵士に銃を突き付けられながらも、そんな憎まれ口を叩けるチャリパイの度胸はさすがである。しかし、ブタフィの言う通り形勢は完全に逆転した。

『袋の鼠』という言葉がぴたりと当てはまるように、今のチャリパイの置かれている状況は最悪と言える。


「そんな事より、おいそこのお前! さっきのスマホをよこせ!」


突然、思い出したようにブタフィはシチローに向かって、スマートフォンを要求した。それはそうであろう。あの映像の存在はブタフィにとって目の上のタンコブ、

一刻も早く処分しなければならないものである。シチローも、これを拒否する事は不可能だと感じたのだろう。渋々ポケットからスマートフォンを取り出し、ブタフィに手渡した。


「あの映像を消したいんだろ?やり方を教えるよ。まず、左下の『メニュー』のボタンを押して……それから……」

「その必要は無い」


グシャ!!


「ああああぁぁぁ~~~~っ!!」


シチローの悲痛な叫び声が、部屋中に響き渡った。ブタフィがシチローのスマートフォンを床に叩きつけて踏み潰したからだ。


「酷ェ!のに! やいブタフィ、何て事しやがる!オイラのスマホ壊しやがって!」

「そうだよ!スマホ壊すなんてサイテー!!」

「ひとこと余計だ、ひろき! オイラのだったらいいのかよっ!」

「えっ、なんで怒るの?あたし味方してあげてるのに……」

「今のが味方って言うのか! あれ、いくらしたと思ってるんだっ!」

「そんなの、あたしのじゃないから知らないもん!」


「お前達、誰に向かって怒っているんだ……?」


ちょっと間の抜けた二人の抗議に対し、ブタフィは少し困惑していたようだったが、すぐに気を取り直しシチローにこう告げるのだった。


「そんなに激怒する事もあるまい。何故ならこの後処刑されるお前達にはもうスマホなど必要の無い物だからだ!」

「処刑?」


チャリパイの驚いた顔が、一斉にブタフィの方へと向けられた。

その顔を満足に見回しながら、ブタフィは後を続ける。


「私に対してかつてこれ程までに歯向かったのは、お前達が初めてだ!それ相応の裁きをせねば軍に対して示しがつかん!」

「………………」


辺りには重苦しい沈黙が漂った。中でも一番辛辣な表情をしていたのは、チャリパイの四人よりもむしろイベリコの方だった。


(私のせいで…………)


自分がサムライなどを捜しに日本へと行ったばかりに、この四人をこんなにも酷い目に遇わせてしまった。イベリコにはそれが、悔やんでも悔やみきれなかった。



♢♢♢



チャリパイを怖がらせてやろうと思ったに違いない。ブタフィが、ニヤリと笑みを浮かべながらこんな話を始めた。


「この国の処刑には電気イスは無い。銃殺か毒殺か、それとも絞首刑か……お前達はどれがお好みかな?頭をふっ飛ばされるのと、血ヘドを吐いてのたうち回るのと、息も出来ずにもがき苦しんで死ぬのではどれが良いのだ?…クククッ」

「ヒッ、ヒエェェ~~~ッ!」

「ねっ!どれ? コブちゃん、どれがいい?」

「全部イヤに決まってるでしょ!」

「わざわざ口にする事じゃ無いわよね……ホント嫌味なヤツ……」


冷酷な権力者ブタフィの逆鱗に触れてしまった為に『処刑宣告』を受けてしまったチャリパイ……日本ではおよそ考えられない事だが、ここは日本から遠く離れた独裁軍事国家である。理不尽だろうが今のブタリアの実権を握るブタフィの決定は絶対である。


すっかり意気消沈するチャリパイの前には、銃を構えた兵士が数人……

このまま何の抵抗も出来ずに、シチロー達はこの地で命を落としてしまうのだろうか……


と、その時だった……


「待ちなさい!ブタフィ将軍!」


その声のする方を振り返ってみると、そこには例の『婚姻承諾書』を掲げて厳しい顔をしたイベリコの姿があった。


「あなたの望んでいる承諾書にサインをしたわ! 取引をしましょうブタフィ将軍!

……今すぐその方達の処刑宣言を撤回しなさい! さもなければ、この承諾書を破り捨てます!」


そう言ってイベリコは、婚姻承諾書の上部右端と左端をそれぞれの手で持ち、すぐにでも用紙を真っ二つに破れる体勢を取った。それを見たブタフィが、短く舌打ちをする。


(さんざん苦労して署名させた承諾書を破られたら、次にまたサインさせるのは一苦労だ……)


「まったく……色々と注文の多いお姫さまだ……わかりましたよ!この不届き者達の処刑は取り止めましょう! おい、誰かこの者達を牢にでもぶちこんでおけ!」


ブタフィは、渋々この取引に応じた。


ブタフィの命令を受けチャリパイを取り囲んでいた兵士達は、すぐさま四人の腕を取り部屋の外へと連れ出す。


「処刑は取り止めますが、これだけの事をやってのけた奴らを無罪放免という訳にはいきません。私にも立場というものがありますからな!」

「わかったわ……」


とにかく、チャリパイの命が助かった事にイベリコはほっと胸を撫で下ろした。


(ロース…そしてあの人達の命には代えられない………たとえ望まぬ者との結婚だとしても、今の私にはこれしか方法が無いのよ……)


一方、地下の牢屋に連れられている途中のチャリパイは


「さっきの紙って、一体何だったのシチロー?」


ひろきの質問に、シチローは悔しそうな表情で答えるのだった。


「結局、オイラ達はサムライどころか、だったって事さ!」




♢♢♢



「ほらよっ! ここで大人しくしているんだな!」

「イテッ!」


兵士は、チャリパイの四人を乱暴に牢屋の中へと放り込んだ。牢の中は薄暗くてじめじめしている。それに、何だかカビ臭い嫌な匂いもしている。


「うぅぅ~~っ最悪! なによこの場所~~っ!」


鼻を摘まんであからさまに顔をしかめるひろき。当然、子豚も思いきり不愉快そうに文句を言う。


「なんで私達がこんな所に閉じ込められなきゃいけないのよっ!ってのよ!」

「ビール飲ませろっ!」

「トンコツラーメンとイケメン出せ~~っ!」


すると、肩を組みながら拳を振り上げて猛抗議をする二人に割り込むように、てぃーだが不意に呟いた。


「あれ、コブちゃん…イケメンがいるわよ……」

「えっ?」


てぃーだに言われてよく周りを見てみると、牢屋の中にはチャリパイの他に、既に

一人の『先客』が入っていた。


驚くチャリパイの四人……しかし、その先客の男の方は四人よりもさらに驚いた顔をしていた。


「イベリコ!……君はイベリコじゃあないか!」


牢屋の中にいた男……それはイベリコの恋人、ロースであった。


「イベリコ……何故君がこんな所に?……そうか! 君が結婚の話を断ったものだから、ブタフィは君をここへと閉じ込めたって事か! よりによって我が国の姫君を牢獄へ監禁するとは……だが、心配は無いよイベリコ! 君の事は絶対に俺が護ってみせる!」


そこにいるのがイベリコに似ているだけの子豚だとは全く知らないロースは、思いもよらぬ愛する者との再会に感激し、次の瞬間にはいきなり子豚を抱きしめていた。


「イベリコ!」

「ちょ、ちょっと……」


あまりに突然の事に戸惑う子豚だったが、しかしロースがなかなかのイケメンだったので、これといって抗う事もしない子豚。かわりに、周りの三人がロースと子豚を引き剥がしにかかる。


「違うんだよ! 彼女はイベリコじゃあ無いんだ!」

「顔はそっくりだけど別人なの! だからちょっと離れて!」

「なに?」


目の前のこの女性がイベリコでは無いと言われても、どこから見たって彼女はイベリコではないか!そう思ったロースは、それを確認してみた。


「君がいつも心に留めている、好きな『格言』は?」

よ!」

「どうやら、らしい……」


あっさりと子豚に背を向け、ロースはそう呟くのだった。















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