第24話 チャリパイvsブタフィ軍③

「さあ、敵の戦力は大幅に減少した!これからイベリコ救出に宮殿へと乗り込むぞ~~っ!」

「オオォォ~~~ッ!」


抜け穴の中で拳を高々と振り上げ、気合いを入れるチャリパイの四人。


落とし穴と同時進行で掘り進めたこの抜け穴は、宮殿のすぐ真下まで続いていた。


そして、怒りに任せてほとんど全ての兵を放出してしまった宮殿のブタフィ軍は、わずかな兵士を残すばかりだ。これで戦力は互角。いや、今の勢いであればチャリパイの方に分があるといえるだろう。油断していた宮殿内の兵士の目の前に突如現れたバカ殿姿のチャリパイ四人組。戸惑う兵士が銃を構えるその前に、先手必勝てぃーだの琉球空手が炸裂する!


「リャアアアァァ~~~ッ!」


怯んだ兵士に、すかさず子豚のボディアタック!


「とりゃああぁぁ~~っ!」


そして、加勢の為に階段を降りてくる兵士達には……


「ひろき!そっちの端持て!」

「せぇ~~~のっ!」


シチローとひろきの二人で、階段に敷いてある絨毯を引っ張り上げ、数人の兵士をいっぺんに片付けるコンビネーションプレイ!素早い奇襲攻撃で、あっという間に宮殿内の兵士達をたった四人で片付けてしまった。


「ヤッタネ、シチロー」

「さあ、イベリコが上で待ってる!みんなで迎えに行こう!」


残す敵はブタフィ将軍のみ。その敵の大将を倒す為、そしてイベリコとの約束を果たす為に『最後のサムライ』チャーリーズエンゼルパイの四人は、イベリコとブタフィのいる二階の王家専用特別室へと向かって行った。



♢♢♢



ドアの外の騒がしい物音に、部屋の中にいたブタフィもようやくこの異変に気が付いた。


「おい!いったい何の騒ぎだ。騒々しい!」


ドアのすぐ外に立っているはずの見張り兵に問いかけてみるが、返事は返ってこない。


「おい!何があったかと聞いているんだ!」


すると、その問いに答えるように部屋のドアが勢いよく開いた。しかし、ドアを開けたのは見張り兵では無かった。


「チャーリーズエンゼルパイ只今参上~~!」


ドアの前に立ち、まるで戦隊物のヒーローのように揃ってビシッとポーズを決めるチャリパイの四人。但し、格好がバカ殿なので本人達が思っているほどかっこいい訳でも無いのだが……


「ば、ばかなっ!なぜお前達がここにいるんだ!」


双眼鏡でチャリパイが逃げて行くのを見ていたブタフィには、この状況は信じられない事であった。


「ヘヘ~ん、ヘリ部隊が追いかけていったのは、おとりの方だよ!おそらくあと30分は戻ってこないだろうさ」


自分の立てた作戦が思いのほか上手く運び、自慢気に胸を張るシチロー。


「クソッ!誰かいないのか!この四人を早く捕まえろっ!」


ブタフィが声を張り上げるが、宮殿に残っていた数少ない兵士は既にチャリパイが制圧しており、形勢は完全に逆転していた。大声で喚くブタフィを四人で取り囲むと、腕組みをしたシチローが勝ち誇ったように言った。


「いくら命令したって、誰も助けに来ないよ。ブタフィ将軍!お前の悪巧みは完全に破綻したんだよ!もう観念するんだな」

「た、助けてくれ!どうか命ばかりは……殺さないでくれぇ~!」


あの独裁者、ブタフィ将軍が態度も一変、まるで捕らえられた小動物のように震えていた。


自分が今まで行ってきた非道の数々……それらを振り返ってみれば、立場が逆転した今ブタフィは、ヒットラーやフセイン大頭領そしてガダフィ大佐のように殺されるものだと思ったに違いない。しかし、そんなブタフィの様子を見たシチローは……


「殺す?さぁ、それはアンタの心がけ次第だと思うなぁ~。その為には、アンタには色々宣言してもらわなきゃならない事があるんだ」


そう言うと、ポケットからスマートフォンを取り出しブタフィにこんな命令をする。


「まず、イベリコとは結婚しない事。それから、軍の将軍の役職を辞任する事。この二つを宣言してもらいたい!」

「宣言だと!なぜ私がそんな事をっ!」

「オイラはアンタの為を思って言ってるんだけどなぁ~判断するんだね、ブタフィ将軍!」


シチローは、ブタフィを殺すつもりなど全く無いのだが、疑心暗鬼でいるブタフィの前では敢えてそんな事は言わない。結局、ブタフィはシチローの出した条件を飲む他に無かった。



♢♢♢



「ブタリア国民の皆さん。え~~突然ですが、私、ブタフィは諸事情により本日をもってブタリア軍将軍の職を辞する事を皆さんに報告致します!!え~と、それから……一部の国民の間で、私とイベリコ姫が近々結婚をするのではないか?……などという噂がまことしやかに流れているようでありますが、それは全くのデマであり、そのような事実は一切ありません!」


「ハイ、カァ~~ット!!」


ブタフィの演説をスマートフォンの動画に収めたシチローは、満足そうに笑みをこぼした。


「よしよし、これで完璧だ!」


演説の台本を書いたのは、シチロー。これをブタフィに読ませ、証拠としてその模様をスマートフォンの映像に残す。あとで『そんな事を言った覚えは無い』などとブタフィに言わせない為だ。


「やいブタフィ!もしイベリコを困らせるような事しやがったら、この映像はすぐにでもブタリアの全国民の前に公表するからな!もう身勝手な野望を企てる事は諦めるんだな!」


まるで『水戸黄門』の印籠のように、映像の映った自分のスマートフォンを見せつけ、ふて腐れ顔のブタフィを睨み付けるシチロー。そして一変、その表情を優しい笑顔に変えイベリコの方へと向けると、穏やかにこう言った。


「さあ、これでオイラ達の仕事は終わったな。あとはイベリコ。君がこの国を立て直す番だよ」

「はい!チャリパイの皆さん、本当にありがとうございました!いつかシチローさんは『ニッポンにはもうサムライはいない』と言っていましたが、そんな事はありません。この国を救ってくれたチャリパイの皆さんは、私にとって紛れもない正真正銘の『サムライ』です!」


真っ白な『バカ殿』メイクに金ぴかの羽織姿……どう見てもあの凛々しい侍とは似ても似つかないチャリパイの四人ではあったが、それでもイベリコは心の底からそう思ったのだ。


「それじゃあ~ブタフィの弱味も握った事だし、ヘリ部隊が戻って来る前にオイラ達は逃げるとするか」

「そうしましょ」


作戦も全て上手くいき、意気揚々なチャリパイの四人。シチローの立てた作戦が、これ程見事に思い通りハマった事がかつてあっただろうか?


「いやあ~、それにしても自分で言うのも何だけどなぁ~」


愉快そうに今までのいきさつを振り返り、自慢気に胸を反らせるシチロー。


と、その時だった。


「ねえ、外から何か聴こえない?」


突然、てぃーだが耳に手を当てながら、そんな事を言った。



クゥエエエ~~~!



「ンッ?……何だ、今のは?」


宮殿のすぐ外から聞こえた聞き覚えのある鳴き声に、チャリパイの四人は揃って窓際に駆け寄った。


「あっ!!!」

「見て~コブちゃん、ヒゴー達が表に来てるよ」

「ヤッホー、ヒゴ~、~ジモ~ン~、~リュ~ヘ~~あとハゲタ~~」


宮殿の庭には、雄叫びを上げながら走り回るダチョウ達の姿があった。


子豚とひろきは、無邪気にヒゴー達に向かって手なんか振っていたが、その二人にシチローからの呆れたようなツッコミが飛ぶ。


「おい!お前ら呑気に手なんか振ってる場合かっ!ダチョウの前にに気がつけよっ!」

「あ……ホントだ、ヘリが停まってる……」

「今気付いたのかっ!」


シチローの言う通り、予定よりも大幅に早くブタフィ軍のヘリ部隊が宮殿へと戻って来てしまっていた。作戦では、104羽のオトリダチョウがあと三十分は時間を稼いでくれる手筈だったのだが、突然四羽のダチョウが群れを離れ宮殿に戻って来るという予定外のハプニングが起きたからだ。ターゲットを絞り込めずに困り果てていたヘリ部隊は、これ幸いとヒゴー達を追いかけて宮殿へと戻って来た訳である。


「クソッ!ダチョウが戻って来るなんて、とんだ誤算だった!」

「考えてみればこのコ達、イベリコのペットだったのよね……ハゲタは違うけど……」


てぃーだが冷静に分析するが、それよりも今はこの場所から逃げ出す事が先決だ。


「こうしちゃいられない!みんな、早くここから脱出するぞ!」

「イェッサーー!」


ブタフィ軍に捕まれば、今までの苦労が全て水の泡である。シチローは慌てて部屋のドアノブに手を掛けるが…………時は既に遅し…………


「うっっ……!」


ドアを開けた先に立っていたのは、銃を構えた兵士が数人。シチロー達は、その場で両手を挙げる事しか出来なかった。



















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