第3話 スキヤキパーティー
ところ変わって、こちらは森永探偵事務所。事務所では子豚とてぃーだの二人が、買い出しに出たシチローとひろきの帰りを待っていた。
「……遅いわっ!シチローとひろきったら、一体何処で油売ってんのかしら!」
「コブちゃん……そんなにイライラしないで、ちょっと落ち着いて座ったら?」
子豚がイライラしている時は、大抵お腹が空いている時である。スキヤキの具材の買い出しに出掛けたシチローとひろきの二人を、部屋中をグルグル歩き回りながら今か今かと待つ子豚。そんなに歩き回っていたら、余計に腹が減るだろうと思うのだが、じっとしてはいられないのだろう。
テーブルの上には、既にコンロと鍋、そしてビールとグラスの用意も出来ており、二人が来ればすぐにでもパーティーが始められるようになっていた。
「もぅ~!二人共どこにいるのよっ!電話してみようかしら!」
子豚の空腹も我慢の限界に来たらしく、スマートフォンでシチローを呼び出そうとしたちょうどその時、ドアの外からシチローとひろきの声が聞こえた。
「ただいま~~」
シチロー達の声を聞き、真っ先に玄関前に駆けつけたのは、勿論子豚。
「ただいまじゃ無いわよ!アンタ達、いつまで待たせるつもり………」
シチロー達に文句の一つでも言ってやろうと、勢いよくドアを開けた子豚だったが、そんな子豚の前に立っていたのは、自分と瓜二つの容姿を持つイベリコの姿であった。もし、アナタの目の前に突然自分とまったく同じ顔をした人間が立っていたとしたら?
そんな事態が今まさに、子豚の目の前で起こったのである。
玄関のドアを開けたまま、動きが止まる子豚……そして、イベリコを見つめる目は段々と細くなり、ついには左右二本の線のようになっていった。子豚がこんな目をする時は、彼女の思考回路がフル稼働している時である。その様子は、想定外の操作によってフリーズしてしまったパソコンに似ている。
そして、次の瞬間。子豚は目の前のイベリコに向かって、まるで鏡の前でするように、作り笑いをしてみたり、手を振ってみたりするのだが……あいにく鏡では無いので、イベリコがそれに追従する事は無かった。そんな子豚の様子を見て、ドアの外ではシチローとひろきが声を殺して笑い転げていた。
「ヒィッ…ヒィ~可笑しぃ~~」
「コブちゃんのあの顔~~」
そして、子豚の目はますます細くなり……そのまま、再びフリーズ。
「………………………」
そのまま、約三十秒ほどの時間固まり続けた後に……
ついには、白目をむいて後ろに倒れてしまった!
「わああ~っ!コブちゃんが気絶した!」
慌てて中に入り、子豚を支えるシチロー。ちょっぴりイタズラが過ぎたと反省……まさか、ここまで効果てきめんだとは、シチロー達も考えてはいなかったようだ。
♢♢♢
「幽体離脱しちゃったかと思ったじゃないのよ!」
スキヤキパーティーが始められるとすぐ、事のいきさつを聞かされた子豚が、シチローに対して大声でキレまくっていた。
「ハハハ、まさか、気絶するとは思わなかった」
対するシチローは、それ程悪びれずに、鍋に肉を放り込みながら笑って答えた。
「ごめんなさい、コブちゃんさん……」
と、代わりに申し訳なさそうに謝るイベリコに、てぃーだが慌ててフォローを入れる。
「いえ、イベリコが謝る必要は全然無いのよ……それにしても、本当にそっくり!二人並んだら、どっちがコブちゃんか判らないわ……」
てぃーだが子豚とイベリコの顔を見比べて感心していると、突然思い出したように
ひろきが子豚に尋ねた。
「ねぇ~コブちゃん、好きな四文字熟語って何?」
「いきなり、なによそれ?………そうねぇ~『牛丼特盛』とか」
「やっぱり!」
シチローとひろきが声を揃え、顔を見合わせてニヤける。そしてそんな二人を見て、イベリコも楽しそうにクスクスと笑うのだった。
♢♢♢
いつもは四人で行う宴会も、今日はイベリコを交えいっそう賑やかだった。
「ビールおかわりぃ~」
「どう、イベリコ?スキヤキの味は?」
「ええ、ニッポンのスキヤキ初めて食べました。とってもおいしいです!」
スキヤキ鍋を囲み、ビール片手に談笑。今日、初めて会ったばかりの日本人にこんなに親切にしてもらい、こんなに楽しい時間を過ごせて、イベリコも嬉しかったに違いない。だがそんな和やかな雰囲気の中、少しほろ酔い気分のひろきが、思い出したようにイベリコに向かって口をすべらせた。
「そういえば…サムライを捜して国を救って貰うって言ってたけど、イベリコの国で何かあったの?」
「ひろき!」
途端、シチローがひろきの腕を、肘でつついた。
日本には、もう侍はいないと聞いた時のイベリコの悲しそうな横顔を見てから、意識してその話題を避けていたシチローにとって、今のひろきの質問は少し余計であった。
「……………」
案の定、イベリコは表情を曇らせていた……そして、ひろきの質問に対して、こんな話を語り始めた。
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