第4話 ブタリア王国

「私の国『ブタリア』の国王が、先月病気で亡くなってからの事です……

ブタリア軍の将軍『ブタフィ』は、武力で国を制圧し国民の生活をメチャクチャにしてしまいました。

税金を勝手に上げたり、軍部を批判する者を捕まえて処刑したり……

国民は、ブタフィ将軍に怯えながら今も不自由な暮らしに苦しんいるわ……」

「典型的な『軍事政権』ね……酷い話だわ!」


イベリコの話に、てぃーだが飲み干したビールジョッキをテーブルに置き語気を強めた。


「ニッポンの強いサムライに国を救ってもらうって、そういう事かぁ……」


シチローも今の話を聞いて、何故イベリコが侍を捜していたのかを理解した。しかし、残念ながらそのイベリコの希望を叶えてやる事は不可能である。


仮に、イベリコの言う『サムライ』が本当に存在していたとしても、国を掌握した軍事政権が相手となれば、まるで相手にならないであろう事は、日本人のシチローからしてみれば明白であった。


しかし……


「よし!じゃあ~チャリパイがその将軍をやっつけて、平和な国を取り戻すぞぉ~!」


酔っぱらいのひろきには、そんな常識は通用しないらしい。


「簡単に言うなよ……一国の軍隊相手に、オイラ達がかなう訳ないだろ……」

「そうなんだ……ガッカリ!」


シチローがひろきのKYな発言をなだめると、てぃーだがイベリコに対し申し訳なさそうに謝る。


「ごめんなさいね……イベリコ、アタシ達じゃ何もお役に立てなくて……『国連』あたりが動いてくれると良いんだけれど」

「いえ……私の方こそ、せっかくのスキヤキパーティーなのに暗い話なんかして……どうか、私の事には構わずパーティーを続けましょう」


自分達の国の事に、関係の無いチャリパイの四人に要らぬ心配をさせまいと、イベリコはイベリコなりに気遣っての発言だった。


「そうよ!イベリコ……せめて今夜は辛い事は忘れて、スキヤキいっぱい食べるのよ!」


子豚が、イベリコの器を手に取り、どんどんと肉をよそって言った。自分と容姿がそっくりなイベリコなら、食べる事が何よりの気分転換になるのだろうと子豚は思っていたに違いない。


「そうだな、暗い話は今日は無しだ。さあ~また飲み直そう~」


シチローがビールジョッキを手に、明るく笑って見せた。



♢♢♢



ところ変わって、ここは外国人VIP御用達の某高級ホテルのロビー……非公式で姫と共に、この日本に訪れていたブタリア王国侍従長は苛立っていた……


「ええい!姫はいったい何処に消えたのだ!…国王亡き後、王位の継承権を持つ姫を狙って軍部の者が来日しているとゆう情報も入ったというのに……」


ブタリア王国は、純然たる王政国家である。圧倒的軍事力の行使で、実質的な政権の掌握を果たした『ブタフィ』将軍ではあるが、ブタリア王国を統括する正式な権限は依然国王にある。


そして、国王亡き現在の王位は、国王夫人、あるいは国王の血を受け継ぐ子供に継承される事となるのだが、国王夫人は五年前に既にに死去。その為現在の王位継承権は、一人娘であるこの国の姫のみが有していた。


侍従長の苛ついた様子に少し言いづらそうに、部下がこんな言葉を伝える。


「さあ……姫はお出掛けの際、確か『サムライを捜しに行く』とかおっしゃってましたが…」

「何を言っとるか!サムライなど、今の日本にいる訳が無いではないか!……それで、姫は今どこにいらっしゃるのだ!」


「いえ、それが……ちょっと目を離した隙に、どこかへ消えてしまいまして………」


そのブタリア王国の王位を継承する姫が、今頃チャリパイの四人とスキヤキパーティーをしているとは、この二人には想像も出来なかったであろう。


日本へ『サムライ』を捜しにやって来たという、子豚にそっくりのイベリコが、実はブタリア王国の王位継承者であった。


そのイベリコは、付き添いの護衛達の目を盗んで単独行動に走り、今は森永探偵事務所でチャリパイの四人と一緒にスキヤキパーティーの真っ最中である。


そして、ブタフィ側の軍部の者がイベリコを捜して来日しているという情報……


これは何だか、波乱の匂いがプンプンと漂ってきそうな気配がしてきた。










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