父、創造神に話をする

 まずは、白蛇のところに挨拶に行った。

 先日の稲荷の山で見つけた女性のこともそうだが、白蛇の土地でも起こったことについても、伝えておかなければならなかったからだ。

 白蛇の村はかなり山奥にあるせいもあって住人は老人ばかりだが、若者も数人いる。そのほとんどが白蛇の眷属だ。



 古い家が数戸しかない村の中で、白蛇の屋敷は、濃紺の瓦葺の屋根の大きな家屋でとても目立つ。

 稲荷は引き戸の玄関の前でチャイムを鳴らすも、反応はない。


 ――もしや、留守か。


 玄関先で考え込んでいる稲荷だったが「三己さんのところに用事ですか?」と、30代半ばくらいの女性が声をかけてきた。


「ええ……って、お前は白蛇の眷属か」

「はっ! も、もしや白狐様で……し、失礼しました」


 稲荷の言葉に、慌てた女性の目が爬虫類の目に変わった。


「白蛇は留守かい?」

「は、はい、旦那様と一緒に白鶴様のところの温泉に……」


 白鶴というのも神の一柱。白蛇の土地からは、電車と飛行機で乗り継がねばならないくらいに離れている。


「なるほどねぇ。まったく、この時期にとは。タイミングの悪いことで」

「え、えと、何かございましたでしょうか」


 稲荷の苛立ちが伝わったのか、女性はカタカタと震えだす。


「この地に歪みが現われました。どうも、貴女たちは、気付いていなかったようですね」

「ゆ、歪み、ですか」

「ふーむ、お若い貴女ではわかりませんか……仕方がない。先日、うちから女が一人、お邪魔したでしょう。一応、そのお礼にこれを」


 一升瓶を二本差し出し、女性に渡す。

 

「白蛇に、戻ってきたらうちに顔を出すように言ってくれるかい」

「は、はい、畏まりました」


 深々と頭を下げている女性をよそに、稲荷はその場から『とある場所』へと転移した。



 稲荷が現われたのは、真っ白な空間。ここは地球の創造神がいる空間だ。

 周囲には誰もいないのに、存在感のある多くの何かと、ザワザワと声のようなモノが聞こえてくる。騒めきの多くは、地球の世界の神々たちだ。


 ――いつものことながら、こうも多いとお声掛けするのも難しいですか。


 困って立ち止まっていた稲荷だったが、急に周囲の騒めきが止まった。


『おや、稲荷が来るとは珍しい』

「お久しぶりです」


 姿のない創造神の落ち着いた男性の声が耳に届いた。

 創造神の意識が、稲荷に向いたせいで、他の神々も耳を澄ませているようだ。

 

『すっかり、イグノスちゃんのところに居ついてるもんだと思ってたよ』

「いや、ちゃんとうちの土地にも居りますよ」

『そうなのー? この前、イグノスちゃんに会った時、散々、自慢話されたんですけど』

「あはははは……」


 ――イグノス様は、何を言ってくれてんだ!


 内心、怒りながらも、笑顔を張り付かせる稲荷。


『冗談はさておき、わざわざ稲荷が来たのだ。用件を聞こうか』


 創造神の真面目な声に、ホッとする稲荷。そして自分の土地と、白蛇の土地で起きた異世界と繋がった出来事について伝える。

 すると、一気に白い空間に怒りの熱が広がった。

 それは創造神だけではなく、他の神々からも溢れている。どうも他所でも似たようなことがいくつか起きているようだ。


『随分となめたことをするねぇ……わかったよ。こんなことをするのは、%$〇と、&&$#■と&$▼%●のところだろうね。フフフ、ちょいとばかり、痛い目を見てもらおうか』


 目には見えないものの、創造神が獰猛そうな笑みを浮かべているのが頭に浮かんだ稲荷。


 ――うちの創造神様を怒らせるなんて、馬鹿なことを考える神がいるもんだよ。


 その時、顔を引きつらせていたのは稲荷だけでは、なかったかもしれない。


           + + + + + + + +


 ここまでお読みくださり、ありがとうございます。

 『大地、入寮の時の話』はここまでです。

 また別の話が出来ましたら、投稿させていただきます。

 気長にお待ちください。<(_ _)>

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稲荷余話 実川えむ @J_emu

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