大地、入寮の時の話
息子、高校の寮に入る
日本には『八百万の神』が存在する。
俺の父親も、そんな『八百万の神』の一柱だ。
「大地、寝ててもいいぞ」
「ん」
黒のミニバンのハンドルを握っているのは、キャンプ場のオーナーという仮の姿を持つ父親。稲荷寿司、と名乗っているけれど、神としては大きな白い狐の姿をしている。
母親はこことは異なる世界に住むエルフ。若い頃に日本のあるこちらの世界に迷い込んで父親に出会い、惚れ込んで結婚したらしい。
――そんなにイケメンでもないのに。
自分そっくりの父親の顔に言うことでもないけれど。
俺の名前は、稲荷大地。日本では外見年齢15才ということになっているが、実際は64才。
母親の世界ですでに学校は卒業はしているが、父親の世界でも学ぶべきだろうと言われて、中学校に通ってみたら思いのほか面白くて、高校に進むことにしたのだ。
――大学は、そのうち考えよう。
父親からは先のことは何も言われていない。
このまま高校生活を経験するだけで、そのまま父親の仕事(キャンプ場も含め)を手伝うようになっても構わないとは思っている。
父親の言葉に素直に目を閉じたが、次に目を覚ました時には目的地に着くまであと少し、というところまで来ていた。
目的地は俺の入学する高校の学生寮だ。高校は共学で全寮制の学校だった。
父親と一緒に寮全体を管理するおじさんに挨拶をする。ここの寮は男子寮、女子寮、それぞれに寮母さんがいるらしい。
俺たちは壁に貼られた館内の地図を見る。
コの字型の寮は地下1階と地上5階の建物になっているようだ。南側が女子寮、北側が男子寮で、橋渡しの部分が描かれている。
俺の部屋の場所を教えてもらう。俺の部屋は4階の一番奥の角部屋。
部屋は個室だけれど、かなり狭い。ベッドと勉強机、それに細長い片開きの家具。これに服などをしまうのだろう。
「狭っ」
「何言ってる。ここで寝起きして勉強するだけだったら、十分だろ」
「いや、まぁ、そうなのかもしれないけど」
俺と父親、そして着替えなどの入った段ボールを2つほど置いただけなのに、窮屈に感じるのだ。比較対象が、異世界にある実家の自分の部屋だからかもしれないけど、やっぱり狭いと思う。
小さい窓の外はすぐ山の斜面があるらしく、窓を開けると緑の匂いがした。
最後に父親は俺と一緒に男子寮の寮母さんに挨拶をすると、そのまま帰っていった。
「一応、これが食事の予定表よ。毎月配られるので、アレルギーとかあったりしたら教えてね」
寮母さんから渡されたのは、朝食と夕食の献立表。今のところアレルギーはないので、問題はないだろう。神の血筋の俺にアレルギーがあるとは思えないけど。
それから洗濯や風呂のこと等、この寮での生活について説明を受けると、俺は一旦、自分の部屋に戻って片付けをすることにした。
と言っても、荷物はそう多くはないので、すぐに終わってしまった。
隣と前の部屋の住人は今は留守のようなので、後で挨拶をすればいいだろうと、俺は寮の中を探検することにした。
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