第8話「病」
シュカが薬師の家を大慌てで訪ねると、その尋常ではない様子を見て緊急の要件であることを悟った中年の薬師が食事中であったにも関わらず、最低限の荷物をまとめてすぐに来てくれた。
家に着いた薬師は早速荷を広げて、寝床に寝かせられているジュナの診察を始めた。
高熱にうなされている彼女はとても辛そうだ。そして、その頬や腕には、見たこともない赤い斑点が現れていた。
「この赤い斑点は……。まさか!」
薬師は倒れた時の患者の様子やいつ倒れたのかをダンシュに尋ねつつ、持って来た大きな鞄から古い文献を取り出し、目的の情報が載っているページを探し始めた。
「や、やはり……!」
どうやら薬師は目的のものを見つけたようで、文献とジュナの様子を見比べて一人で納得している。
「……これは、重い病気なのでしょうか?」
カーシェがそうではないことを祈りつつ、薬師に問いかけた。
「この病は……遥か昔、碧空の民を苦しめた奇病だと記されています。主な症状として、赤い斑点が集合し、それがまさに燃えるように見えること、高熱が出ることから
「ああ、そんな!?」
カーシェは驚きのあまり声を失って倒れ込みそうになるが、すかさずダンシュが支える。
傍で聞いていたドルナも、悲しみを堪えているのは明らかだった。
「当時から原因については不明、わかっているのは突如発生する奇病であることのみ……。そして、特効薬になるという薬草の在処です」
「それは、どこに!」
声を荒げたダンシュが薬師に問いかける。
「ゲオルキアの白き土地の奥、寒冷な地に薬草となり得る
「白くて寒冷な土地……と言うと、ゲオルキア大陸の北方、白雪の大地が広がるというシャンのことでしょうか。シャンは
カロムが大陸の知識を思い出しながら話す。
「確かに寒い国と言えば、シャンだったな」
ダンシュもかつての記憶を思い出しているようだ。
文献に載っていた国名は現存しないが、氷魂草があるのはシャンの奥地という可能性が高いだろう。
「ゲオルキアとの流通が限られている今、この国で氷魂草を手に入れるのは困難でしょう。今すぐ国の協力を得られる保証もありません……」
薬師が申し訳無さそうに事実を告げる。
「つまり、このまま待って時間を無駄にするよりも、自分たちで採りに行くしかないと……」
薬師がぼかした結論をカロムが代弁した。
「採りに行くって、誰が……?」
ダンシュがゆっくりと皆を見渡した。本当ならゲオルキアに行ったことのある自分が行くのが望ましいと本人も思っていることだろう。しかし、今はそれができない。
不幸なことに、先日老爺を庇って翼を怪我してしまい、完治するまではしばらく飛べなくなってしまったのだ。
カロムは知識豊富で頼りになるが、危険な場所に行かせられない。男手が望ましいと考えると、選択肢は一つしかなかった。
シュカの顔を見るダンシュは、やはり何か言いづらそうにしている。
そんな顔はしないで欲しい。もう決意はできているのだから。
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