第三章 アルシンド・ブルトカール 2
粒を拾い、メブレビは尋ねた。
「どういうことだ?」
「いや、あのな。この蝶は俺や兄がよく使う魔術なんだが、言葉を込めて飛ばすことができるんだ。あ、それやるよ。お前にも使えるから。……ただ、飛ばせる距離に縛りがあってな。だからまあ、一度、アデンに入る必要があった。正面から入らないと蝶が弾かれるかもしれない。だからああして正門から訪ねたわけだ」
「うん」
「俺は宗主の性格は知っている。最初からどうせ、こうなるだろうと踏んでいた。だから、隙を見てアルシンドに飛ばしておいたんだ。事情を聞いてもらおうと」
「そうだったんだ。……よかった」
「よ、よかった?」
「うん」
「怒らないのか」
「怒る? どうして」
「いや、だって。先に話すこともできただろう? きっとお前は怒るだろうと思ってた。正直言うと、先に言おうかどうか迷ってたんだ。事情を話せばお前にも宗主の前で演技してもらうことになるだろう? それはお前の負担になるかと。本当、堂々と言うことじゃ無いが、お前の反応を期待してたところがあったんだ。宗主は俺を嫌ってる。お前という『親戚の年少者』の前で俺が恥をかき、お前がオロオロするのを見れば、宗主の斜めになったご機嫌も直ってさっさと帰してくれると思った」
「最初からあのおじさんを怒らせる気でいたのか?」
「馬鹿言え。俺は奴にいつも敬意を払ってる。なのに、どう会話しても最終的に怒り出すんだよなぁ……。本当だぞ? あの親父が協力してくれたら万々歳だなと思ってたさ。じゃなきゃ、最初からアルシンドを訪ねてる」
「呆れた」
なるほど、そう言う事情か。
説明されれば確かに、自分はアインに怒っていいような気がする。要はちゃっかり、利用されたのだ。
しかも今、アインはメブレビが怒ると思っていながら敢えて黙っていたと言った。
確信犯だ。
「でもいいや、ほっとしたから。よかったねアイン。それにさ、俺って半ば無理やり連れて来てもらったようなものだろう? 出会ってまだ二日なのに、そうやってこっちのことを配慮して謝ってくれるのは嬉しいよ。ありがとう」
「メブレビ、お前……いい子だなぁ」
「あ、あのアイン・アル・ヒッル?」
「あ、ああ。今行く、アルシンド」
まずは例の川、モゴリの妻が命を落とした場所へ。
そして水の魔物を探しつつ、水源付近まで遡る。三人は頷き合った。
「ちょっと待って、鷲を呼ぶから」
アインには背中の長剣があり、アルシンドにも腰から下げた剣がある。
空を渡るため二人が剣を引き抜いたのを見て、メブレビは焦って言った。
「いいよ、メブレビ。こっちに乗れよ。呼び寄せるまで時間がかかるだろ?」
「え、いいの?」
「ああ」
「朝は乗せてくれなかったのに」
大地と並行に、わずかに浮く長剣。すぐ側でその刀身を眺めるのは初めてだった。
青い光を帯びつつ、銀色に輝いている。剣の腹には軽量化する意味があるのか、まっすぐな筋が掘られていて、その両脇を飾るように何やら文字が刻まれていた。
「なんて書いてあるの?」
「魔を以って魔を祓い。信念を貫けと」
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