第二章 赤い石(ヤークート)の謎 6
翌朝のこと。
メブレビは隣を飛ぶアインに向け声を張っていた。
「フラウウが呼んでくれて、さっき友達になったんだ!」
「嘘だろ。本当にそれで海を越えて来たのかよ。とんだ野生児だな」
本日、お世話になっている
アインはと言うと、
「どうもありがとう」
「褒めてないぞ」
「そうなのか? 育ての親がよく言ってたんだけどな、何が起こるかわからない世の中だから野生に放り込まれても図太く生きていける子でなきゃダメだって。さっそく役にたつなんて思わなかったけど」
「親の教え通り、立派に育ってよかったな。嫌味の使いこなし方もバッチリだ。なんで牢から逃げなかったんだよ」
「アインがそれを言うのか? 信用度に加点一してくれるってアインが言ったんじゃないか」
「お前……存外、素直だな。たった一だぞ?」
「一でもないよりマシだ。これからブルトカールでの用事を済ませて今日中にもう数点稼ぐつもりだし。なにより、あの牢番の爺さんを覚えてるか?」
「ああ」
「昨日、戻ったら『ああ、お帰り』って笑顔で言われたんだよ。なんだかあの顔を見たらさ、牢を壊して外へ出るのは申し訳ない気がして……。心が痛んでできなかった」
「へぇ、ああ、そう」
「なんだよ、その態度。ああ、もう怒った。口を利いてやらないから」
「ほら、受け取れ。さっき屋台で買った
「おお!ありがと」
受け取った手がじんわりと温まる。
「でもさあ、アイン。ブルトカールの屋敷がそんなに大きいなら、一昨日、俺にも見えてたと思うんだ。空から見てもそれらしき物は無かったけど」
ブルトカールの屋敷は街の中ではなくベシレ鉱山の山中にあるらしい。
正面に森、背に白砂漠という立地で、アレーレの街に顔を向けるようにして建っている。修行に身を捧げる魔術師達が俗世と隔たった場所に住まうというのはなんとなく納得が行ったのだが、それなら一昨日、近くを通っていなくてはおかしい。
「秘境はそう簡単に見つけられないものさ。道順を知らなくてはたどり着けない」
そう言い残し、アインは速度を上げた。
メブレビは大鷲の鉤爪に乗り進行方向に背を向けているので、視界からアインが消えてしまったわけだが、振り返って確認しようとした途端、アインのいる方から巨大な光の膜が流れて来て顔にぶつかった。
「ぶへっ」
膜はそのまま、風に飛ばされた洗濯物のように空の彼方に流れていく。
「ほら、あれがブルトカール一族の屋敷、アサンだ」
体をねじったメブレビは、眼下の景色に感嘆の声を上げた。
「わぁ……!」
木々の緑を真四角にくりぬいたその中に、夢かと思うような純白の宮殿が
こうして上から見下ろしているにもかかわらず、「聳えている」と言う言葉がそれはしっくり来る、迫力の
陽を弾き、目にも眩しく輝く宮殿。
塔の長さはまちまちで、一見、配置がめちゃくちゃに思えるものの、屋敷の
砂漠を臨む屋敷の裏手には巨大な四角い池がある。この角度では見えないが、あちら側に行けば水の中に宮殿の分身を見ることができるだろう。屋敷の中、
「ブルトカール……。いいところだな」
「いや、行ってから言えよ」
メブレビとアインは高度を落とし、森の中、正面玄関から程近い場所に降り立った。
「お香の香りがする」
大鷲に手を振りながら、メブレビは鼻をひくつかせた。
「ああ。魔術師は意識を集中させたいとき香を焚くんだ」
「だからアインもいい匂いがするんだな。……どうした?そんな渋い顔して」
「俺は籠もって修行するより実地訓練派なんだ。外で香なんていちいち焚いていられない。ただ、周囲が煩いんだよなあ。『服が香っていない者は、よく学んでいない』とか言われるんだぞ。しょうがないから、仕方なくやってる」
「宗主の息子も大変なんだな」
「向こうの門番の視線が痛い。そろそろ行くぞ。っと、ちょっと待てメブレビ。こっちを見ろ」
「ん?」
「思いつく限り精一杯、真面目そうな顔をしろ。そう、そう……よし! それで良い。そのまま行くぞ。あ、服も整えろよ」
「アインも気をつけろよ。外面にな」
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