第二章 赤い石(ヤークート)の謎 4




***


「やはり、石から立ち上る魔力が見えるんだな」


二人きりになると、アインが言った。


「魔力? 石から?」


「ああ」


「……なにそれ」


アインによると、普通の人には先ほどの赤い石ヤークートが『ただの高価な石』に見えるらしい。おかしな炎など立ち上ってはいない、本当に普通の綺麗な宝石に。


「ああ、そういうことか。みんな不気味な石を指輪にしたり売り買いしたりして、すごい趣味だなって思ってた」


「ぐふっ」


「なんだよ?」


「いや」


「でも、なんで見えるんだろうな。今まであんなおかしな物は見たことないぞ?」


「見えるとするなら理由は二つ。一つ、何かにうらみを買っている。例えばある街で殺人が起こり、殺された女が犯人である男に激しい憎悪を抱いたとする。そうすると強い思念が魂に形を成させ、男にだけ通じることがある。同じことが命ある者全てに言える。人間でも家畜でも魔物でも魂は等しくから成る。魔力は気の力を借りて練られるものだ。その場合、『気が見えること』すなわち、『魔力が見えること』に繋がる場合がある」


「だから、俺は犯人じゃないって! ん? でも待てよ。それじゃあ、つまり、石が俺を恨んでるってことか? いくら俺でも石から恨みを買う覚えは……。道端でられた恨みとか? いや待て、石ってそもそも生きてるのか」


「二つ目、量の多い少ないは別として天与てんよの魔術師の才がある。魔術師になれるかどうかは神が決めるもので、修行により力を一から二へ育てることはできるが無い物を一にはできない。初めから授からなかった者は魔術師にはなれない」


「それを先に言えよ。じゃあ、俺はそっちだ」


「魔術師に師事したことは?」


「ない」


「魔術は?」


「使えない。土蛇のフラウウが居てくれるからできることはあるけど、アインが操る術みたいなのは俺にはできない。ただ昔のことだけど……故郷の山奥に出た魔物をしょうがなく倒したとき、血をいっぱい浴びちゃったんだ。その魔物っていうのがたちの悪い物だったもんだから、それ以来、たまにだけど魔物の声や人間の強い心の声とかが聞こえるようになっちゃって。心当たりがあるとするならそれぐらいかな。本当にごく、たまにだけど」


アインは数度、頷いた。


「アイン、ここだ。これが昨日の焚き火の跡で、で、こっちがフラウウが集めてくれた原石。袋の中を確認するか?」


ここへ戻って来るまでに随分、旅をしてきた気分だ。実際には昨日のことなのだが。


「……重いな。これを運ぶ来だったのか?」


「力持ちなんだ。ねえ、俺の話、信じてくれた?」


「モゴリ殿の奥方おくがたはどちらから来たんだ?」


「そこの茂みから焚き火の前をこう通って、あちらへ。そのまま走ると下から見えたあの崖に出る」


「方角も正しいな。今のところお前の話におかしなところはない」


「だろ? でも、わからないのが奥さんは川を探している風だったのにどうしてふもとから真っ直ぐ登山道を歩いて川に出なかったんだろう。複雑な道じゃないのに。歩き方含め俺が見たあの人は様子がおかしかった。ねえ、アイン。今日はこのまま下山するんだろう? 明日はどうする? 明日も調べを続けるんだろ」


「ああ」


「同行させてくれ! 一緒にいたらアインは俺を見張れるし、俺は一緒にいる間、精一杯身の潔白を晴らすよ。それに俺は役に立てるよう頑張るし、足手まといにならないようにする。また地下牢に放り込まれるのはもう本当に御免蒙ごめんこうむりたいんだ。一緒に調べさせてくれ。どうか、この通り!」

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