第一章 猫目石の魔術師(マグス) 9
「いいや。私はそこのウマル殿から聞いている」
アインの言葉に少年は片眉をくいっと上げてひょうきんな顔をしてから「俺が思うにそこのウマルさんは信用できないよ」と答えた。
「それはわからないが、お前の説明と彼の説明では違う部分があるようだ。土蛇については確かに私も彼から聞いていない」
問いかけるようにアインは背後に佇むウマルへと視線を向ける。
「ま、待ってくださいアイン様。だって、まさか本当に土蛇を従えているなんて普通は思わないでしょう? 懐くなんて。やはり、魔物同士通じあっているということか」
「まあいい」
「いや、良くないぞ。ちっとも良くない」
「それはそうと、土蛇が側にいるなら床でも壁でも掘って逃げられたんじゃないか?」
「たった今、合流したんだ」
「……なるほどな。確かに土が新しい」
先ほど見えた窪みは確かに掘り返されて間もない地面であったのだろう。土が湿気っていた。
「お兄さんは何者なんだ? 挨拶も無しに剣を抜くなんて」
「悪かった。私はアイン。アイン・アル・ヒッル」
「俺はメブレビ。メブレビ・メブレシュカだよ。こっちはフラウウ」
「フラウウ? 大層な名だな」
「そうかな? そっちこそ大層な名前じゃないか。石の名前? 魔を
「そうかもな。ああ、ご老人。この牢の鍵をくれ」
「アイン様!」
「制止は無用だウマル殿。この少年を牢から出す。メブレビ。改めて、お前の口から話が聞きたい。私の方の事情は道中話そう。奥方が亡くなられた川へ行きたいんだが案内してくれるか」
「いやあ、わしゃあ、この坊主は罪を犯していないと思っとったのですよ。長年の、牢番としての勘でね」
「爺さん、ここに雇われてまだ三ヶ月じゃないか!」
またまた野次馬から声が上がる。
「アイン様、しかし!」
「解決のためだ。この者がおかしなことをすれば、私が責任を持ってこの者の首を
「人の首のことを勝手に決めるなよ」
「けれどその代わり、私も同行させていただきます」
「無論だ、ウマル殿」
牢から出たメブレビを連れアインは出口へと進もうとした。不意に、メブレビが立ち止まる。
「どうした?」
「ねえ、ウマルさん。あの子って……」
アインはメブレビの視線を辿った。
その先に、幼い少女が立っている。歳の頃は七、八歳だろうか。
大人達にひっそりと混じり、こちらをじっと見つめている。
「ルウルウ様! なぜ、こんなところに。 ああ、早くお屋敷に戻りましょう」
駆けていくウマルの背を見つめ、メブレビが悲しげな顔をしたのにアインは気づいた。
(……ふうん)
「逃げるなよ? 首を斬られたくなかったらな」
「逃げないよ。それに」
「なんだ?」
「協力したい。あの女性と最期に一緒に居たのは多分、俺だから」
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