第47話 偽りの正体

 貴族達が立ち上がれないのも理解できる。それほど大きな殺気をアガレスは放っているのだ。

 現状立っているのは俺とリリシア、それと皇帝陛下だけ。

 アルドリックやデレック、周りの貴族達に手を出されると困るので、ここは俺にヘイトを集めるか。


「戦うのはその姿でいいのか?」

「どういうことだ?」

「どういうことも何も、本物のデュケル宰相は既に死んでいるのだろ?」

「⋯⋯⋯⋯」


 アガレスから答えが返ってこない。それは暗に俺の言葉を認めているようなものだ。


「宰相が死んでる⋯⋯だと⋯⋯」

「はい。既に殺されています」


 アガレスの殺気や強さも恐ろしいが、本当に恐ろしい能力は別にある。

 それは⋯⋯


「いつまで変身しているんだと言っている」

 

 そう。アガレスは姿を自在に変えられるのだ。そのため、味方に変身されたら厄介このうえない。前の時間軸ではアガレスのせいで、何千と人が殺されたのだ。だから今後のことも考えて、こいつは必ずここで仕留める。


「ふっふっふ⋯⋯まさか変身のことも知っているとはな。お前が何者か興味が湧いてきたぞ」


 アガレスがデュケル宰相の姿から別の者へと変化していく。

 その様子を見て皇帝陛下が怒りの声を上げた。


「貴様⋯⋯余に化けるとは良い度胸だ」


 アガレスは皇帝陛下そっくりに変身したのだ。

 さすがの変身能力だ。少なくとも俺はどちらが本物の皇帝陛下か見分けがつかない。

 もしシャッフルでもされたら大変だ。


「こんなことも出来るぞ」


 そして再びアガレスは姿を変えると、今度は可愛らしい女の子になった。


「あ、あれは私です!」


 リリシアが驚くのも無理はない。

 アガレスは先程まで威圧感のある中年男性だったか、今度は十代の女の子に変身してみせたのだ。

 性別まで変えられる能力には驚きしかない。

 だけどリリシアの姿だと戦いにくいな。本物のリリシアではないとわかっていても躊躇してしまう。


「確か本当の姿は老人じゃなかったか?」

「その通りだ」


 俺が真実の姿を指摘すると、アガレスは小綺麗な老人へと変化した。

 これでいい。リリシアの姿じゃなければ全力で戦える。


「例えどのような姿でもお前達を殺すことは造作もないことだ」

「やはり貴様がルドルフを操っていたのか」

「操るなど人聞きの悪い。私はただ、思考能力を奪う魔法を使い、ルドルフ皇子に起こりうる最悪の事態を語っただけだ」

「何だと!」

「ルドルフ皇子をそそのかし、帝国を破壊してやるつもりだったが、残念ながら失敗してしまった」

「貴様ぁぁっ! よくもそのようのことを!」


 皇帝陛下は真実を知り、激昂しながらアガレスに斬りかかる。

 その鋭い斬撃は右手首を切り落とすことに成功した。

 だがアガレスは右手首を失ったにも関わらず、何事もなかったかのように平然としていた。


「人間ごときがこの私を傷つけることなど出来ぬ」


 アガレスは地面に落ちた右手首を拾う。そして切断された面に押しつけると、右手首は元通りに治ってしまうのだった。


「どういうことだ! 確かに余は手首を切り落としたはずだ」

「わからないか? 人間ごときが私を傷つけることなど出来ないということだ」


 ダメージを当てることが出来ないなんて、チートでしかない。

 アガレスはネクロマンサーエンプレスと同じで、特別な魔物である。

 硬度もネクロマンサーエンプレスの六より高い七だ。

 それに硬度七以上の魔物は今のアガレスと同じで、普通に斬った所でダメージを与えることは出来ない。

 だが⋯⋯


「傷をつけることが出来ない? それなら胸の傷も治したらどうだ?」

「そういえばお前に貫かれていたな。このような傷直ぐにでも⋯⋯ぐはっ!」


 アガレスは突如胸を抑え、口から血を吐き出すのであった。

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