第31話 勝者の願い
アーノルドが倒れてから三十分後。
「き、気持ちわりい⋯⋯」
水を飲んだことでアーノルドが復活し、何とか話せる程度には回復していた。
「大丈夫か?」
「大丈夫じゃねえよ。これは明日、二日酔いは確実だな」
まあ誘導したとはいえ、自分から勝負を持ちかけてきたのだから、自業自得だな。
遊び人としてのプライドが、俺に負けることを許せなかったのだろうか。
「それにしても何だその酒の強さは。初めて見た時からただ者じゃないと感じてはいたが⋯⋯」
アーノルドの勘が何かを感じ取ったのか? だがまさか異世界転生者でこの時間軸が二度目だとは思わないだろう。
「とにかく負けは負けだ。ユートの言うことを一つ聞く約束だったな」
約束を覚えていたか。酒に酔って覚えていないという事態は回避出来たようだ。
「お金ですかね?」
「それとも権力?」
「もしかして私達を好き放題できる権利かもしれないわ」
「「ユート様やらし~い」」
メイド達が勝手に盛り上がっている。人の願いを捏造しないでほしいものだ。そして捏造するのはメイド達だけではなかった。
(
(⋯⋯そんなこと考えてないぞ)
(今の間は何ですか? セレスティア様に誓ってハレンチなことを考えてないと誓えますか?)
(う、うるさいよ。ちょっと今大事な所だから黙っててくれないか)
頭の中が読まれているって本当に嫌だな。
それにしてもやはりルルには、俺がズルをしてアーノルドに勝ったのがわかっていたか。
そう。確かに俺は酒は強い方だが、アーノルドには到底敵わないことは前の時間軸でわかっていた。
だから俺は魔法を使って、酒に酔った状態を回復させていたのだ。
口に入ったアルコールは肝臓で分解されるが、大部分は分解できず心臓や脳、全身に運ばれる。アルコールが血液によって脳に運ばれるといわゆる酔っぱらった状態になるのだ。
そして肝臓でアルコールが分解されるが、この時発生するアセトアルデヒドは毒性が強く、頭痛や吐き気などの症状を引き起こす。
そのため
ただ皆が見ている前で魔法を使うことは出来ないので、度々トイレに行っていたという訳だ。
「それでどうする? さすがにこの三人をお前のものにするという願いは勘弁してほしいのだが」
「そんなことしないから安心してくれ。だけど今すぐ願いは思いつかないから保留で」
「じっくり考えるということか。何を頼まれるか怖いな」
本当は何を願うか決めてある。だけど今それを言うと不心感を抱かせることになってしまうので、伝えることは出来ない。
「それじゃあ俺は行くよ。楽しい時間をありがとう」
「こっちこそ楽しかったぜ。次はアルドリックとして会うかもしれないな」
「ユート様、またのお越しをお待ちしています」
「今度は私を指名してくれると嬉しいわ」
俺はアーノルド、アリッサさん、ダリアさんに見送られながら、会計をするためにフローラさんと受付へと向かった。
いくらになるだろうか。グラフト産の酒もミュルヘン産の酒も高額だから金貨二、三枚はいきそうだが。
「お会計はどれくらいかな?」
「いえ、今日のお酒の料金は、アーノルド様がお支払いになるそうです」
「えっ?」
俺は驚き後ろを振り向く。
するとアーノルドは笑顔でこちらに向かって手を上げていた。
やれやれ。そういえばアーノルド――アルドリックは太っ腹な所があったな。
俺はアーノルドに感謝の意を示すために頭を下げる。
こうして帝国の第三皇子であるアルドリックと接触することに成功し、俺は城へと戻るのであった。
そして再び護衛の任務につくため、リリシアの部屋の前に行く。
「おうユート、戻ったのか」
リリシアの部屋の前に戻ると、ザインが話しかけてきた。
さっきまでは女の子に振られたためか意気消沈していたが、今は普段通りに見える。
立ち直りの早い奴め。まあ引きずって護衛の任務に支障を来すよりはいい。
「何か変わったことはあったか?」
「今、ルドルフ皇子の使いとかいう奴が来てるくらいだな」
ルドルフ皇子の使い? いったい何の用だ? あまり良い予感はしないな。
そして程なくして一人の女性がリリシアの部屋から出てきた。俺達に頭を下げると、そのまま立ち去っていく。
何のためにリリシアを訪ねて来たのか気になる。
些細なことが未来を変えるかもしれないので、リリシアに直接聞くことにしよう。
俺は部屋のドアをノックしようとするが⋯⋯
(大変です! 王女の様子が⋯⋯)
突然頭の中にルルの焦っている声が響くのであった。
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