第27話 ルドルフの暗躍
「いい加減離せ。男に口を塞がれても嬉しくねえんだよ」
「俺だって同じだ。だけどお前、余計なことを口にしようとしてただろ」
「ゴミだと言われたんだぞ! そんなこと言われて黙ってられるか!」
ダメだ。ザインは頭に血が昇っている。これは何を言っても聞いてくれなそうだが⋯⋯
「相手はこの国の皇子だ。ここで捕まったりしたら夜の街で遊べなくなるぞ。綺麗な子がおまえを待っているのに、その機会を逃してもいいのか?」
「た、確かにそうだな。すまないユート⋯⋯俺は冷静さを失っていたようだ」
ザインは本当に反省しているようで、珍しく素直に謝罪してきた。
何とかなったな。やはりザインを止めるなら女の子の話題を出すのが一番だ。
(最低ですね)
(うるさいよ。そんなことわかってる。だけどルルだって牢屋で臭い飯を食べるよりいいだろ?)
(そうですね。そのようなことになったらザインのことを一生許せないかもしれません)
これまでの言動から、とりあえずルルは自分のご飯さえ確保できればいいようだ。まじで神獣じゃなくてただの猫に思えてきたぞ。
そしてリリシアが玉座の間に行ってから二十分程経った頃。
「クソが! この俺に恥をかかせやがって!」
玉座の間の方向から、怒りを露にしているルドルフが向かってきた。
すごく荒れているな。まあその理由は何なのかわかっているけど。
触らぬ神に祟りなしだな。
しかしルドルフがこちらに目を向けてきて、視線が合ってしまった。
「ちっ!」
だがルドルフは舌打ちをするとこちらには目もくれず、急ぎ足でこの場から立ち去って行った。
やれやれ。これでさっきの無礼な行動に対して、少しは溜飲が下がったな。
「何なんだあいつは?」
「さあ、綺麗な女の子に振られたんじゃないか」
「それなら機嫌が悪くなるのも頷けるぜ」
おそらく玉座の間にて、婚姻の話がなくなったことを知らされたのだろう。
帝国が金を王国に出すこともあって、ルドルフに有利な婚姻であった。だが俺が金を出したことで対等な関係となり、振られるという屈辱を味わったのだ。
「ユ、ユート様⋯⋯ただいま戻りました」
リリシアも玉座の間の方向から戻ってきた。だが何だか様子がおかしい。目を合わせてくれないし、顔が真っ赤だ。
どうしたんだ? 玉座の間で何かあったのか?
俺が疑問に思っていると、答えがルルから返ってきた。
(バカですか。あなたのせいですよ)
(俺の? 俺はここでリリシアを待っていただけだぞ)
(はあ⋯⋯)
ルルがやれやれといった様子でため息をつく。
(先程のザインとの会話を聞いていたみたいです)
(ザインとの会話?)
何かおかしなことを言ってたか? 俺は会話の内容を思い返して見る。
ザインが何なんだあいつは? って言って俺が⋯⋯あっ! そ、そういうことか。綺麗な女の子に振られたって、これは事情がわかっている者が聞けば、リリシアのことだってわかる。
何だか俺も恥ずかしくなってきたぞ。
俺はリリシアから視線を外す。
「どうしたんだ? ユートもリリシアちゃんも顔を赤くして」
ザインは空気が読めないのか、いらないことを指摘してくる。
「いや、別に何でもないぞ」
「そうですよ。褒められて嬉しいなんて顔をしていません」
「本当か? リリシアちゃんの顔がさらに赤くなってきぞ」
「そ、それより私達に部屋を用意してくれたみたいです。今日は疲れてしまいましたので、早く行きましょう」
そしてリリシアは一度もこちらを見ることもなく、部屋へと案内してくれるメイドについて行ってしまうのであった。
◇◇◇
その頃ルドルフの部屋にて
「ふざけるな!」
玉座の間から自室へと戻ったルドルフは、部屋に到着するなり、机の上にあったガラスのコップを壁へと投げつける。
するとガラスのコップは粉々に砕け散り、破片が床へと散らばった。
「何故王国ごときが俺を否定する! こちらが婚姻を断るならまだわかるが、何故俺が振られなければならない!」
ルドルフはこれまで皇子の権力を使い、やりたい放題の人生を送ってきた。それは女性に対しても同じだ。相手がどれだけ嫌がろうが、帝国の皇子という肩書きに逆らえるものは誰もいなかった。
これまで手に入れたいと思い手に入らなかったものは、皇帝の椅子だけ。
それなのに玉座の間にてリリシアに拒絶されたため、ガラスのコップを壁に投げつけるという暴挙に出たのだ。
トントン
ルドルフは自分の思い通りにならなくてイライラしている中、ドアがノックされる。無視しようとしていたが扉が開き、訪ね人はルドルフの部屋に入ってきてしまった。
「おやおや⋯⋯すごい有り様ですな」
「デュケル! 入室を許可した覚えはないぞ!」
「申し訳ございません。想定外のことが起きたため、皇子のことが心配で⋯⋯」
「うるさい! 余計なお世話だ!」
「ですが過程がどうあれ、我らがやるべきことは変わりません」
「わかっている! だがあの王女を地獄に落とす前に、借りを返さねばならぬ」
「どういうことでしょうか?」
「俺はリリシアの秘密を知っているのだ。公の場で恥をかかせてやる! そうしなければ俺の気が済まん!」
ルドルフは憎しみの念を胸に秘め、リリシアを陥れるため悪意ある笑みを浮かべるのであった。
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