第15話 一難去ってまた一難
「国王陛下! 差し出がましいようですが、それはどうかと⋯⋯帝国は敵国とは言いませんが、友好国ではありませんよね?」
冗談じゃない。このままリリシアを帝国に行かせれば金を払って未来を変えた意味がなくなってしまう。
「ユートの言いたいこともわかる。だがまとまりかけていた縁談の話を、こちらが壊してしまったのだ。ここでリリシアを派遣しなければ、それこそ帝国と友好関係を築くなど不可能になる」
国王陛下の言葉は間違ってはいない。もしここでリリシア派遣の話を断れば、そのことを理由に険悪になるのは事実だ。結末を知っている俺からすると、帝国は王国に何をしてもおかしくない。だけどこのままだとリリシアが殺されてしまう。
俺はどうすればいいか思考を巡らせる。
リリシアが帝国に行くことは回避出来ない。だったら⋯⋯
「俺も護衛として帝国に連れていってもらえませんか?」
「ユート様が? ですがご迷惑では?」
「元々帝国には一度行ってみたいと思っていたので」
「安全な旅ではないかもしれませんよ」
それはわかっている。だからこそ君だけをいかせる訳にはいかない。
「それなら俺の剣の腕を試してみて下さい」
「本当ですか? ネクロマンサーエンプレスを倒した力は気になっていました。ユート様がよろしければ、ぜひ手合わせをしていただきたいです。お父様、よろしいでしょうか?」
「わかった。許可しよう。リリシアを倒す逸材なら、こちらから護衛をお願いしたいくらいだ」
リリシアは神速の剣を持つと言われている。前の時間軸で手合わせしたことはあるけど、勝率は二十パーセント程しかなかった。
だけど剣の腕だけが勝敗を決めるものではない。リリシアの成長を促すためにも、なるべく早い内に戦いたいと思っていた。予期したことではないけど結果オーライだ。
「話は終わったようだね。それじゃあ温かい内に夕食を食べようか」
そしてテオ王子の言葉に従って、俺達は食事を取り始めるのだった。
翌日
俺はベッドから起きると、既にルルが目を覚ましていた。
だが清々しい朝なのに、ルルの表情は暗く、何だか疲れているように見えた。
「大丈夫か?」
「何故か昨日は寝つきが悪くて⋯⋯ベッドが変わったから熟睡することが出来なかったようです」
「え~とそれは⋯⋯」
リリシアの夢を見ていたからでは? だけど今口にしてしまうと悪夢を思い出してしまうから黙っていよう。もう考えを読まれてしまったかもしれないけど。
トントン
「リリシアです。部屋に入っても大丈夫でしょうか?」
「大丈夫だ」
ドアがノックされたので返事をすると、リリシアが部屋の中に入ってくる。
「ユート様おはようございます」
「おはようリリシア」
「え~と⋯⋯ルルちゃんはどこにいるのでしょうか?」
「ルルならそこに⋯⋯って、いない!」
さっきまでベッドの上にいたのに。まさかリリシアが来たから逃げたのか? 見た目通り素早い奴だな。
「ふふ⋯⋯わかりました。ここですね」
リリシアはベッドの下に手を伸ばす。そういえば、猫って狭い場所とかが好きだったよな。
そしてリリシアがベッドの下から手を伸ばすと、ルルが出てきた。
「ルルちゃんおはようございます」
「にゃ、にゃ~」
「今日も可愛いですね」
どうやらリリシアの女の勘の前に、ルルは捕まってしまったようだ。
(ボーッとしてないで助けて下さい!)
(無理だ。リリシアは猫が好きみたいだから、少し我慢してくれ)
(私は猫じゃないです!)
リリシアは昨日と同じ様にルルを抱きしめている。ルルも必死に抵抗しているが、しょせんは猫。一度捕まってしまうと逃げられないようだ。
(ふ、ふにゃあっ! にゃにゃ! にゃぁぁぁっ!)
リリシアに抱きしめられて怯えているのか、どうやら心の中の声も猫になってしまったようだ。
仕方ない。助け船を出してやるか。
「リリシア、ザインは昨日城に来たのかな?」
「いえ、ユート様のお連れの方は、誰も城に訪ねられていないと聞いています」
「あいつはどこで何をやっているのか。ちょっと外を探してくるよ。ルル、行くぞ」
「あん⋯⋯ルルちゃんも行ってしまうのですか。残念です」
俺はリリシアからルルを受け取り、肩に乗せる。
(ありがとうございます⋯⋯本当にありがとうございます)
あのルルが素直にお礼を言った⋯⋯だと⋯⋯それだけリリシアに抱きしめられるのが嫌だったのか。
だけどリリシアもすごく寂しそうな顔をしている。どっちの味方をすればいいのか迷う所だ。
「それじゃあ城門まで行ってくるよ」
「私はお父様の所へと行って参ります。もう少しで朝食の時間となりますので、食堂へとお願いします」
「わかった」
そして俺は瀕死のルルを連れて、正門から城を出る。
するとすぐに城壁によりかかり座っているザインの姿を見つけた。
だがその様子はおかしかった。
持っていた剣がなく、衣服も下着しかつけていない。その様子はまるで、追い剥ぎによって身ぐるみ剥がされたかのように見えるのだった。
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