第14話 王国の王子
◇◇◇
リリシアと一緒にいると、どうしても前の時間軸の出来事が頭に過ってしまう。
やっぱりリリシアには笑顔が似合う。
俺はルルと戯れているリリシアを見て、とても嬉しく思うのだった。
(このハレンチ男!)
どうやらまたルルに頭の中を読まれたようだ。
まあ他人のキスシーンを見せられたから怒るのも無理はない。
(そのようなことはどうでもいいから早く助けて下さい! フシャーッ!)
とうとう頭の中でも猫のように威嚇し始めたぞ。やはり見た目どおり、神獣じゃなくて猫なんじゃないか。
ルルの鳴き声が廊下に鳴り響くが、リリシアには少しでも幸せな気分になって欲しいので、俺は見なかったことするのであった。
そしてザインがいる城門まで戻ってくる頃には、ルルはリリシアに存分に撫でられ、頬擦りをされたため、息絶え絶えだった。
「あれ? ザインがいないぞ」
城門の所で待っていると言ってたのに。どこに行ったんだ?
「兵士の方達に聞かれてみてはどうですか?」
「そうだね」
もしかしたらその辺りにいるかもしれないしな。
「あの⋯⋯俺の連れがどこに言ったか知ってますか?」
「ああ、彼なら歓楽街の方に行ったよ」
「歓楽街ですか?」
「しつこく可愛い子がいる店を聞かれたよ」
「わかりました。ありがとうございます」
俺はザインのある意味予想通りの行動に頭を抑える。
あいつは何をやってるんだ。それに一銭も持ってなかったよな。
そんな状態で何をしに行ったか知らないけど、面倒見切れないぞ。
「ユート様、どうされますか?」
「あいつ⋯⋯ザインのことは放っておいていいよ。もう暗くなってきたし、部屋に案内してもらってもいいかな」
「わかりました」
ルルも疲れているみたいだし、ここは早く部屋で休ませてあげた方がいいだろう。
「それでは申し訳ありませんが、ユート様のお連れの方⋯⋯ザインさんがお戻りになられたら、私に教えて下さい」
「承知しました」
リリシアはザインが戻ってきたことも考えて、兵士に言付けを頼んでいた。
その気遣いはさすがだなと感心してしまう。
「それではユート様、こちらへどうぞ」
そして俺はリリシアと城の中へと戻る 。そして一つの部屋へと案内された。
「この部屋をご自由にお使い下さい。何か入り用な物がありましたら、こちらのベルを鳴らして下されば、メイドがすぐに駆けつけます」
至れり尽くせりだな。平民出の俺にとっては文句のつけようがない。
「それでは私は失礼致します」
「部屋まで準備してくれてありがとう」
「いえ、お礼でしたら私に言わせて下さい。フリーデンのためにありがとうございました」
国のためというのも確かにあるけど、これでリリシアが救われるなら白金貨三十枚など安いものだ。
「夕食の準備が整い次第また来ますので、それまでゆっくりとお休み下さい」
リリシアは丁寧に頭を下げると部屋から立ち去っていく。
ふう⋯⋯
さすがに国王陛下や、思わぬ所でリリシアに会って精神的に疲れた。
俺はふかふかのベッドに座る。すると肩に乗っていたルルは、重い足取りで枕の上へと移動した。
「今日はもう寝ます」
「了解」
リリシアに弄ばれたルルは俺以上に疲れているのか、そのまま目を閉じて寝てしまった。
まあ、元々猫は一日十二時間から十六時間寝ると言われているからな。
普段なら「私は猫じゃありません」とツッコミが入る所だけど、どうやらルルは本当に疲れているようだ。
「俺も少し休むか」
ルルの隣に横たわる。すると瞼が重くなっていき、いつの間にか夢の世界へと旅立ってしまう。
そして次に目が覚めたのは、リリシアのドアをノックする音だった。
「ルルちゃんのために、美味しいお魚を用意したのに残念です」
「後で起きたら食べるんじゃないかな」
食堂へ向かう途中、リリシアがそんなことを言っていたが、おそらくルルは来なかったと思われる。
リリシアが呼びに来た時はまだ寝ていたけど、すごくうなされていた。
やめて⋯⋯そんなにスリスリしないで⋯⋯と声に出していから、たぶんリリシアに弄ばれている夢でも見ていたのだろう。
そして食堂に到着すると国王陛下とは別に、もう一人若い青年がいた。どことなく、目元が国王陛下に似ていることから、初めて見るけど誰か予想が出来た。
「君が我が国に支援をしてくれた、ユートという若者かな?」
「はい」
「僕はテオ・ウィル・デ・フリーデンだ。最初に言っておくけど、公の場でない限り普通に話してくれて問題ないから。堅苦しいのはどうも苦手でね」
「承知しました。私はユートです。よろしくお願いします」
これがリリシアの兄か。会うのは初めてだけど人格者であり、有能な人物と聞いている。テオ王子が王になれば、王国は繁栄をもたらすだろうと噂されていた。
だが帝国が攻めてきた時に捕縛され、民が見ている前で打ち首になったのだ。
リリシアのためにも、この世界ではテオ王子も守らないとな。そのために開戦のきっかけとなるリリシアの婚姻を阻止したのだ。
「挨拶はそのあたりにして、食事を取りましょう」
「そうだね。リリシアのお腹が鳴ってしまいそうだからね」
「お兄様!」
どうやらリリシアとテオ王子は仲がいいようだ。だけどだからこそ、リリシアはこの後の悲劇に堪えられず、笑顔を忘れた少女になってしまったのだろう。
「では、ユートとの出会いを祝して⋯⋯乾杯」
国王陛下の挨拶によって食事が始まる。そして俺は目の前に運ばれてきたスープに手を伸ばす。すると国王陛下が気になることを話始めた。
「本日、スロバスト帝国の使者に、リリシアとの婚姻の件はなかったことにしてくれと伝えておいた」
「それは良かったです。でも帝国は素直に受け入れたのですか?」
テオ王子が神妙な顔つきで問いかける。
帝国が面子を潰されたと、騒ぐ可能性があるからだろう。
「その点については問題ない。帝国側もこちらの要望を受け入れてくれた」
俺は⋯⋯というかこの場にいる人達が全員安堵のため息をつく。
だがこの後、国王陛下は看過できない言葉を口にした。
「だが例え婚姻の話はなくなっても、我が国との友好関係を結んで行きたいと言ってきた。皇子から神速の剣を持つリリシアに会いたいとの申し出があったので、これを受けることにした」
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