第11話 白金貨の使い道
「リリ⋯⋯シア⋯⋯」
頭の中に、前の時間軸で過ごしたリリシアとの思い出が蘇り、思わず呟いてしまう。
(どうしたのですか? あなた⋯⋯涙が出ていますよ)
俺はルルの言葉で現実に戻らされ、急いで涙をふく。
「あらあら⋯⋯お父様がプレッシャーをかけるから怖がっていますよ」
「私はそのようなことはしていない。変な言いがかりをつけないでくれ」
国王陛下とリリシアは笑顔を見せている。
おそらく俺の緊張をほぐすために、わざとおどけた様子で話をしているのだろう。
(大丈夫ですか? 今は人間の王の前なのよ)
(大丈夫。懐かしい顔に会ったから驚いただけだ)
(⋯⋯嘘つき)
ルルには俺の頭の中が読めるから、誤魔化しても無駄なようだ。
確かにリリシアが目の前にいることがとても嬉しい。そしてそのリリシアの笑顔が見れて思わず涙が出てしまった。
何故なら前の時間軸では、リリシアの笑った顔を一度も見たことがなかったからだ。
俺と初めて会ったのは約四年後で、冷徹沈着な復讐者と言った感じだった。
この時は幸せに暮らしていたんだな。
しかしこの後、彼女の人生は一変してしまう。
元々助けるつもりだったけど今の笑顔を見て、俺は改めてリリシアを救う決意をする。
(何だか訳がありそうですけどどうするつもりですか?)
(まあ見ててくれ)
「それなら何故この方は涙を流していたのかしら?」
「申し訳ありません。何でもないので気にしないで下さい」
「そうですか。父のせいではなくてほっとしました」
国王陛下もリリシアもどこか納得している様子ではないが、わざわざ追求してくることはないだろう。
「では魔物を討伐したそなたへの褒美だが⋯⋯」
国王陛下の歯切れが悪くなっていた。
理由はわかっている。
この時の王国は財政難に陥っており、褒美を渡すものがないのだ。
理由は魔物が増えてきたことにより流通が回っていないことと、異常気象のせいだ。
まあそのお陰で昨日大雨が降り、今日のレースで馬場が荒れていて勝てたのだが。
国王としては権威を保つため、平民に金はないなど言うことは出来ないだろうな。
「こちらでもネクロマンサーエンプレス調査して、後日改めて褒美を渡すとする」
「その前に国王陛下にお聞きしたいことがあります」
「申してみよ」
「リリシア王女について」
「リリシアだと?」
「はい。リリシア王女は隣国にある、スロバスト帝国に嫁がれるという噂は本当でしょうか?」
俺の言葉によって、ここにいる王国側の人達が驚きの表情を浮かべる。
「どこでその話を聞いた」
「詳細は言えませんが、とある筋から」
未来から来たので知っています⋯⋯なんて言っても信用してもらえないだろうな。
「王国と帝国は国境を封鎖しています。そのような国に我が国の至宝であるリリシア王女を嫁がせてもよいのですか?」
「⋯⋯」
国王陛下はうつむき、寂しそうな表情を見せた。
わかってる。この人だって本当は娘を帝国に行かせたくないと思っている。だけど国のために仕方なくリリシアを嫁がせるしかなかったんだ。
後から知ったことだけど、帝国はリリシアを渡せば資金援助をすると約束していたらしい。
それにもしかしたら国王陛下は、婚姻関係を結ぶことが出来れば、両国は友好関係になって経済的にも潤うと考えていたかもしれない。
だけどそんな未来は永久に来ない。
むしろ婚姻を結ぶことによって、フリーデン王国は破滅への道を進むことになるのだ。
だからその未来だけは、何を犠牲にしても阻止しなければならない。
「民を守るためには仕方のないことです。それに帝国に嫁げば贅沢な暮らしが出来ますし」
リリシアは笑顔で答えるが本心ではないことがわかる。
何故ならリリシアは嘘をつくと両手を組み、親指同士を弄るクセがあるからだ。
「実は今日は魔物討伐の報告と、もう一つ用件がありまして」
俺は懐から小袋を取り出す。
「こちらを国王陛下に献上させていただきたく、参りました」
「その袋の中身はなんだ?」
「今、フリーデン王国で一番必要なものです」
宰相と思わしき人が小袋を受け取る。
そして小袋が危険な物かどうか確認するためか中を見た。
「こ、これは!」
宰相と思わしき人は誰が見てもわかる程動揺して、小袋を国王陛下へと渡す。
そして国王陛下も小袋の中を覗く。すると先程の宰相らしき人と同じ様に、大きな声をあげるのだった。
「は、白金貨! しかも三十枚だと!?」
そう。俺が国王陛下に献上したのは、さっきレースで当てた金だ。
これだけの金があれば、王国を持ち直せるくらいにはなるはずだ。
「このような大金、どこで手に入れたのだ」
「賭け馬で儲けさせてもらったお金です」
「そういえば私も国王杯を観戦しに行きましたが、賭け馬史上最も高い配当金だったと聞いています」
リリシアもあの場にいたのか。話が早くて助かる。
「リリシア王女がこの白金貨三十枚で望まぬ結婚をしなくてすむなら、喜んで献上させていただきます」
「余も出来るならリリシアを帝国に嫁がせたくはない。だがこれだけの大金があれば一生遊んで暮らすことが出来るぞ」
「白金貨三十枚でリリシア王女を守れるなら安いものです」
敵を斬るだけの機械になったリリシアはもう見たくない。それにこれはズルをして稼いだ金だ。惜しくない。
「あなたは⋯⋯あなたの名前を教えていただいてもよろしいですか?」
「俺は⋯⋯ユートです」
リリシアが俺の前に来て両手を握り、真っ直ぐと目を見据えてきた。
「ユート様。一度は国のためと思い、嫁ぐことを決意しました。ですが私はこの地で民のために働き、フリーデンをより良い国にしたいと願っています。その夢をもう一度見てもよろしいのでしょうか?」
前の時間軸でリリシアが願っていたことと同じだ。
互いの立場は違ってしまったけど、リリシアの幸せを願う気持ちは変わっていない。
だから答えは決まってる。
「もちろんです。リリシア王女」
俺は力強くリリシアの手を握り返す。
「ありがとう⋯⋯ございます⋯⋯」
リリシアは言葉がつまりながら礼を述べると、その目から光るものが地面にポタポタと落ちるのであった。
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