第10話 真の目的
「審議⋯⋯だと⋯⋯」
ザインが怒りを滲ませながら言葉を放つ。
まあ一枠二枠に賭けた者達に取っては当然の感情だ。
「いやいや、何もおかしな所はなかったよな?」
「今のレースは脱落した馬が多かったから、何が起きても不思議じゃない」
審議の結果はなかなかでず、観客達のざわつきの声も大きくなっていく。
(あなたまさかこうなることを知っていたのですか?)
(前の時間軸でザインに無理矢理連れて来られたからな。レースが荒れていたから覚えていたよ)
(それならこの後の結果も⋯⋯)
ルルが話している最中に運営の職員が戻ってきた。
そして訂正された結果が掲示板に貼られるのであった。
レース結果に目を向けると一着十五枠、二着十四枠、三着二枠、四着一枠と出ている。
「う、嘘だろ⋯⋯」
ザインはその結果を見て愕然とし、膝から崩れ落ちる。
「ただいまのレースは十四枠と十五枠が最後の直接で斜行し、進路を妨害したと判断して降着とさせていただきます」
職員が審議の結果を発表するとザインを初め、多くの人達が叫び声を上げていた。
まあ一枠二枠は一番人気の倍率だから、それだけ買った人がたくさんいたのだろう。
だけど何を言おうが結果は変わらない。
(ルル、何か俺に言いたいことはあるかな?)
(よくやりました。褒めてあげましょう)
ルルは変わらず上から目線だった。だが許してやろう。今は大金を手にして気分がいいからな。
そして気分が良い俺とは逆に、まだ地面に膝をつき項垂れている奴がいた。
「う、嘘だ⋯⋯信じられない。全財産賭けたんだぞ⋯⋯」
ザインは前の時間軸と全く同じことをしているよ。そもそも結果がわかっている俺とは違って、何故有り金を全部使ったんだ。
計画の無さに呆れるしかない。
「これからどうすればいいんだ⋯⋯ユート⋯⋯ユートくん⋯⋯いや、ユート様。どうかわたくし目にお金を恵んで下さい!」
ザインはプライドがないのか土下座をしてきた。
「仕方ないな。これは貸しだからな」
「わかってる。どこまでもユート様に着いていきます」
よし。予定どおりだな。
俺は今回、敢えてザインが全財産つぎ込むのを止めなかった。
今は旅に着いてきているけど気まぐれな男なので、突然ヴァルトベルクに帰ると言い兼ねない。
だけど金を貸すことによって、少しは恩を感じ⋯⋯いや、よくよく考えてみたけど、ザインは金を貸したくらいで恩を感じるか? 無駄なことかもしれないがまあいい。俺に取っては損はほとんどないからな。
「早く換金しに行こうぜ。ちなみにユートはいくら買ったんだ?」
「金貨一枚と大銀貨一枚だ」
「えっ? マジで? 確か配当倍率は三千倍だから⋯⋯金貨三百枚!」
「大きな声を出すな。それと金貨だと三千三十枚な」
周りの奴らに聞かれたら馬券を盗まれるかもしれない。しかし幸いにも周囲は大穴配当に沸きだっており、こちらに注視している者はいなかった。
「そんな大金どうするんだよ」
ザインはさすがにヤバい額だと思ったのか、小さな声で呟いてきた。
「とりあえず換金したら、城に行くぞ」
「城に? 何でだ?」
「そんな大金を持っていると誰に狙われるかわからないからな」
「なるほど。確かに城が一番安全だな」
まあそれ以外にも理由があるけど今は言わないでおこう。
そして俺達は換金場所で白金貨三十枚と大金貨三枚をもらい、夕陽が照らす王城へと向かう。
王城はバルクシュタインの中心部にあり、写真で見た西洋風の城のような建物だった。
俺達は正門の入口まで来ると、突然前を歩くザインが足を止めた。
「おいユート。今になって考えてみたが、城に行っても何にもならねえんじゃないか? 兵士達が四六時中俺達を守ってくれる訳じゃないだろ?」
「王様に会えば何とかなるんじゃないか」
「王様に? 王様に言って金を守ってもらうのか? そもそも王様は俺達に会ってくれるのか?」
「それは大丈夫だと思う。まあ見ててくれ」
俺は正門を守る二人の門番に近づき話しかける。
すると門番の一人が城の中へ入り、待つこと十分。
「王様の許可が取れた。玉座の間へと急ぐがよい」
「ありがとうございます」
俺は正門から離れた場所にいたザインにオッケーサインを出す。
するとザインは驚いた表情でこちらへと向かってきた
「おいおい。いったいどんな手を使ったんだ? 王様が会ってくれるなんて信じられねえぜ」
「ヴァルトベルクの村で起こったことを報告したいって言っただけだ」
フリーデン王国の国王、エーデルヘルム・ウィル・デ・フリーデンは異世界では珍しく、庶民に寄り添った政治をしていると聞く。
だけどそういう人物こそ妬まれたりするのだが⋯⋯
「玉座の間には一人で行ってもらう」
これは警護上仕方のないことだろう。いくら気さくな国王とはいえ、さすがに複数人と会わせることはしないということか。
「わかりました。ザインはここで待っててくれ」
「了解。俺は堅苦しいのは好きじゃねえからちょうど良かったぜ」
ルルは俺の肩から降りる気はないらしい。
まあ兵士の人も猫が一匹いる分には、特に気にしていないようだ。
一際大きな扉の前に辿り着いた。そして二人の兵士が扉を開くと中は広い空間になっており、部屋の置くに髭を生やした国王らしき人がいるのが見えた。
そして国王の横に立っているのはおそらく宰相だろう。
俺は案内してくれている兵士に続き、玉座の間に入る。
そして国王の前で片膝をつき、頭を下げた。
「ユートよ。余がエーデルヘルム・ウィル・デ・フリーデンだ。面を上げい」
俺は国王の命令に従い、頭を上げる。
「此度はヴァルトベルクの村に強力な魔物が現れたとのことだが、真か?」
「はい。ネクロマンサーエンプレスという魔物で、死霊を操る能力を持っていました」
「むむ⋯⋯宰相。隣国にあるカーボスの村を滅ぼした魔物もそのような名前の魔物だったな」
「はい。これは早急に兵を向けて対処した方がよろしいかと」
既に国王達はネクロマンサーエンプレスのことを知っていたのだな。
前の時間軸では他国のことなど気にする余裕はなかったけど、ヴァルトベルクの前に他の村を滅ぼしていたのか。
「いえ、それには及びません」
「どういうことだ?」
「ネクロマンサーエンプレスは、既に私ともう一人の仲間で討ち取りました」
「それは真か! もし本当のことなら褒美を取らせねばならないな」
(王城に行くって聞いた時は驚いたけど、褒美をもらうのが狙いだったのですか? 先程の配当金もあるし、これは一生お金に困らなそうですね)
確かにルルがそう考えてもおかしくはないけど、俺の目的は違う。
俺はある人を助けるためにここに来たんだ。
それに今のエーデルヘルムには、褒美を取らせるような金はないことはわかっているしな。
俺は褒美の辞退を申し出ようと口を開きかけるが、この時背後から気配を感じた。
玉座の間の扉が開き、一人の女の子が中に入ってきたのだ。
「失礼します。お父様、私にお話があるとのことでしたが⋯⋯」
俺は思わずその声を聞き後ろを振り向く。
まさか今日ここで会うことができるなんて。
前の時間軸で平和を勝ち取るため、共に戦った信頼できる仲間⋯⋯いや、それだけではない。
そこにいるのは、かつての恋人であるリリシア・ウィル・デ・フリーデンだった。
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