第9話 諦めたらそこで試合終了だ
「ニャニャーッ!」
(だから言ったじゃないですか!)
レースの様子を見てか、ルルが俺の顔を引っ掻いてきた。
「うわっ! やめてくれ」
猫の爪で引っ掻かれるとマジで痛いんだぞ。
(私の忠告を無視するからです)
(まだレースは終わってないぞ。諦めたら試合終了って言葉を知らないのか?)
(そんな異世界用語知りません)
ルルがさらに怒ってるな。まあ自分の食生活が下がろうとしているからわからないでもないけど。
俺達がいざこざを起こしている間にもレースは続いている。
そして第二コーナーに差し掛かった時に異変が起きた。
「前を走る三頭が急に止まったぞ!」
ペースが速かったのか、それとも故障だったのかわからない。だが先頭を行く三頭はその場に座り込んでしまう。
そしてさらに悲劇は続く。
止まってしまった三頭を避けるため、後続の馬は外側へと向かう。しかしそこで接触があり、六人の騎手が落馬してしまった。
一瞬で半数の馬が脱落してしまったことに、場内は騒然となる。
「まさかの展開だが、一枠と二枠は三番手四番手で良い位置にいる! 後は前の二頭を抜いてゴールするだけだ」
現在レースを続行している馬は六頭。
イソガバマワレとラストレボリューションも追い上げているが、先頭との距離はまだ十メートル程ある。
このままだと一着は前の四頭に絞られそうだ。
「いけえっ! 一枠二枠に全財産賭けているんだぞ! 夜の店で遊ぶためにも絶対に勝ちやがれ!」
ザインや周囲からより一層歓声が沸き起こる。
倍率が低いということは、一枠二枠に賭けている人が多い。歓声が大きいのも頷ける話だ。
そして先頭集団が第四コーナーに差し掛かった時、ここでさらなる悲劇が起こった。
第四コーナーの内側付近は先日雨が降ったためか、馬場が荒れていた。そのためカーブを曲がる時に四頭共足を取られ、大幅にスピードが減速するのであった。
「何やってるんだ! 気合いだ! 気合いで走れ!」
ザインの願いが届いたのか、一枠と二枠の馬が前の二頭より先に立ち直りスピードを上げていく。そして見事抜くことに成功し、トップに躍り出た。
「よし! よくやった! そのままゴールを駆け抜けろ!」
怒鳴ったり喜んだり、忙しい奴だ。
だが後方にも敵がいることを忘れてもらっちゃ困る。
イソガバマワレとラストレボリューションは、馬場が荒れている内側を通らず外側を通り、前にいた二頭を抜き三番手と四番手になった。
最後の直線に入り、残った馬がラストスパートかける。
「絶対に抜かれるんじゃねえぞ!」
ザインや周囲から熱が入った声援が飛ぶ。
だが勢いがあるのはイソガバマワレとラストレボリューションだ。
このままの勢いならギリギリゴールまでに届くだろう。
後三メートル⋯⋯二メートル⋯⋯一メートル。しかし後もう少しという所で、前を行く一枠二枠の馬が横にスライドし、イソガバマワレとラストレボリューションの進路を塞ぐ。
「よっしゃー! いいぞ!」
一枠二枠の馬が前に来ることによって、イソガバマワレとラストレボリューションは当たらないようにするためスピードを緩める。
そのことが勝敗を分けることになったのか、そのまま順位の変動はなく、一着二枠、二着一枠、三着十五枠、四着十四枠でゴールすることになってしまった。
「取った! さすが俺だ!」
ザインが勝利を確信して、馬券を持った手を高々と上げる。
「ユートも惜しかったけど、結果は見ての通りだ。奢って欲しければ土下座の一つでもするんだな!」
踊り子に金を巻き上げられた後、俺が旅費を出してやったのにこいつは。
(まあ二人共外れるよりはマシです。ですが貴方は外した罰として、しばらくは粟ご飯です)
自分も貧しいご飯にされかけたため、辛辣な言葉を投げてきた。
二人共俺への風当たりが強い。
だがその態度はいつまで続けられるかな?
(どういうことですか?)
レースを運営する職員達がバタバタと動き始める。
そして責任者らしき人が前に出ると大きな声を上げた。
「ただいまのレースは審議になります。お手持ちの馬券は捨てずにお持ち下さい」
その言葉に辺りは騒然となり、職員の動向に皆目を向けるのであった。
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