第8話 男なら一発逆転を狙うべき

 俺達は店員にブラックオパールを売ったお金をもらい、店の外へと出る。


「ザイン助かったよ」

「たくっ! ユートは素直過ぎるんだよ。店を持っている奴らはだいたい騙して来る奴ばかりだぞ」

「肝に銘じとくよ」


 今回ばかりはザインに助けられたな。これは素直に感謝しなければ。


(ですがそのお金はギャンブルに消えるんですよね? それならどっちにしろ変わらないのでは?)

 ルルが頭の中で、少し怒った口調で問いかけてきた。

(まだ負けたと決まった訳じゃ⋯⋯)

(ギャンブルなんて負けるように出来ているんです。それに勝ったとしてもお金の力を使って、異世界ハーレムを満喫するだけですよね)

(そんなことを考えているのはザインだけだ)


 だけど今のルルには、俺の言葉は届かなそうだ。ここは結果を見せて信じてもらうしかないな。


「大銀貨二枚が俺の取り分でいいよな?」

「ああ」


 厳密には大銀貨二枚と銀貨四枚だけど、ザインがそれでいいなら俺からは異論はない。

 俺は店員からもらった大銀貨をザインに渡す。


「それじゃあ早く馬券を買いに行こうぜ。メインレースが始まっちまうぞ」


 そして俺達は急ぎ馬券売り場へと向かう。


「さあ、本日のメインレースは国王杯だ! これまで数々の実績を残してきた十五頭の馬達が熱いレースを繰り出す! 後十分で締め切りだ! 馬券を買うなら今のうちだぞ!」


 ここの職員らしき人が大声で語り始めると、周囲の熱気が上がっていく。そしてそれはザインも同じのようだ。


「ラッキーだな。まさか今日のメインレースが国王杯だったとは。賞金も一番高いし賭ける奴もたくさんいる。これは当たったら倍率も高そうだぞ」

「それより早く買わないと時間切れになるぞ」

「そうだな」


 馬券を売っている場所は五つあったので、俺とザインは別れて早そうな所へと並ぶ。

 そして時間内に馬券を買うことができ、再び合流した。


「ユートは何を勝ったんだ? 俺は一枠二枠の馬連に全財産賭けたぜ!」


 ザインのその言葉にルルは頭をかかえる。

 何故ならこれでほぼ一文無しになってしまったからだ。


「俺は十五枠十四枠の馬単に賭けたよ」

「十五と十四だと⋯⋯一番倍率が高い所じゃねえか! こういうのは一発逆転を狙うんじゃなくて、堅実なやつに賭けた方がいいことを知らねえのか」

「そうなんだ」

「いくら昨日雨が降って馬場が不良だからといって、そんな大穴はぜってえこねえぞ」


 確かにザインが賭けた一枠二枠は倍率三.八倍で、当たる確率が高いと言えよう。

 金持ちになりたいと言ってた割には、リスクが少ない道を取るんだな。


(あなた達二人はバカですか? 呆れてものが言えません)


 ルルはギャンブルに狂った俺達を蔑んだ目で見ていた。


(まあ見ててくれ。必ず当ててみせるから)

(ユートはギャンブルが得意なのですか?)

(いや、今日初めてやる)

(死になさい)


 ルルから辛辣な言葉が返ってくる。前から思っていたが、ルルは絶対Sだろ。


(誰がドSですか! とにかく私の生活水準を下げることは許しませんよ)


 ドSまでは言ってないんだが。


(とにかく文句を言うなら結果を見てから言ってくれ)


 俺は頭の中でうるさいルルをなだめて、レース場へと向かった。

 するとちょうどこれからレースが始まるのか、ファンファーレが鳴り観客は手拍子をし始めた。


「すごい盛り上がりだな」


(煩くてかないません。ユート黙らせて下さい)

(無茶言うな)


 ルルはかなり機嫌が悪そうだ。後で鮮度の良い魚をあげるとしよう。


(鶏のササミも忘れないで下さい)


 俺の頭の中を読んで、さらに要求してくるとは図太い神獣だ。いつかマタタビでもあげて酔っぱらいにしてやろうか。


(失礼な。私は猫じゃありませんよ)


 くっ! 考えを読まれるのも厄介だな。とりあえず今はレースに集中しよう。


 各馬がゲートに入っていく。

 すると騒がしかった周囲は静かになり、皆息を飲んで馬達に視線を送っていた。

 そしてスターターが旗を下ろすと、各馬一斉にゲートから飛び出していく⋯⋯が、いきなりアクシデントが起こった。

 何と十四枠のイソガバマワレと十五枠のラストレボリューションがゲートから出てこないのだ。

 そして先にスタートした馬から二十メートル遅れで、ようやくゲートを飛び出していく。


「おいおい。お前が馬券を買った二頭はもう無理じゃね?」


 ザインの言うこともわかる。普通ならこれ程離されて勝つなど不可能だろう。しかも俺が買ったのは馬単のため、一頭じゃなくて二頭だ。


 このレースを見ていた誰もが、イソガバマワレとラストレボリューションのレースは終わったと思うのであった。



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