第7話 栄えている街に来たらやることは決まっている
ヴァルトベルクを出発して一週間が経った。
「まだ着かねえのかよ。もう疲れたぜ」
「本当ならもう到着しているはずなんだが。ザインが余計な寄り道をするからだろ」
途中で寄った街では、酒場にいる踊り子を口説くからと言い始め二日滞在したが結果、色々と買わされたあげく捨てられた。そしてある村では年上の女性に声をかけ、良い雰囲気になりナンパが成功したかに思えたが、実は既婚者だったのだ。そして怒り狂った旦那や村の人達に追いかけられせいで遠回りすることになり、王都までの到着が遅れている。
「綺麗な女性がいたら声をかけるのが礼儀だろ?」
「そんな自分ルールをさも常識のように言わないでくれ」
「俺は間違ってねえよな? ルルちゃん」
「シャー! シャー!」
ルルは滅茶苦茶威嚇している。
旅をすれば仲良くなるかと思ったが、出会った頃より悪くなっていた。
まあルルは軽薄な奴は好きじゃないっぽいから仕方ないか。
「ほら、ルルちゃんもその通りって言ってるぞ」
「キシャーッ!」
「いや、どう見てもこっちに話しかけないで下さいこの変質者! 勝手に私の気持ちを捏造するなんてぶち殺しますよって言ってるように聞こえるんだが」
実際にルルの考えが頭の中に入ってきているので、間違ってはいない。
「猫語なんてわかるわけねえだろ。ユートは何言ってるんだ」
「ザインが先に言い出したんだろ!」
自分のことを棚に上げて酷い奴だ。
やっぱり旅に連れてきたのは失敗だったか。
王都まで思うように進まなくて後悔してきたぞ。それにこのままだと王都で起こる出来事に間に合わなくなる。
「ザイン急ぐぞ。俺は王都でやりたいことがあるんだ。お前も夜営なんてしたくないだろ?」
「確かに男との夜営なんて最悪だ。可愛い女の子でもいれば別だが」
「俺もそう思うよ」
そしてこの後、俺の言葉が利いたのかザインは寄り道することなく、黙々と歩き始めた。そのため何とか夕方前には、王都バルクシュタインに到着することが出来たのであった。
王都バルクシュタインは五百年の歴史があり、堅固な場所として有名だ。街は高い壁と深い堀に囲まれており、これまで幾度となく敵国や魔物に侵略されてきたが、全て跳ね除けてきたらしい。
俺達は橋を渡って街へと入る。
するとヴァルトベルクでは考えられない人の多さに、俺達は圧倒されてしまう。
「ルルしっかり捕まってろ」
「ニャー」
ザインなら未だしも、ルルと離れたら大変だ。地面にいたら踏まれ兼ねない。
「それで何処に行くつもりなんだ? こんな人混みの中、歩きたくねえぞ」
「とりあえず時間がないから宿は後にして、王都の西側に向かうぞ」
「西側⋯⋯だと⋯⋯へっ! ユートもわかってるじゃねえか」
ダルそうにしていたザインの目に光が灯る。
まあこれから行く所はザインが大好きな所だからな。
「早く行くぞ!
ザインは先程とは打って変わって元気を取り戻し、走り出していく。
「やれやれ。これから
俺はこれからザインに起こる未来を想像し、頭をかかえながら王都の西側へと向かう。
それにしても王都に来たときは人の多さに圧倒されたが、よく見ると物乞いや孤児の姿が多いな。通りも一歩道を外れればゴミが散乱しており、治安が良い場所には見えない。その理由は様々だが、やはり王国は少しずつ破滅の道へと向かっているようだ。
そして二十分程歩くと、さらに人が増えて来たため、ここが人気のスポットだということが頷けた。
王都の西区画は歓楽街で飲食店や劇場、風俗店、賭け事が出来る遊技場、雑貨店などが多くある。
「これは俺がユートを連れてきた訳じゃないからな。おばさんには余計なことを言うなよ」
「わかってる。だけど王都に来たら一度はここに行きたいと思うのは普通だろ」
「だよな。日はまだ高いから大人の店は後にするとして、まずは遊技場にでも行くか?」
「そうだな」
「バルクシュタインは賭け馬が一番盛り上がっていると聞いたことがある。行ってみようぜ」
賭け馬とは簡単に言えば競馬だ。ただ日本の競馬とは違って単勝、馬連、馬単の三つしかないのが特徴だ。
「だけどその前に宝石商店に行かないか? ブラックオパールを売りに行かせてくれ」
「そうだ⋯⋯あの踊り子のせいで一文無しだった。も、もちろん宝石を売った金を俺にも回してくれるんだよな?」
「二割だけな」
「よっしゃー! それじゃあ早く宝石店に行こうぜ」
本当はザインに銅貨一枚も渡したくない。何故なら
だけど金を渡さないと旅に行かないと言い兼ねないので、少しだけ分けてやることにする。
そして俺達は宝石店を見つけたので中に入り、中年の男性店員に話しかけた。
「すみません。買取りをお願いしたいのですが」
「ほう⋯⋯見せてもらおうか」
何だか上から目線な話し方だな。もしかして俺達が若いから舐められているのか?
だが元々この世界の接客態度は、日本人には及ばないということはわかっているので、俺はグッと堪えて店員にブラックオパールを渡す。
「これは⋯⋯まあまあだな。黒い地色に真っ赤な模様が入っているレッドインブラックと呼ばれる物だ。大銀貨五枚⋯⋯いや六枚で買い取るがどうする?」
大銀貨六枚か。悪くないとは思うけど宝石の価値などわからないので、これが高いか低いかわからない。
ちなみに日本の通貨と比べるとこの世界の通貨は⋯⋯
銅貨は百円。大銅貨は千円。
銀貨は一万円。大銀貨は十万円。
金貨は百万円。大金貨は千万円。
白金貨は一億円。大白金貨は十億円となっている。
一応頭の中でルルに聞いてみたけど、ルルも宝石の価値はわからないようだ。
確か賭け馬の最終レースは夕方に始まる。ここでこれ以上時間を取られると賭けることが出来なくなってしまう。
仕方ない。ここは早く大金を手に入れるために、店員の言い値で売るしかないか。
「わかっ⋯⋯」
俺はその値段でいいと声をあげようとするが、後ろからザインに肩を掴まれた。
「ちょっと待て。さっきの店だと金貨一枚の価値があるって言ってたよな。こんな舐めた金額を出す店で売ることはねえぜ」
「なっ!」
店員がザインの言葉に焦り出す。
どうやらこれはザインの言うとおり、この店員は俺達のことを甘く見ているようだ。
「そうだな。さっきの店に戻ろうか」
俺はザインの意図がわかったので話を合わせる。
「わ、わかった。金貨一枚で買おう。これでいいだろ?」
「はあ!? オパールを安い金額で買取ろうとしていたくそみたい店に何で売らなきゃいけねえんだ? 同じ金額なら良心的な価格を出してきた店で売るに決まってるだろうが」
「それなら金貨一枚と銀貨五枚でどうだ!」
「金貨一枚と大銀貨二枚。これ以下なら売らねえ」
「くっ!」
ザインが強気に価格設定を提示する。
店員は初めに大銀貨六枚なんて安い価格を口にしてしまったせいか、ザインに押されているように見える。
「わ、わかった⋯⋯金貨一枚と大銀貨二枚で買い取らせて下さい」
そして店員は観念したのか、絞り出すような声を上げるのだった。
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