第21話 李梅のアジトにて⑤
前のめりに倒れた李梅の死体には目も向けず、結芽は王野の座らされていた椅子に腰掛けると足を組んだ。そのままタバコを咥えて、ライターで炙った。
少し考えるそぶりをした後、ふーっ、と王野に向けて副流煙を吐き出した。
「39点」
「申し訳ありません」
ネクサクオンタムに忍び込んだ、中国人スパイを炙り出して始末する──それが今回のミッションだった。
佐藤真希──李梅の正体を以前から把握していた結芽は、わざと王野を人質に取らせるように彼女らをけしかけた。
「王野が奴らに人質として捕まった時点で、このアジトを壊滅させることはできた」
人質に取られた王野がアジト内で暴れて李梅たちを壊滅させれば、それで終わりだった。
いわば今回のミッションは、勝てて当然の状態、職業訓練のようなものだった。
そんな簡単な状況だったからこそ、企業救出課の実力を図るには絶好の機会だと思った。
「救出課の連中は、私の護衛任務すらまともにこなせていなかったばかりか、はっきり言って油断しすぎだ」
一番最初に護衛についた兵頭は、公園で自分と話し込むのに夢中で、殺し屋がこちらに向かっていることに気づいていなかった。
なので、奴が引き金を引く動作に合わせて、兵頭の首筋に睡眠薬を流して眠らせてやった。
兵頭の後に護衛についた岸は慎重派のようだが、自分の存在そのものには完全に油断していた。
茶に睡眠薬を混ぜると、簡単に騙されて眠りについた。
その後の聖も久院も、ひどいものだ。
護衛対象からは目を離す。おまけにネクサクオンタムに忍び込んだ殺し屋にも気づかない。久院も電話に気を取られて背後を襲われるなど論外だ。
「私は部署を変更する。手続きをよろしく」
「承知しました」
「まったく──この『仮面』も替え時だな」
放り投げられた若葉の仮面は、李梅の死に顔の上に、はらりと被さった。
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