第12話 車内にて
「若葉さん、兵頭はどこを撃たれたんですの?」
「それが、傷が見当たらなくて──ひっ」
バックミラー越しに、若葉を睨んだ。
「おかしいですわね。兵頭は撃たれて気を失ったはずでは?そもそも、生きていますの?」
「は、はい。息はあります……」
「そう」
久院はため息混じりに返す。
いい気味ですわ──と、久院の頭をよぎった。
兵頭は、プライドばっかり高い女だというのが、彼女の下した評価だった。
大して優秀でもないのに、自分は紫閃結芽の一番弟子気取り。お前らより遥かに優れていると言わんばかりの態度。おまけに班長の自分のことも見下した様子。今回の護衛だって一人で十分だと言っていたにも関わらず、このザマだ。
ちらりと後部座席で気絶する兵頭を見て、僅かに頬を釣り上げる──今回のことは、いい薬になっただろう。
べちゃっ、と鳩のフンがフロントガラスに張り付いた。久院はそれとなくワイパーで拭き取りながら若葉の方を見た。
わざわざ彼女を全員で守る意味、それは何だろうか。
今回の作戦は、久院も完全に納得できていない。
若葉にしてみれば酷い言い分だが、いくら会社の人間とはいえ、救出課総出で守るべき人材だとは思えない。
言葉を選ばなければ、いくらでも替えが効き、いつだって切り捨てられるような末端の社員。
しかも窓際族。出勤だけして仕事をせずに、チェスで遊んでいるような奴だ。
解雇する理由などいくらでも作り上げられるだろうに、それをせずに神龍から全員で命を守れだなんて、はっきり言って馬鹿馬鹿しい作戦だ。
無論、リーダーの王野が言うことは絶対だ。それはみんなも納得しているだろう。
だが、どうしても腑に落ちない。
王野にとって、若葉を守る確かなメリットがあるのだとすれば。
彼女しか知らない会社の秘密があるとすれば。その重大な鍵を握る人物だとすれば。
あの若葉が──
「──ひゃうっ」
ごつん、と車のカーブで窓ガラスに頭を打ち「あいたたぁ〜」と頭を押さえる若葉──そんなわけないか。
こんな天然小娘が、会社の機密を握っているだなんて、ありえない。
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