第13話 通勤路にて


『兵頭は無事、運ばれたそうですわよ』

「よかったです……」


 電話での久院の連絡に、胸を撫で下ろす若葉に『ふんっ』と鼻を鳴らし、


『兵頭よりも、自分のことを心配すべきですわ。神龍の追手は、おそらくあなたを追っているでしょう』

「そんな──」

『でも心配しないでくださいまし。あなたの護衛は既に、そちらに到着しておりますわ』

「それって」


 ちら──と、背後を見る。

 電柱に潜む細長い人影。

 若葉が少し歩くと、しゅたたたたっと次の電柱に高速で移動した。

 若葉の嫌な予感が正しければ、あれが次の護衛で間違いないだろう。


「大丈夫なんですか?あれ」

『彼女は忍びの一族。今を生きるくノ一のエリートですわ』

「うさんくさいですね」

『あなた、急に失礼になりましたわね』

「だって、バレバレなんだも──ひゃぁああああっ!?」


 しゅたたたたっ!と彼女は素早く若葉の眼前にまでやってくる。


「野窓若葉」

「は、はいっ!」

「貴様にはあえて見えるように護衛しているのだ。断じて胡散臭くなどない」


 さっきの発言が気に障ったのだろうか。鼻息荒くポニーテールを揺らしながら睨んでくる。


「す、すみません」

「分かればよかろう」


 彼女は再びしゅたたたっと電柱に忍んだ。救出課は曲者揃いのようだ。


『岸は身を守る護衛術をいくつも身につけているわ。安心しなさいませ』

「は、はぁ」


 ぷつん、と電話が切れる。


「不安だ」


 しゅたたたっ!


「私がいるのに、不安とはなんだ」

「す、すみません」

「分かればよかろう」









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