第11話 公園にて②

「……ちょ、ちょちょちょっと!兵頭さんっ!やばいですよっ!」


 気絶した兵頭の体を揺さぶるが、微動だにしない。


「無駄だ、そいつが目を覚ますことはないだろう」


 煙をくゆらせる銃を、若葉の方に向ける。いきなりの大ピンチに、若葉はベンチの上に立って、逃げ出そうとする。


「素人が、逃げられると思っているのか」

「──ひっ!?」


 若葉の眼前に立ち並ぶ木々から、神龍の人間たちがぞろぞろと姿を見せる。そのいずれもが真っ黒な拳銃を握っており、殺気を滲ませていた。


「李梅さんからの命令でな。お前には確実に、消えてもらわなくてはならない」


 かちゃかちゃかちゃっ──持ち上がったそれぞれの銃口は、若葉の頭部、心臓部を中心に向いていた。


「わ、私忘れましたからっ!あなた達のことなんて知りませんから!誰にも言いませんから!」

「無駄な命乞いはよせ。我々、神龍テクノロジーズは同情など絶対にしない」


 引き金に指が乗せられた、その時だった。


「──ッ!?」


 一台の黒いベンツが、急なカーブで公園の柵を突き破り、侵入してきた。

 ベンツは若葉の眼前にいた神龍の女性を突き飛ばした。女性は「げふっ」と呻いて樹木にぶつかって気を失う。


「大丈夫ですの!?若葉さんっ!」


 車のドアが開き、金髪を揺らしながら出てきたお嬢様口調は、救出課の久院だった。


「く、久院さんっ!」

「早く乗ってください!逃げますわよ!」


 その口調とは似ても似つかないバイオレンスな振る舞いに戸惑いつつも、若葉は「は、はいっ!」と返事して気絶する兵頭に駆け寄り、抱き上げた。


「若葉さん、兵頭はもう、いいですから!」

「いいえだめです!まだ息があります──ひゃあっ!」


 若葉の足元を銃弾が走った。久院は「まったくもう!」と車を降りると、腰にひっ下げたナイフを取り出し、勢いよく投げた。


「──ぐっ」


 ナイフは若葉を撃とうとする敵の手に突き刺さり、拳銃が手からこぼれ落ちた。久院はすぐさま若葉に駆け寄って襟首を掴み上げると「ほら、行きますわよ!」と、兵頭ごと後部座席に放り投げた。

 そのゴリラのような怪力におののく間もなく、久院はアクセルを踏みしめて公園を飛び出した。後ろのガラスに何発かの銃弾の突き刺さる音が鳴り響いた。


「防弾なので、大丈夫ですわよ」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る