第8話 「鳥」の秘密
「え!」
驚いているうちに白い塊はもそもそと頭を出すと、黒い目をした小さな鳥となった。羽の色は白いが、形や首の動きはスズメによく似ている。
「ええ?……オリバーさん、これはどういうことですか?」
「通信用の鳥です。どうぞ触ってみてください」
そう言うと、オリバーはそっとリリーの手のひらに鳥を載せた。大人しくしているだろうかと不安になったが、リリーの手に移っても暴れだすことなく、きょろきょろと辺りを見渡している。触り心地はとても柔らかく、気持ちが良い。
「うわっ、ふわふわですね!……あれ?」
だが触っているうちに、リリーはあることに気が付いた。手のひらにある鳥は、温かくもなく、息づいてもいないのである。
リリーは戸惑いつつ「本物の鳥、ではないですよね?」と尋ねると、オリバーはうなずいた。
「ええ。機械です」
当然のように答える彼に、リリーはまだ頭が付いていけなかった。
「確かに、鳥の内臓……っていうのでしょうか。あの水がたぷっと入っているような感覚はないんですが、羽なんて本物みたいです。機械的な重さもほとんど感じられませんし、信じられません」
リリーが鳥を手のひらに載せたまま、腕を上下に動かしていると、オリバーは「本物に似せて作っているんです」と言った。
さも当たり前なことだが、彼の言っていることには問題点がある。
「それはそうなのでしょうけど……。3Dプリンターを使ったとしても、鳥の羽をこれほど精巧には作れないと思います。それなのにこれは触った感じも、私の知っている羽毛によく似ていますし、重さも機械の概念から考えるとありえないほど軽いです。鳥と同じくらいの軽さなんて信じられない……。普通なら鳥の機械を動かすとなればバッテリーとそれを動かすモーターや基盤が必要なのに、これはあまりにも小さくて、さらに軽くて……それに動きだって似ていて、とても機械とは思えません……」
コンピュータの性能が飛躍的に向上した現代でさえ、精巧な鳥の機会を作るのが難しいというのに、六十年前にあったというのはおかしな話だ。
だがオリバーには、この疑問に難なく答えることができるパズルのピースを持っている。彼は調子を変えることなく、これまでと同様に説明をした。
「リリーさんが驚くのも無理はありません。これらは全て、地球ではないところの技術を用いて作られています」
その瞬間、リリーははっとした。
「まさか、時間の遅れているという別の世界のものですか……?」
リリーが「鳥」を返しながら尋ねると、オリバーはテレビのクイズ番組で「正解」だと言う司会者のように、微笑みながら「お察しの通りです」と言った。
「念のため言い添えておきますと、『通信用の鳥』は私が別の世界から持ち込んだわけではありません。私が塔の管理者になる以前から、他の管理者がその世界と接触していて、これらを含む小道具の技術をいくつか持ち込み使わせてもらっているのです」
彼の説明に、リリーはわずかに眉を寄せる。
何故、別の世界の技術を持ち込まなければならなかったのかが、分からなかったからである。
「さて、リリーさんがアンから聞いた話の中で、トーマスが私のことを『鳥』と呼んでいたと説明したかと思います」
リリーは納得できずに小首を傾げていたが、オリバーは話を「鳥」に戻してしまった。しかし、彼の意図も分かる。他の質問をしていたら、本題の回答を聞けないまま一日が終わってしまいそうだからだ。
そのためリリーは頭を切り替え、素直にうなずいた。
「はい」
「彼が私のことを『鳥』と呼んでいたのは、私以外の人と話すときにのみに使っていました。つまり、私と話すときは『オリバー』と呼んでいたのです」
「では、どうして『鳥』と言っていたのでしょうか?」
「推測ですが、理由は二つあると思います。一つは、私がよくこの鳥を使ってやり取りをしていたからだと思います。声を吹き込み、窓から飛ばす。それを繰り返しているうちに、鳥と話していると思ったのでしょう。まさかそれが通信機器などとは思っていないはずですから」
リリーは彼の説明に納得した。
鳥の研究をしている人なら分からないが、普段あまり見ていない人は本物の鳥と
「もう一つは?」
「トーマスの家族と来客者に私の存在を隠すため、名前を
「そういうことでしたか……」
リリーは納得しつつも、まだ祖母が見たもので謎のものがあったことを思い出し質問をした。
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