第6話 ペンダント

「ただ、私が塔の管理者としての仕事を引き継いで思ったのは、『時には自分の身を危険にさらすことさえ、いとわない者でなければ、この仕事は勤まらない』ということです。自分が『塔の管理者』であることを理由にとらわれたとき、つくづく実感しました」


「ということは、相手はオリバーさんが『塔の管理者』ということを知っていて、その……捕まえたということですね?」


「ええ」


「でも、どうして知っていたんですか? オリバーさんが彼に話をしたのですか?」


 リリーの矢継ぎ早の問いに、オリバーは美しい手つきでコーヒーを一口飲んでから答えた。


「一つずつ理由を語る前に、情報を整理いたしましょう。私を閉じ込めた男は、トーマスと言って、リリーさんもお聞きになったかと思いますが、アンを雇っていた実業家です」


「お二人は、何かしらの関係があったのでしょうか?」


 するとオリバーは「いいえ」と言って、首を横に振った。


「そのため、出会いも唐突でした」


「どこで出会われたんですか?」


「多くの人が利用する公園です。そこで彼は私に声を掛けてきました。どうやら――」


 というと、オリバーはおもむろに首にかけていたものを外し、服の中から取り出して手のひらに載せるとリリーに見せてくれた。


 そこには、ブロンズでコーティングれた直径五センチ程度の丸い形の縁取りの中に、ほっそりとした姿の二等辺三角形のペンダントがあった。頂点は全て丸の縁にそれぞれくっついており、二等辺三角形にだけエメラルドグリーンの色をしたガラスがはめこまれている。厚さは三ミリくらいで、とてもシンプルなペンダントだ。


 リリーはそれを眺めながら、構造がホイール型のマカロニに似ているなと思った。


「私の首にかけてあった、このペンダントを見て声を掛けてきたようです」


「これは?」


「『塔の管理者』たちが必ず持っているものです。普段はこのようにして服の下に隠しております。でも、それほど神経質になる必要はありませんでした。『塔の管理者』と関わった者でなければ、ペンダントにどんな意味があるかは知りませんから」


「じゃあ、トーマスはそのペンダントの意味を知っていたということですか?」


 リリーの問いに、オリバーはうなずいた。


「ええ。彼の祖父そふが『塔の管理者』だったようで、塔の話を聞いたことがあったようです」


 リリーは、口の中で小さく「そうですか……」と呟く。

 オリバーとトーマスの出会いは偶然ではあるが、トーマスが塔のこととペンダントのことを知っていたら、声を掛けることもあるかもしれないと思った。

 しかし、疑問もある。


「オリバーさんが彼と出会った経緯は分かりました。ですが、不明なことがあります。ペンダントと塔のことを知っていたからと言って、どうしてオリバーさんを閉じ込める必要があったのでしょうか?」


 ペンダントを見たからといって、部屋に閉じ込めておくのはおかしな話である。

 すると、オリバーはその理由を教えてくれた。


「捕まったあとにトーマスから聞いた話では、彼は管理者になりたかったそうです。思うに、彼の祖父は元々孫に継がせようと思って塔の管理者の話をしたのでしょう。ですが、何らかの理由でかなわなかったのだと思います。トーマスは、塔の管理者になることを諦められなかったようで、見たことのあるペンダントを持っていた私に近づいたと言っていました」

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