第10話 奏の行方(イリス視点)
奏がアルスに攫われて、数日が経過した。
私達は無事に亜人の国の玄関口である港に着いていた。
「イリス、大丈夫?最近体調が悪そうだけど」
「大丈夫よ、長旅で疲れただけだから」
アルを心配させないように振舞っているが、実際はかなり無理をしている。
最近は少しでも強くなるために魔法の練習を寝る間も惜しんで続けている。
すると突然体の力が抜けて、その場に座り込んでしまった。
「うぐ・・・」
「イリスさん、やっぱり一度休まれたほうが」
「奏は今も捕まってるわ、私が助けに行かないと・・・」
私が立ち上がろうとすると、アルが私の肩を掴んだ。
「イリス、休んで」
「離してよアル」
するとアルは私に何かを飲ませた。
「アル何を!うぐ」
その時口の中に広がったのはアルコールの味であった。
やがて酔いが周り、私はその場で意識を失ってしまった。
目を覚ますと、どこかのベットの上で眠っていた。
「イリスやっと起きたね」
声の主はアルだった。
どうやら私が起きるのをずっと隣で待っていたらしい。
「アル、ここって」
「ここは港の宿屋だよ」
「まったく、イリス今まで一睡もしてなかったでしょ」
「そう、ね」
どれだけ虚勢を張っていても、アルにはバレていたらしい。
長年一緒に過ごしただけあって、感は鋭いのだろう。
落ち込む私を見て、アルがクスクスと笑い始めた。
「あはは、なんだか昔のイリスみたいだね」
「昔の私?」
「うん、イリスは覚えてるかな」
「昔イリスのお母さんが病気で倒れたときも、眠れなくて倒れたことがあるんだよ?」
アルにそういわれて、なんとなく思い出した気がする。
あの時はお母さんを治すために毎日がむしゃらになって動いていた。
少しでも魔獣の森で戦えるように、寝る魔も惜しんで魔法を研究していた気がする。
「奏ちゃんはきっと大丈夫だよ、なんたって一度アルスを倒してるんだからね」
「もしかしたら今頃、逃げ出すことに成功してどこかでのんびり過ごしているんじゃないかな」
「ふふ、そうだといいわね」
それからアルと話していると、ユラが部屋に入ってきた。
「イリスさん起きましたか?」
「おはようユラ、今の時間はこんばんはかしら?」
ユラは私の姿を確認すると、泣きながら抱き着いてきた。
「イリスざん良がっだぁ、元気になっでぇ・・・」
「心配かけたわね、今後はもう無理はしないって約束するわ」
その後夕食の席でアル、ユラと一緒に奏の行方について話し合うことにした。
「ひとまず手がかりを探してみましょう?」
「うん、まずはアルスがどの方向に向かったかを知らないと」
「それなら分かっているわ」
私は大陸の地図を広げ、初めにミルス公国を指さした。。
「地図を見ると私達が今いるルーチ大陸はミルス公国の東にあるわ」
「だから船は東に直進していた」
「アルスは船の右斜め前を進んだから、方角としては南東方向になるわね」
「なるほどね」
「でもこれだけじゃ途中で方向を変更されたら分からなくなるわ」
「そこで大陸の南側を中心に人が幽閉できるような大きな建物を探しましょう」
次の日になり私たちは港の冒険者ギルドを訪ねた。
そこで茜と合流した。
実は船に乗っていた時から、茜達には奏の捜索に協力してもらっている。
「あ!イリスさんご無事でしたか?倒れられたと聞いたので・・・」
「大丈夫よ、ただの寝不足だったから」
そして横から大量に資料を抱えた春と水樹がやってきた。
水樹と春は資料を机の上にどさりと置いた。
資料は大陸の南の歴史や、文明について書かれている。
「持ってきたよぉ、重かった・・・」
「まったく、こんな大量の資料何に使うのよ?」
「ありがとう、これから奏を探すために使うのよ」
資料を調べる作業は夕方まで続き、資料の中でいくつか有用な情報を手に入れた。
ルーチ大陸の南側は暖かい気候をしているため農業が盛んである。
そのため大型の建造物は首都のある北側に比べて少ない。
おかげで場所を3つにまで絞ることが出来た。
「一つ目は領主の館ですか・・・」
「えぇ、この館は以前まで子供のいない領主が住んでいたそうよ」
「今は空き家になっていて、30年前から誰も住んでいないらしいわ」
「まずはそこに行ってみましょうか」
「そうね」
それから私たちは馬車に乗り込み、館に向かった。
数日ほどしてようやく館についた。
館は資料で見た写真よりもかなり酷い状態であった。
壁はあちこち崩れており、美しかった庭園は草木で荒れ果てている。
「これは外れかしら」
「そうなのかな」
すると茜が何かを発見したのか、声を上げる。
「イリスさん、あれを見てください」
茜は屋敷の右側にある小さな小屋を指を指した。
「あの小屋がどうしたの?」
「魔力を感知する魔法を使用してください」
「分かったわ」
茜に言われるがまま魔法を使うと、小屋からほのかに闇の魔力を感じる。
茜に言われなければ危うく見逃すところだった。
「よく気が付いたわね」
「いえ、私の師匠から怪しいところは魔力を感知しろって言われているので」
「良い師匠ね」
それから小屋の中に入ると、机の上に古い手紙が置かれている。
「手紙?誰のかしら・・・」
手紙を手に取り読んでみると、手紙はどらやら領主の使用人が書いたものだったらしい。
ーーー△ーーー
敬愛なる領主様へ
お元気でしょうか?
このお手紙は領主様へ私の気持ちを伝えたくて書かせていただきました。
私とあなたは小さい頃からのお付き合いでしたね。
始めは私が村の近くの森で魔物に襲われたときに、たまたま通りかかったあなた様に助けていただきました。
それからあなた様が領主になるまで、毎日一緒に過ごしましたね。
今でも昔のなつかしい記憶を思い出すことがあります。
私は昔からあなたのことを慕っておりました。
ですが私はただの平民、あなた様と婚姻を結ぶことはできません。
せめてあなた様のそばにいたいと、名前をアンナといつわり、変装をして30年間あなた様にお使えしてきました。
私もすっかり年をとり、今では立派なお祖母ちゃんです。
もし願いが叶うなら、来世ではあなた様と添い遂げたいと思っています。
最後になりますが、こんな私を雇っていただいてありがとうございました。
ミーナ
ーーー▽ーーー
手紙を読み終えると、闇の魔力がいつの間にか消えていた。
「ミーナさんはこの後どうなったんでしょうか」
「わからないわ」
「でもここの領主は誰とも結婚しない変わり者だったそうよ」
「そして常にだれかを探していた」
「だから当時の人たちは、領主のことをずっと心配していたそうね」
「領主様はずっと独身だったんでしょうか」
「そうでもないらしいわ」
「あれだけ女っ気のなかった領主が年を取ってから、きれいな白髪の老婆を連れて街を歩いていたそうよ」
「それはよかったですね」
手紙の近くをよく見ると、銀色の指輪が置かれている。
指輪には「敬愛なるミーナへ」と小さく文字が彫られていた。
きっとミーナは手紙を読んだ領主と結ばれたのだろう。
私はそっと机の上に手紙と指輪を置き、そのまま屋敷を離れた。
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皆さんお久しぶりです。
作者は忙しさに体調不良も重なり、なかなか投稿できませんでした。
今後は少しずつ、体調にも気を付けながら投稿を続けたいと思います。
異世界転生したから今度こそモテモテになると思ったのにTSしたから無理なんですけど!!! りくりく @rikuriku1225
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