第9話奏の行方(奏視点)
奏が目を覚ますと、薄暗い部屋で監禁されていた。
周りには動物のぬいぐるみやピンク色のカーテンなど、女の子が好きそうな装飾がされており、ほのかに香水の匂いもする。
自分の手足を見ると銀色の鎖で拘束されており、奏の怪力をもってしても引きちぎれなかった。
しばらくすると部屋にアルスが入ってきた。
「元気かな?、奏ちゃん」
「何が目的だ?」
奏がアルスを睨みつけると、奏を拘束した目的を話し出した。
「そんな顔しないでよ、そうだね何から話そうか・・・」
「君はパラレルワールドについて知ってるかい?」
「パラレルワールド?」
「そそ、簡単に言うとこの世界と時間の流れが同じなんだけど、起きる出来事が変わっている世界のことだよ」
そう言うとアルスはポケットから、紫色の宝石を取り出した。
「これ何か分かる?」
「そんな宝石見たことないな」
「これはね、本来君に植えつけられる予定だった魔人のコアなんだよ」
「君はもともと魔人として生まれて、私たちと一緒に魔王軍として戦う予定だったんだ」
「でもそうはならなかった」
「やがてこのコアはその辺にあった植物に取り込まれて、出来損ないのドライアドが生まれた」
「あ!安心して、そのドライアドは倒しておいたからね」
「本来このコアは君に適合するはずだったんだけど、あるイレギュラーが起きた」
アルスは奏の耳元に近づき信じられないことをつぶやいた。
「そうでしょ?奏ちゃんの中にいる転生者さん?」
「ぐ!」
奏は急いでアルスを振り払った。
「いやぁまさか、別の人格が入っちゃうなんてね?」
「どおりで魔人としての人格がないわけだよ」
「というわけで、これからこの宝石を奏ちゃんに取り込ませたいと思います」
アルスは抵抗する奏の顎を無理やり開かせて、宝石を飲み込ませた。
「ゲホ!ゲホ!何をして・・・」
すると奏はお腹の奥から激痛は走り、お腹を押さえて苦しみだした。
「あが!・・・がが」
やがて奏が意識を失うと、奏の意思と反して体が動き出した。
アルスは動き出した奏を喜びながら眺めている。
「さ、君はだれかな?」
「ワタ・・・シハ」
「奏?なんだこの記憶は・・・」
「ありゃりゃ、奏ちゃんの記憶が残っちゃってるのか・・・」
「誰だお前は?」
「私?私はアルス、君と同じ魔人だよ」
すると奏?は鎖越しにアルスを吹き飛ばした。
「げほ!・・・あれ?おかしいな」
「元の人格に戻れば、こっち側に来てくれると思ったのに」
アルスは奏の行動が計算外だったようだ。
奏?はとんでもない力を振り絞り、鎖を引きちぎった。
そして窓を割って、部屋から出て行ってしまった。
「あ~あ、ここ魔王様の部屋なのに・・・」
アルスは飛び散ったガラスの破片を掃除し始めた。
ーーーーーーーーーーーーー
奏?は現在森の中をさまよっていた。
奏?は今まで体験したことのないはずの、他人の記憶に戸惑っている。
それは前世である白川奏の記憶と、イリス達と旅をしたこの世界での記憶だった。
その記憶を思い出すたびに頭に激痛が走り、今にも別の存在に人格を乗っ取られそうな感覚がしている。
「アルスという魔人への行動も不可解だ」
「この体は今どうなってる・・・?」
それから頭痛に耐えながら森を抜けると、亜人の村にたどり着いた。
「誰だぁおめぇ?」
近くを通りかかった少女の声が聞こえる。
奏?は頭痛による疲労が限界に達し、そのまま意識を失ってしまった。
「亜人の子か!?こらいけねぇ!早く助けねぇと!」
ーーーーーーーーーー
奏は夢の中で、新しく芽生えた人格に会っていた。
「誰だ?」
その人格は奏とそっくりな容姿をしており、奏が話しかけても一言もじゃべらない。
すると奏?はふらっとどこかに消えてしまった。
あれがアルスの言っていた、魔人としての人格なのだろうか。
再び目を覚ますと、いつの間にか知らない民家のベットで眠っていた。
「ここは・・・」
「お!起きたか?急に倒れたもんでびっくりしただよ」
目の前には頭に牛の耳がついている、亜人の少女がいた。
「あなたは?」
「ん、おらか?おらは牛人族のミルっていうんだべ」
「森で倒れてるお前さんを助けたんだよ」
「そうでしたか、ありがとうございます」
奏にはアルスの目の前で意識を失ってからの記憶がない。
奏のもう一つの人格が、ここまで移動したのだろうか。
奏はひとまず、この村のことを聞くことにした。
「ここはどこの村なんですか?」
「ここはルーチ共和国の中にあるガザ村っていう、小さな村だよ」
「主な特産品は乳と小麦だな」
「なるほど・・・」
奏はミルの大きな胸を見て察した。
「あの、お礼がしたいので何か手伝えることはありませんか?」
「お!いいのか?助かるべ!」
その後ミルが栽培している畑を手伝うことにした。
今はちょうど収穫の時期というのもあり、一人でも人手がほしいとミルは嘆いていた。
奏は植物の能力を使い、大規模な収穫を行った。
その方法は操作したツタで数十本の鎌を持ち、一気に収穫するものだったが次々と刈り取られていく小麦を見て村人達は大喜びしていた。
「おめぇすげぇんだな、あっという間に終わっちまった」
「お役に立ててよかったです」
「お礼に今日の夕食は豪華にするべ!」
それから夜になりミルと一緒に夕食を食べていると、ミルは奏のことを聞いてきた。
「なぁ奏、おめぇは何処から来たんだぁ?」
「実は魔人に連れ去られて、そこから逃げてきたんです」
「もともとは仲間と一緒に亜人の国に向かっていたのですが・・・」
「そりゃ大変だったなぁ、その前は人間の国にいたのか?」
「そうですね、ゲインっていう町にしばらく住んでいました」
「なるほどなぁ」
奏はふとミルのことが気になった。
「あの、ミルさんは何歳なんですか?牧場を一人で切り盛りしているので気になって・・・」
「おらか?今は15だべ」
「もともとおとんとおかあがやってた牧場だったんだが、人間の街に行ったっきり帰ってこねぇんだ」
「まったく今何してんだかな」
奏はミルさんに人間の国の現状を伝えようか迷っていた。
亜人狩りでほとんどの亜人はいなくなってしまった。
その中には奴隷として売られ、過酷な労働によって命を落としたものも少なくない。
するとミルはある飲み物を出してきた。
「それは・・・」
「辛気臭い話は終わりだぁ、今日は牧場自慢の乳で作った酒を飲むぞ!」
「あの、失礼じゃなかったらでいいんですけど、その乳って誰のなんですか・・・?」
「誰?そりゃおら自慢の牛たちの乳だべ」
ですよねぇ!
奏は変な想像をしてしまったことを深く反省した。
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