第6話 船上の事件
この町に来て今日で1週間がたち、ようやく出航できるようになった。
今回出航する船は3席あり、僕たちは家族ずれや冒険者パーティが予約する大人数向けの船を予約していた。
船に乗り込み荷物を整理した後、船も無事に出航し、僕たちは船の中を見て回ることにした。
するとアル姉が春たちの姿を発見した。
どうやら僕たちはたまたま春たちと同じ旅客船を予約したらしい。
「春ちゃん達だ」
「アルたちもこの船だったのね」
「うん、ここ以外の船は一人用の部屋が多いから、その分料金が高くなっちゃうんだよね」
ちなみに今回の料金は4人用の部屋を予約したため、一人当たり約90万ミルスほどと想定よりも安く済んだ。
「あんたたち仲いいわね、同じ冒険者パーティでもよっぽど仲が良くないと同じ部屋には泊まらないわよ」
冒険者パーティは元々他人が集まってできたパーティだ。
昔同じパーティ内で窃盗事件が相次いだことがあり、現在は家族や恋人以外は基本部屋を分けることが多いらしい。
「私たちはみんな同じ孤児院で育ったからね、セージでも同じ部屋だったし」
「セージ!?奏ちゃん達そんな危険なところに行ってたの!?」
すると水樹がそれを聞いて驚いていた。
「そういえば水樹は酔いつぶれて部屋にいたから、その場にいなかったわね」
「私がいないときにそんな重要な話してたの!?」
「そうよ、あの時は私たちも驚いたわね」
春たちは数日前のことを思い出していた。
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春たちが泊まる宿屋には一階に食堂があり、今日はみんなで食事をとることにした。
「おいしいね!奏ちゃん!」
「本当だねユラ、初めて食べた料理かも」
この時出された料理はこの世界特有の具材が使われたアヒージョだった。
前世でも食べたことがない食材だったため、始めは少し躊躇したが食べてみるとこれがかなりおいしい。
すると春たちは僕たちと別れた後のことを聞いてきた。
「アル、検問のあの後どこに行っていたの?」
「ミルス公国の首都だよ」
「もしかしてセージかしら、そんな危険なところに行ってたのね」
「魔人が現れたって聞いたから、よく無事にここまでたどり着いたわ」
「うん、大変だったよ」
春とアル姉が話していると、茜がセージを救った冒険者を褒め始めた。
「それにしてもその冒険者の皆さんはすごいですよね、信用を落としたセージに力を貸して、街まで救っちゃったんですから」
「えへへ、それほどでも・・・」
「ん?アルさん達ではないですよね」
アル姉の反応に茜は困っている。
するとイリスがセージでの一件を話始めた。
「皆さんが噂の冒険者だったんですか!?」
「そうなるわね」
「奏が聖騎士の勲章を持ってたのも納得だわ」
「そんなに噂になってるの?」
「えぇこの町だけじゃなくて、周りの国にまで話が広がってるわ」
「そのおかげで亜人の方々の扱いが変わったと知りました」
「それならよかったわ」
きっと教皇やミレニア王女があの事件のことを各国に広めているのだろう。
少しづつでも亜人差別が無くなっていくことを願うばかりだ。
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「そんな話をしてたんだ・・・」
「これに懲りたらお酒はひかえる事ね」
「はい・・・」
それから春たちと共に船を見て回っていると、どこかからか女性の悲鳴が聞こえた。
僕たちは急いでその場所に向かうと一人の男が血を流して倒れている。
船員の女性が必死に応急処置をしているが、このままでは命が危ないだろう。
「だれか回復魔法を使える方はいませんか?」
「私が使えるわ」
イリス姉は男性に近づき回復魔法をかけ始めた。
だが傷が深いせいでなかなか回復しきれない。
「ダメね、私の回復魔法だけじゃ厳しいわ」
「私も手伝うよ」
その後水樹の回復魔法もあわせて男は何とか一命をとりとめた。
そして騒ぎが落ち着き、男が目覚めたため事情を聴くことにした。
「それで誰に襲われたの?」
イリス姉がそう聞くと男は怯えた表情をしながら答え始めた。
「わ、分からないんだ」
「荷物の整理をしていたら突然後ろから襲われて・・・」
男の格好をよく見ると、右手に銀色の冒険者の腕輪をしていることから強いことが分かる。
そんな男を音もなく致命傷にさせるのは何大抵の実力では難しいだろう。
「何か覚えてることはない?例えば倒れる寸前に犯人を見たとか」
「そ、そういや見たぞ!確か背がかなり低かったはずだ!ローブ越しで顔は分からなったが、あれは女だったと思う」
「女性かしら、けどあなたを倒せる人なんて限られてるでしょ?」
この船に乗っている冒険者は旅費の高さもあり、それなりに階級の高い冒険者も多い。それにこんな狭い船の中で騒ぎを起こせばすぐに犯人を特定されるはずだ。
「ひとまず貴方より階級の高い冒険者はいるかしら?」
「うちのパーティメンバーに銀級が一人いる」
「他は分からない」
「そう」
「けどそいつは俺の妹なんだ!昔から仲もいいしこんなことをする奴じゃない!」
「わかったわ、ひとまずあなたはここで休んでて」
「あぁ」
そして男と別れて僕たちは船内の冒険者を回って聞き取りをすることにした。
するとこの船にはさっきの男の妹の他に銀級が3人にいることが分かった。
だが全員が男性で体格も大きかったため、犯人の特徴とは当てはまらない・
「こまったわね」
「銅級じゃあんな致命傷を負わせるのは難しいでしょ?」
「そうとも限らないわよ?」
「例え金級冒険者であっても、不意打ちで頭を吹っ飛ばされたら即死するわ」
「けどそれは男性冒険者の腕力があってのものよ」
イリス姉の言う通りで、男女には明確に筋力に違いがある。
それは冒険者にも当てはまることで、筋力が必要な戦士職は男性が多いし、反対に魔法職は女性が多い。
両方を使えるものもいるがたいていは器用貧乏に終わってしまう。
ちなみに両方を極めたのは歴史を見ても勇者だけだが、あれは例外だとおもう。
「ひとまず今日は犯人が潜伏していることを考えて決して一人にならないようにするわよ?」
「うん、他の冒険者にも言ってくるね」
「ユラちゃん行こう?」
「はい!」
アル姉はユラと共に他の冒険者にこのことを伝えに行った。
ユラが居れば亜人の人も話を聞いてくれると思ったからだ。
ここでも亜人差別の影響が出ていて歯がゆく感じる。
「春さん達はどうしますか?」
「私たちは3人で行動することにするわ」
「わかりました」
「あんたたちも気をつけなさいよ?」
そう言って春たちは自分の部屋に戻っていった。
「となると私はイリス姉と一緒だね」
「そうね、なんだか珍しい組み合わせだわ」
思えばイリス姉とこうして二人きりになるのはなかった気がする。
だいたいアル姉が横にいるのが当たり前で、家族でも少し緊張してしまうのだ。
ふとイリス姉にミルス公国で眠っていたときのことが気になり聞くことにした。
「そういえばイリス姉は眠っていた時、どんな夢を見ていたの?」
「あぁ、ミルス公国の時かしら?」
「うん、確かその時がきっかけで竜人としての力を出せるようになったんでしょ?」
「そうね」
「例えばなんだけど、奏は人の前世についてどう思う?」
「あるとは思うよ、教会の教本にも人は輪廻が転生して生まれるものだって書いてるしね」
そりゃ転生しましたからね、それについては誰よりも詳しい自身があるよ。
すると突然イリス姉は表情を変えて答えた。
「信じられないかもしれないけど、私は一度死んで生まれ変わった存在なの」
それを聞いた瞬間僕はドキッとしてしまった。
何しろ僕自身も転生した存在なのだから。
それからイリス姉が眠っていった時に見た夢について教えてくれた。
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