第3章ルーチ共和国編

第1話 港町フレーベ

次の日になりミレニア王女たちに見送られながら、ミルス公国から旅立った。

次の目的地は、亜人の国に渡るための旅客船がある港町フレーベだ。

馬車に揺られること数日、遠くからほのかに潮の香りがしてきた。

それを感じ取ったのか、ユラがはしゃいでいる。


「うわぁ、奏ちゃんなんだか不思議なにおいがするよ!」

「たぶん海の香りなんじゃないかな?」

「ほんとだね、なつかしいなぁ」

「ん?アル姉はここに来たことあるの?」

「うん、小さい時に少しの間だけこの町で過ごしたことがあるんだよ」

「そうなんだ」

「あの時は、すごく頼りになる獣人の女性が居てね」

「ある日、この町で人さらいに攫われたことがあったんだけど、その人に助けてもらったの」

「へぇ、もし会えたらお礼しなきゃね」

「うん!」


それから町の検問を抜けて、中に入ると様々な屋台やお店が立ち並んでおり、見たことのない商品も売られていた。

そしてやはり中立の町というのもあり道行く人たちも人間の他に多種多様な種族で溢れている。

僕たちはすぐさま乗船手続きをしに券売所に向かったが、残念ながら船の出航は天候の影響で1週間後になるらしい。

それからみんなと一度相談した後、天候が回復するまではこの町を観光して回ろうという話になった。

どうやらアルとユラはお店で買いたいものがあるらしく、僕はイリスと二人で屋台を見て回ることにした。


「これは食べれるのかしら?」


ふとイリスが見つけた商品は日本人にはなじみ深い海苔だった。


「う~んどうなんだろう・・・」


昔ネットで見た情報だと、肉食文化の国の人たちは海苔が消化できないと聞いたことがある。


「大丈夫ですよ、その食べ物は内陸の人たちも食べられるように加工されてるので」


すると後ろから聞いたことのある声が聞こえた。


「あなたは・・・」

「あれ?もしかしてあの時馬車にいた人たちですか?」


そこには以前ミルス公国に行く前に通過した検問所で出会った茜という日本人だった。


「偶然ね、たしか魔獣の森の調査隊だったわよね?」

「いえ、現在は教会の取り決めにより調査隊は解体されて、友人と一緒にフリーの冒険者をしている、茜と言います」


すると茜は右手にある銀色の冒険者証を見せてきた。


「なかなかの実力者なのね」

「ありがとうございます」

「あなたも冒険者なのですか?」

「えぇ、あなたと同じ冒険者のイリスよ」


イリスは茜に右手に着けた金色の冒険者証を見せた。


「金級の方だったんですか!?これは失礼しました!」

「別にいいわよ、見たところ年も変わらないだろうし、変にかしこまらないでいいわ」

「そちらの方は妹ですか?」

「そうね、血のつながりは無いけど同じ孤児院にいた家族よ」

「奏と言います」

「奏さんですか、馬車では友人が失礼な態度をとってしまいすみませんでした」

「いえいえ、この髪は珍しいですからいつものことですよ」

「ふふ、とても礼儀正しい妹さんですねイリスさん」

「当たり前よ、私の自慢の妹なんだから」


イリスにそういわれると恥ずかしくなる。


「茜ちゃ~ん、あ!いたいた」


すると遠くから茜を呼ぶ声がした。

声の主は以前検問所で出会った、水樹という日本人だった。

近くには春と呼ばれていた日本人もいる。


「何してるの~、って前会った白髪の子だ!」

「ほんとだ、1週間ぶりくらいだね」

「あ、イリスさん紹介しますね、友人の水樹さんと春さんです」

「イリスよ、こっちは妹の奏」

「奏ちゃんって言うんだぁ、私は水樹だよ、よろしくね」


水樹はおっとりした性格のようで、後ろからふわふわしたオーラが漂ってきている。


「私は春よ、一応このポンコツぞろいのパーティーのリーダーをやってるわ」

「うわぁ酷いよ春ちゃん、私そこまでポンコツじゃないもん」

「嘘よ、この前もポーション回過ぎて破産しかけたじゃない」

「その件は誤ったじゃ~ん」


なんだかこの水樹という少女からはどことなくアル姉と同じ匂いがする。


「春さん、私は違いますよね!?」

「茜は、しっかりそうに見えて、後先考えずに突っ込みすぎよ」

「そのせいで余計にケガしてるんだから」

「う、すみません」


この茜という少女は見た感じ優等生という印象なのだが、性格は脳筋なのかもしれない。


「それで茜はここで何をしてたの?」

「イリスさん達が海苔が食べられるのか悩んでいたので」

「あぁそっか、もしかして内陸の人?」

「えぇ、あいにく海がある町に来たのは初めてよ」

「それだと食べられないのもあるから、よければ案内しようか?」

「いいの?」

「えぇ、ちょうど依頼も終わって暇だったし、夕食おごってくれるならいいわ」

「うわぁ春ちゃんけちんぼだ・・・」

「いいじゃない!ただでさえ誰かさんのせいで金欠なんだから、これくらい要求しても罰は当たらないわ」

「分かった、今日の夕食は全額好きなのおごってあげる」

「交渉成立ね」


それから春たちに連れられて町を案内してもらった。

春たちによるとこの町はもともと亜人の国の領土だったが、大昔に人間と国交を結んでいた時に円滑に交易を行えるように、中立の町にしたらしい。

流行り病が流行った時は、教会の影響で亜人の差別をする人たちがいたらしいが、もともと住んでいた住人は亜人がそんなことをするはずがないと知っているため、この地方では珍しく亜人狩りが行われなかった。

屋台を見ていると、珍しい食材を見つけたためイリス姉に見てくるといって、その食材のもとへ行った。


「まじか、こんな食材もあるのか」


僕が見つけた食材は前世で高級食材として食べられていたチョウザメの卵であるキャビアだった。

すると屋台のおばちゃんが話しかけてきた。


「お!お嬢ちゃんいいものに目を付けたね」

「これは勇者様の世界で高級食材って言われてるキャビアって食べ物だよ」

「へぇ、それなら高いんじゃないですか?」

「それが全然売れないんだよ」

「え?」


あのキャビアが!?まじで!?

おばさんはそのまま話を続けた。


「勇者様の世界では人気でもこの世界の人たちにはどうも口に合わないらしくてね」

「日持ちも悪いし、今日売れなかったら捨てるところだったのよ」

「まじですか・・・」

「今ある分全部もらっていいですか?その代わり安くしてほしいんですけど・・・」

「本当かい!?だいたい一箱1万ミルスくらいでいいかい?」

「はい!それでいいですよ」

「ありがとう、助かったよ」


なんとあの高級食材であるキャビアを三箱分買うことが出来た。

元の世界だったら、一千万近くはしそうなほどの量だ。

これは前世ではできなかった、高級食材をバク食いする夢が叶いそうだ。

この日僕はルンルン気分でイリス姉のもとへ帰ると、何故か温かい目を向けられながら頭をなでられてしまった。

それから春たちと一緒に夕食を食べた。

それでもこの体はお腹いっぱいにはならない。

この体は水だけでも活動できるが、食材を食べれば食べるほど能力が強化されるらしい。

そのせいか限界はあるが、この小さな体には絶対に入らない量を食べられるのだ。

その日の夜はキャビアを三箱ぺろりと平らげると、ようやくお腹いっぱいになりそのまま眠りについた。

ちなみにアル姉たちには内緒にしている。

なんとかバレずに済むといいが・・・






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