第17話 服装に無頓着な三人
街に着くと至る所で屋台が出ていた。
あの戦いでお店の建物が崩れてしまった店も多く、普段屋台で見ないような商品も売りに出されている。
「奏ちゃん!あっちに服屋さんがあるよ!」
ユラが指を指した先には、服を売っている屋台があった。
その隣にはアクセサリーも売っており、店の店主はどちらも同じ人だった。
「奏ちゃん、アルさん達のために服を買おうよ?」
「それもそうだね」
思えばアル姉もイリス姉も服にあまり関心がなく、いつも来ている服と古くなった寝間着ぐらいしか持っていなかった。
「奏ちゃんのも買おうね、奏ちゃんもその服しか着ているの見たことないよ?」
「え?私は」
たしかに言われてみれば、森に棲んでいた時に自前で作ったワンピースしか持っていない。
「授与式の時も困ったんだからね?」
恩賞授与の時は、ユラの提案でミレニア王女のおさがりのドレスを着させられていた。
「分かった、けどユラが選んでくれるかな?あんまり服に関心がないから」
「いいよ!この際だからかわいい服を選んであげる!」
それから僕はユラの着せ替え人形にされてしまった。
始めはイリスがよく来ているローブ姿で、ローブは緑色で統一しつつ、内側に白色のシャツを入れてコントラストを意識したデザインだった。
「かわいい!!!なんだか森の妖精さんみたい!」
「そうかな・・・?」
今更だが、この体に転生して常日頃からワンピースを着ていたおかげか、女性の服に抵抗が無くなっている。
むしろ最近はかわいいと褒められるとうれしいと思うようになった。
このままでは内面まで完全に女児になってしまいそうで恐怖している。
「次はこれを着てほしい!」
次にユラが渡してきたのは腰回りにコルセットがあり、そこからスカートを着ている中世の町娘のような服装だった。
今回は全体的に赤色を基調としていて、この町ではよく見られる服装である。
「赤色もいいね!あとはこの帽子を被れば・・・」
ユラが渡してきたのは、以前ユラにプレゼントした猫耳が付いた白色の帽子だった。
ユラも茶色の猫耳帽子をかぶっていて、いわゆるお揃いコーデという奴だ。
「はわぁ!やっぱりこの帽子も似合うな~」
それから1時間ほどユラに着せ替えられていると、いつの間にかイリス姉とアル姉が来ていた。
そして何故かその後ろに変装したミレニア王女の姿もあった。
「ユラ、買い物にどんだけ時間かけてんのよ」
「皆さん用に服を選んでいました」
「イリスさん、それより王女様がいるのは何でですか?」
「それは・・・」
すると王女が説明を始めた。
「街の視察ですよ、今は変装中なので今日は一人の町娘として接していただけると幸いです」
「わ、分かりました」
「そういえば奏がいないけどどこにいるの?」
「ん?ずっと私の後ろにいますよ」
ユラがそう言うとイリスたちは変身した僕の姿を見ていた。
「そうなの!?奏もおしゃれしたらこんなに変わるのね」
「かわいい!奏ちゃんもっと見せて!」
「これは・・・」
するとミレニア王女が何かをぼそぼそと言いながら近づいてくる。
「王女、様?
その瞬間王女に抱きしめられた。
ただひたすらにかわいいと連呼しながら・・・
「かわいいかわいいかわいい・・・」
やべぇ!目がやべぇ!!
王女の目は完全にハイライトが消えていた。
それを見てずるいといったアルが引き離そうとすると・・・
「奏さんは渡しません・・・」
「へ?」
「奏さん?もうずっとこの国にいませんか・・・?」
「私がずっと養ってあげますから・・・」
王女は前世でいうところのヤンデレという奴だろう。
このままではまずいことになると思い、王女をなんとか引きはがした。
「奏さん・・・どうして?」
王女の目は完全に光を失っている。
「王女様の気持ちはうれしいのですが、さすがにいきなりはちょっと」
「まずは友達からでどうでしょうか?」
王女をもとに戻すために、僕はあるものを渡した。
それは隣のアクセサリーショップで買った、青色の髪留めである。
アクセサリーを渡した途端、王女は元の優しい目に戻った。
「なるほど・・・まずは恋人からということですね?」
「そ、そうですね」
友達からいつの間にかランクアップしているが、王女様が元に戻ったのでよしとする。
「ずるい!、私も欲しい!」
「一応みんなの分も買ったよ」
僕はアル姉とイリス姉にもアクセサリーをプレゼントした。
アル姉には黒色の髪留めを、イリス姉には赤色の髪留めを渡している。
「ありがと、大事にするわ」
「奏ちゃんありがとう、ずっと大切にするね」
するとユラがアル姉たちの話を遮り、アル姉たちに服を渡していた。
「アルさんもイリスさんも服を買いましょう!」
「え?別にいいわよ」
「ユラちゃん大丈夫だよ、まだ着れるし」
「ダメです!せっかく今回の報奨金もあるんですから、これを期にもっと服装にも気を使ってください!」
ユラはアル姉の胸元を見て言った。
「それにアルさんに至っては、サイズあってないですよね?」
「え?」
「そんな状態で無理やり着ていたら、戦闘中に装備が壊れちゃいますよ!」
「う!たしかに最近きついなって思ってたけど・・・」
ユラの発言は正しい。
冒険者にとって防具は生命線だ。
特にアル姉のような高機動を意識した戦闘スタイルは着られる防具も限られており、軽量化するために他の防具に比べて壊れやすい素材で作られている。
実際にアル姉が戦闘中激しい動きをするたびに、時々防具がきしむ音を聞いたことがある。
「アルさんの防具は私と奏ちゃんでサイズを調整します」
「イリスさん、アルさん行きましょう?」
「「はい・・・」」
その後数十分ほどして、更衣室からユラが出てきた。十
「では先にイリスさん出てきてください」
「分かったわ」
すると更衣室からすっかり変わったイリス姉が出てきた。
イリスは青を基調としたワンピースに、髪にはさっきプレゼントした赤色の髪留めを付けていた。
「どうかしら?」
「いいね、イリス姉は体系がスラっとしてるからワンピースがとても似合ってるよ」
「似合ってますよ、イリスさんの金髪は青色の服との相性がいいと思います」
「ありがと」
「では次にアルさんどうぞ」
そして更衣室からアル姉も出てきた。
アル姉は茶色のフード付きコートに、内側には黒色のシャツを着ている。
なにより今までローブで隠れていた胸が強調されていた。
一切肌が出ていないはずなのに、あまりの姿に思わず目をそらしてしまった。
「うぅ、こんなに破廉恥な服は初めてだよ・・・」
「あれ?そんなに肌が出てないはずなのに・・・?」
「ユラさんさすがにこれは・・・」
「おかしい・・・同じもの食べてるのにこの差は何?」
さすがにこのままでは破廉恥すぎると、コートの代わりにあまり胸が目立たないように黒色のローブを着てもらうことにした。
二人の服装も決まり、ようやく旅に必要な物資をそろえられた。
明日の早朝にはこの国を出ることになっている。
次は亜人の国に渡る船がある港町フレーベで、ここは中立の町である。
そのため亜人も普通に暮らしており、ようやくユラの魔法なしで町に入ることが出来る。
今のところ訪れた場所の全てで何かしらの問題に巻き込まれているため、今度こそ無事に船に乗れることを祈るばかりだ
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