第14話 厄災の王

「厄災の王?」

「そう、ミレニア王女が言ってたんだけど、あの魔物は大昔に封印されたルーガスっていう魔物らしいんだ」

「それと魔物の中央にいる少女は王女を誘拐してたアルスっていう魔人だよ」

「奏ちゃん、そういえば右手は大丈夫なの?」

「右手?そういえばいつの間に・・・」


通りで痛みが無くなっていたわけだ。

地下の戦いで僕は今までとは比にならないほどの力を使った。

それが原因なのかは分からないが、折れた右腕は元通りに回復している。

以前から感じていたが、この能力には際限がないように思える。

今回も頭痛を無視すれば、まだまだ力を引き出せそうだった。


「それが奏の種族の能力なんじゃない?」

「私も竜の力を使って浅い傷ならすぐに治せるから」

「確かに!イリスの体、傷だらけだったのに気づかないうちに治ってるよね」


アルがそう言うと王女の声が聞こえた。


「ここは・・・」

「お!王女様起きたみたいだね」


ミレニア王女はようやく意識が回復したのかうっすらと目を開けた。

すると僕が抱えていたことに気付いたのか、顔がみるみるうちに赤くなった。


「か、かかか奏さん!?」

「起きましたか?」

「恥ずかしいので、降ろしてください!」

「降ろしますから暴れないでください!足を怪我してるんですよ?」


そう言うとミレニア王女は落ち着きを取り戻した。

僕はそれを確認してから、ミレニア王女を近くのがれきにゆっくりと降ろした。


「ありがとうございます」

「いえ、王女様を無事に救出出来てよかったです」

「奏さん、ルーガスはどうなりましたか!?」

「あれですね、一応地下で暴れられると街が崩れるので地上に出しました」

「みなさん、早く逃げてください!あの魔物だけは・・・!」

王女がそう言い終えると、魔物の体が急に動き出した。


「ぎぎゃぁぁぁ!!!」


その瞬間魔物はけたたましい雄たけびを上げながら立ち上がる。

するとこちらに向かって、すさまじい勢いで突進してきた。


「奏!止めるわよ!」

「分かった!」


僕はイリスの魔法と合わせるように魔物に向かって攻撃した。


「燃え尽きなさい!!!」

「捕まえろ!!!」


その瞬間巨大なツタが魔物を拘束し、イリスの魔法が直撃したことで激しい勢いでが燃え始めた。


「がぁぁぁ!!!」


魔物はあまりの痛みにのたうち回っている。

すかさず追撃を加えようとしたとき、魔物は痛みに耐えながら空に向かって手を掲げた。

すると紫色の魔法陣が展開され、そこから無数の光線が王都中に降り注いだ。

僕は急いでイリスたちの前に植物で壁を作り攻撃を防いだ。


「あれって、イリスの魔法?」

「違うわ、私のは光属性の魔法だから紫色にならないのよ」

「てことは別の属性ってことか」


それをきいて王女が答えた。


「あれは闇属性魔法、かつての魔王が使用していた属性です・・・」

「そうなの!?」

「てことはあいつは魔王ってことなの?」

「いえ、あの厄災の王ルーガスは魔王によって作られた存在なのです」


すると王女はあの魔物が生まれた経緯について話し始めた


「あの魔物は魔王の因子と、さらって来た人間の聖女を媒介にして産まれました」

「聖女って王女様のこと?」


アルの問いに王女は首を横に振った。


「いえ、正確には私のご先祖様です」

「ミルス公国はもともと小さな小国だったのですが、ある時近隣の村から白髪の聖女が誕生しました」

「その方は聖女としてふさわしい力を持っていました、そのことが当時の王家に認められ王妃として迎えられたのです」

「ですがある時、魔王軍の手によりさらわれてしまったのです」

「再び姿を現した時には元の聖女の皮を被った化け物になっていました」

「その時は当時魔王を倒された勇者様によって封印されましたが・・・」


通りであの魔人が王女を生贄にしようとしたわけだ。

大方、王女様が白髪の聖女の血縁だったことをどこからか聞きつけて、再び魔物を復活させようとしたのだろう。


「けどなんで魔人が生贄になっても復活したんだ?」

「あれは未完成な状態なのです」

「実際に今のルーガスは理性を持っていません」

「再び理性を取り戻すには聖女の血を必要とします」


するとイリスは持てる竜の力をすべて解放したのか、全身が竜の鱗で覆われた。


「だいたいは分かったわ、それであいつはどうやって倒すの?」

「あの魔物はアルスという魔人を媒介にしているので、彼女をあの体から引きはがすことが出来れば・・・」

「奏、私が合図したら壁を無くしてくれる?」

「一人で行くの!?」

「あいつに近づけるのは、この中で一番早い私だけでしょ?」

「それに竜の力がどこまで強いか試してみたいの」


イリスがそう言うと、アルはクスっと笑った。


「はは、イリスなんだか変わったね」

「何よアル」

「昔は街中に一人で出られないほど怯えてたのに」

「今ではこんなに頼もしくなった」

「ふん、いつの話よ」

「それにあんたみたいな姉を持ったら誰だってそうなるわ」

「お、久しぶりにイリスから姉って言われた」

「今度から奏ちゃんみたいにアル姉って呼んでいいんだよ?」


アルにそういわれるとイリスは顔を赤くした。


「うるさいわね!、今の無し!やっぱりアルはアルだわ」

「それじゃ奏お願い」

「分かったよイリス姉」

「ちょっと!奏もいきなり姉呼びなんてどうしたのよ」

「いいじゃん、今度からアル姉みたいにイリス姉って呼ぶから」

「はぁ・・・好きにしなさい」

「私は王女を城まで運ぶよ」

「分かったわ」

「イリスも気を付けて」

「そうね・・・それじゃ行ってくるわ」

「了解」


そうイリス姉に合図された僕は目の前に展開した植物の壁を無くした。

ただ呼び方を変えただけだが、この時から僕たちは旅の仲間というだけでなく本当の家族のような存在になれた気がする。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る