第11話 竜の力

「イリス!良かっだぁぁぁ!!!」


泣きじゃくるアルの前には、つい先ほど目覚めたイリスの姿があった。


「いい加減離れなさい!そんなに顔押し付けたら鼻水着いちゃうでしょ!」

「うぐ、うぐ」

「イリスさん!」


今度はユラがイリスに抱き着いた。ユラも泣きそうになっている。

するとイリスがユラをなでながら、やさしく抱きしめる。


「ユラもごめんね」

「う、うわーん!!!」


しばらくイリスがユラを抱きしめると、ユラは安心したように眠ってしまった。

ずっと目覚めないイリスを心配して、疲れてしまったのだろう。


「奏も無事でよかったわ」

「それで、あの魔人は倒したの?」

「うん、アル姉と協力して何とかね」

「私を気絶させた仕返しがしたかったけど、まあいいわ」

「けどあの魔人よりも大変なことになってるんだ」

「そうなの?」

「外を見た方が早いかな」


イリスに窓の外を見せると街のあまりの豹変ぶりの驚いていた。


「ミレニア王女が兵を率いて、今最前線で戦ってるんだ」

「イリスも手伝ってほしい」

「ふふ、当たり前よ!」


すると突然イリスの背中から翼が生えた。

腰からは鱗を帯びた尻尾に頭には角も生えている。


「イリス・・・それって」


そのとき部屋にいた貴族たちも驚いていた。

突然正体不明の亜人が現れたからだろう。


「寝てるときに夢を見たのよ」

「その夢を見てようやく自分の存在に気付いた」


するとイリスは亜人であることを隠す様子もなく堂々とふるまった。


「私は竜人、人と竜の混血のイリスよ!」


イリスの発言を聞いてアル達も困惑している。


「奏ちゃん、竜ってなにかわかる?」

「たぶん空想上の生物じゃないかな」


イリスが言った竜っていうのはファンタジー小説でよく登場するあの竜のことだろう。

前世でも小説とかでよく竜人という種族は登場していた。

だがこの世界では竜という存在を誰も確認できていないためか、どの文献にも載っていなかった。

大昔に絶滅したのか、それとも文献が残っていないだけなのかは分からない。


「アル?絶対信じてないでしょ?」

「それは、ねぇ?」

「だったら見せてあげるわ」


するとイリスは翼を広げ、窓から飛び立ってしまった。


「本当に飛んでるよ・・・」

「しかもめちゃくちゃ早いね」

「あんたたち、見ときなさい!」


イリスが右手に魔力を籠めると、イリスの腕が鱗で覆われ、手の先から巨大な魔法陣が出現した。


「街が壊れないように、さくっと倒してやるわ」


すると魔法陣から無数の光の矢が放たれ、地上の魔物達に雨のように降り注いだ。

矢は建物には当たらず、見事に魔物の弱点のみを貫いている。


「どう?アル?」


アルは飛びながら部屋に戻ってきた。


「いつの間にそんなに強くなってたの!?」


アルが驚く気持ちも分かる。

地上の魔物は数にして、数百はいたと思う。

それをイリスはたった一度の魔法で殲滅してしまった。

もほやイリスは個人で小国を滅ぼせるほど強さになったといえる。

そんなイリスの活躍をみていた貴族は歓声を上げていた。


「亜人だというのには驚いたが、これほどとは・・・」

「ぜひとも我が国に来てもらいたいものだ」

「亜人でさえなければ、わが子と結婚させたのだが・・・」


今まで亜人を差別していた貴族の変わりように、イリスはぞっとしていた。


「お断りします」


そういったのはアルだった。


「イリスはこれまで何度もあなたたちに傷つけられてきました」

「これ以上イリスが傷つくような場所に家族として行かせられません」


それを聞いたイリスも賛同した。


「残念だったわね、だいたい亜人差別してるようなやつなんて本当は助けたくなかったのよ?」

「私はミレニア王女を気に入ってるから、魔物と戦ったのよ?」

「あんたたちせいぜいミレニア王女に頭をこすりつけて感謝することね」

「亜人の分際で生意気な!」

「わしがこんな落ち目の国の小娘に頭を下げろだと!?」

「私たちは有力貴族なのよ?こんな没落国家、来てやっただけ感謝してほしいわ」


しばらくイリスと貴族が言い争っていると、そこに教皇が割って入った。


「いい加減になさい!!!」


すると貴族たちは静まり、イリスも口を止めた。

これが教皇の気迫というものなのだろう、思わず体が動きを止めてしまった。


「魔物はほとんど退けましたが、まだ魔物を生み出している元凶を止められていないのです」

「今は揉めているのではなく、この危機に協力して立ち向かうべきです!」

「それと・・・」


突然教皇はイリスに向かって頭を下げた。

差別の対象として虐げていた存在に、教会のトップが頭を下げたのだ。

これには貴族たちも困惑している。


「亜人差別が起きた要因は、我々教会の失態をあなた方に押し付けたことが原因です」

「当時は教会も病に対抗できず、人々は教会に疑問を持ち始めていました」

「教会は信頼できるのかと」

「そんな中、怒り狂う民衆の前で一人の司祭がうっかり口を滑らしたのです」

「この病は亜人のせいだと」

「その者はすぐに罰しましたが、その噂は瞬く間に広まり、教会ではもうどうしようもできませんでした」


話し終えると教皇はイリスの足元で土下座をしていた。


「この首一つで罪を償えるとは思っていません」

「ですがこの国は私の大切な友人とその娘の国なのです」

「どうかこの国を救っていただけませんか?」


その姿を見たイリスは、教皇の肩をそっと叩いた。


「顔を上げてください教皇様、私はあなたの命を取ろうだなんて思っていません」

「そんなことしたら、ミレニア王女に嫌われちゃいますからね」

「それにこの国は私が生まれ育った故郷でもあるんです」

「だから絶対に守ります」


その時のイリスの決意は固かった。

きっとイリスも心の根底では今も人間に差別されたことを恨んでいるのだろう。

けれどこのまま人と亜人の溝が広まれば、今度こそ人間と亜人同士であの悲惨な戦争が始まってしまうかもしれない。

いつの日か、人間も亜人も再び良好な関係に戻れるようにしたいと心に決めた。





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