第10話 イリスの夢

魔人の攻撃によって、気を失った私は不思議な夢を見ていた。


「ここは・・・どこ?」


いつの間にか移動したのか、目を覚ますと見慣れない光景が広がっていた。

周囲は暗闇に包まれており、目の前には入れと言わんばかりの神殿があった。

神殿はかなり年期が入っており、柱はひび割れ、壁も崩れている。

しばらく神殿の内部を進むと部屋の中央に台座があり、その上には光り輝く水晶が浮かんでいた。

水晶に近づくと、突然頭痛に襲われ誰かの声が頭の中で響いた。

私は激痛に耐え兼ね、そのまま水晶に触れてしまった。


「あが・・・!!!」


すると突然誰のものかも分からない記憶が流れ込んできた。

その記憶にはこれまで何度も見渡した魔獣の森の風景が広がっている。

記憶を持っていた人物はかなり背が高いのか、森を上から見下ろしていた。

どうやらこの記憶は人間のものではないらしい。

そして場面が切り替わり、今度は目の前に小さな少女がいた。

この少女がきっと記憶の主と親しい間柄なのだろう。

さらに場面が変わり今度は少女が大人になっていた。

少女の姿をよく見ると、何故かそこには見慣れた顔が見える。


「わたし・・・?」


そこには私と瓜二つな顔をしている少女の姿があった。

次に場面が変わり、今度は炎に包まれた町が見える。

私はこの惨状を起こしているのが誰かをすぐに理解した。

すると勝手に体が動き、目の前に見たことのない巨大な魔法陣が浮かんだ。

そしてその魔法陣から炎が放たれ、さらに街を燃やし尽くす。


「やめ!・・・」


私は必死に止めようとするが、これは記憶であるため止めることはできない。

その後街が灰となったところで、やっと地面に着地した。

すると目の前が涙で溢れ、視界がぼやける。


「泣いてるのかしら・・・」


視界が勝手に下を向くとそこには、人間のものとは思えないほど巨大な爪と手が写っていて、私とそっくりの少女を抱えている。

少女は体中が傷だらけで、息をしていなかった。

もしかするとこの少女の仇討ちのために、この街を焼いたのだろうか。

再び場面が変わると、いつの間にか元の水晶の部屋に戻っていた。

その時突然後ろから、少女が話しかけてきた、


「記憶を見てどうだったかな?」

「誰かし人間が


振り返ると、自分とそっくりの少女がいた。


「この記憶はある一匹の竜の記憶なんだ」

「竜?魔物の一種かしら?」

「あ!そっか、イリスの時代にはいなくなっちゃったのか」

「魔物とは違うね、イリスの時代風に言うと亜人に近いかな」

「魔物と違って言語能力もあるし、その気になれば人に化けることもできるからね」

「竜については理解したわ、ただそれより気になることがあるの」

「イリスが私と同じ顔をしている理由かな?」

「えぇ」


その瞬間少女は少し悲しげな表情を浮かべながら話しだした。


「それは私のせいだよ」

「え?」

「あの竜は白竜って呼ばれる、この世界で唯一の竜だったの」

「昔は竜の素材が高級品だったから、人間が狩りつくしちゃってほとんどの竜は絶滅しちゃったんだけど」

「あの竜だけは誰にも倒せなかった」

「そのうち人間の方があきらめて、竜と共存の道を選んだ」

「そんなある日森で人間の赤子が捨てられてたの」

「竜はそんな赤子を不憫に思って、育てることにした」


そこからはさっき見た竜の記憶の通りだった。

やがて少女は大人となり、人間の街を見てみたいといった少女を竜は快く送り出した。

いつまでも森で引きこもらせるのはよくないと考えたからだ。

だがいつまで経っても少女が帰らなかったため、人に化けて様子を見に行くことにした。

それでも少女は見つからない。

竜は途方に暮れていると、酒場である噂を聞いた。

どうやらこの街には田舎から出てきた少女を騙し、娼館で働かせるという悪徳集団がいるらしい。

最近その集団が道端で一人の少女の遺体を捨てたことで、それが騎士団に見つかり、ちょっとした騒ぎになったそうだ。

竜は少し嫌な予感を抱きながら、その現場に向かった。

だがその予感は的中する。

そこには変わり果てた少女が横になっており、竜は酷く絶望した。

怒りで我を忘れ、再び正気に戻る頃には街は灰と化していた。


「私はあの竜さんのことを本当に後悔してるんだ」

「私がわがままさえ言わなければ、あのまま森で平和に暮らしてたのかなって」

「あの後竜さんは自分の命と引き換えに、私を助けるために死者蘇生の禁術を使ったの」

「けれど死後からあまりにも時間が経っていた私は、蘇生するのに数百年かかってしまった」

「それって・・・」

「死者蘇生魔法は術者の性質と記憶を引き継ぐ」

「その影響であなたは竜と人間の性質を持つ全く新しい種族になった」

「イリスの種族が分からなかったのはそういう理由があったからだね」


目の前の少女の言う通りだ。

どおりでどれだけ探しても見つからないわけだ。

だがもう一つ疑問が残る。


「私はあなたが蘇生した存在なんでしょ?」

「だったらなんであなたの記憶がないわけ?」

「それは私とあなたが別の人間になったからだね」

「さっきも言ったけど、私は死亡時からかなり時間が経ってたから、体のあちこちが腐り落ちてたの」

「蘇生魔法は失った体までは再生できない」

「あなたが赤子だったのも、一度体を作り直す必要があったからだね」

「脳が無くなれば記憶も消える、そんなわけでイリスには記憶がなかったわけだ」


話を終えると突然少女は光だし、徐々に体が薄くなり始めていた。


「あちゃ~もう時間か~」

「消えるのかしら?」

「うん、もともと神様に無理言って来てたからね」

「神様?」

「この世界の観測者みたいなものだよ」

「そんな存在がいるのね」

「イリスは生前の私の年齢ともうほとんど変わらない」

「だからいつ力が発言してもおかしくない状態だったんだよ」

「それが今回の魔人の攻撃で目覚めちゃったわけだね」

「とにかく、イリスは竜さんのためにも力を使いこなしてほしいんだ」

「私はもう消えちゃうけど、君にはこれ以上家族を失ってほしくないからね」

「当然よ、アルもイリスもユラもみんな守って見せるわ」

「うんうん、その意気だ」


少女は最後の言葉を言い終えると、満足したように消失していった。


「みんな待ってて」

「今度こそ、みんなを守って見せるから」


そう思っていると再び夢の中で意識を失った。

次に目覚めるとそこには泣きじゃくるアルと手を握って嬉しそうに笑う奏の姿があった。

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