第9話 ミルス公国の危機

魔人の男と対峙して数分が経った。

アルの奮闘と僕の必死の援護もあり、かなり持ちこたえているがさすがにアルの体力が限界だ。


「はぁ、はぁ、結構やばいかも」

「アル姉、まだいけそう?」

「無理すればあと数回くらいなら大丈夫」

「実は今ある作戦を思いついたんだけど、どうかな?」

「ふふ、奏ちゃんの作戦が外れたことなんて一度もないからね」

「信じてるよ」


あの魔人の男とこうして戦ってきたことでいくつか分かったことがある。

一つは魔人は攻撃の際、体に魔力を貯めるために攻撃前の数秒間は何もできなくなること。

もう一つは使える魔法の属性が限られていること。

そしてなにより、初めの時よりも明らかに魔法の出力が下がっているため、この魔人は長期戦が苦手なようだ。


「ち!しぶといな」

「あんまこんなところで魔法使い過ぎたら、教皇をぶっ殺すための魔力がなくなっちまうからな」

「いいかげん次で終わらせるか」


すると魔人は今までとは比にならないほどの魔力を右手に込める。

よし、魔人が魔力を貯め始めた今がチャンスだ。

僕はすかさずアルに指示を出す。


「アル姉!これであいつの翼を狙って!」

「分かった!」


城の武器庫にあった槍をアルに渡し、魔人の翼に向かって全力で投げつけてもらった。


「はぁぁ!!!」

「ぎぎゃぁぁぁ!!!」


アルが放った槍は見事に魔人の右翼に命中した。

すると魔人は飛ぶことが出来なくなり、そのまま地面に落ちてしまった。


「やっぱりね」


どうやらあの翼は紫色の宝石から体に魔力を供給する器官だったらしく、魔人は徐々に弱弱しくなっている。

この様子を見るに魔人にとって魔力とは、人間でいう神経のようなもので失えば動けなくなってしまうらしい。


「くそ!体の魔力が漏れていく・・・この俺が、こんな奴らなんかに・・・」


魔人は悔しそうな顔をしながら、こちらを睨みつけていた。

その後体中の魔力が無くなったのか魔人は力尽き、体が灰となって消えてしまった


「やっぱり奏ちゃんはすごいね!」

「なんとか勝ててよかったよ」

「アル姉とりあえず、イリスのところに向かおう?」

「そうだね」


その後イリスのもとに向かった。

イリスは城の救護室で眠っており、命に別状はないらしい。

ミレニア王女に折れた右腕の治療をしてもらいながらイリスの容態を聞いた。


「城の者たちでできる限り手は尽くしました」

「体の外傷は治療できたのですが、魔人との戦闘中に頭を強く打ちつけたらしく、なかなか目を覚まさないのです」


そう言ったのはミレニア王女だった。

しばらくイリスの様子を見ていると、突然外から謎の轟音が鳴り響いた。

急いで窓の外を見ると、先ほど戦った魔人よりもはるかに禍々しい雰囲気を持った少女がいた。

少女が空中で魔法を唱えると、空中に魔法陣が発生しそこから大量の魔物が転移して来ている。

辺りを見渡すとすでに至る所で魔物が暴れており、街中がパニックになっていた。


「すぐに城の兵士を導入し、魔物を殲滅致します!」

「は!」


ミレニア王女の指示によりぞろぞろと城の兵士が出撃した。


「来賓の皆様は城で待機してください!」

「アルさん、ここはお任せできますか?」

「まかせてください!」


すると教皇はミレニア王女に質問をした。


「聖女ミレニア、あなたはどうされるのです?」

「私は城の兵士たちを指揮するために、現場に向かいます」

「危険ですよ!?もしあなたの身に何かあればこの国は・・・」

「命を懸けて戦う兵士がいるのです、私はその者たちを国王代理として最大限支援しなければなりません」

「そうですか・・・わかりました、ですがせめてこれをお持ちなさい」

「教皇様、これは・・・」


すると教皇は身に着けていた赤い宝石が装飾されたネックレスをを外し、王女の首に着けた。


「このネックレスに装飾された宝石には3度だけですが、あらゆる攻撃を防ぐことが出来る加護が付与されています」

「よろしいのですか!?、このネックレスは教会でも教皇様しか持つことを許されていないアーティファクトなのでは・・・?」

「いいのですよ、そのアーティファクト一つでこの国が守れるのなら安いものです」

「それにあなたは子供のいない私にとって娘のような存在なのですから、親が子を守りたいと思うのは当たり前のことなのですよ?」

「教皇様・・・わかりました、絶対にこの国を守り抜いて見せます!」


それからミレニア王女は城の兵士に連れられ、戦いの最前線に向かった。

だが見たところこの城の兵士達はせいぜい鉄級上位から銅級下位ほどの実力しかない。

そのためあの魔物の大群に挑むのはかなり無謀だと分かる。

せめてイリスの範囲魔法さえあれば、この状況を変える切り札になるのだが・・・

僕はイリスの手を握りながら、イリスが目を覚ますのを待つことにした。

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