第8話 異変

護衛依頼当日、僕たちはミレニア王女に案内され、祝賀会の会場に来ていた。

祝賀会は夕方から開催されるため、現在は出席する来賓の人たちと挨拶をしていた。

その中にはサルビア教の教皇の姿もあり、驚くことに教皇は女性だった。

亜人差別の発端となった教会の最高権力者だ。

いったいどんな人物なのか、見定めてみようじゃないか。

どうやらミレニア王女とは親しい仲らしく、僕たちはしばらく二人の会話に聞き耳を立てることにした。


「聖女ミレニア、見ないうちにずいぶんと大きくなられましたね」

「教皇様もお久しぶりでございます」

「以前会ったのはまだあなたが幼い頃でしたね」

「そうですね、こうして直接お会いするのは約10年ぶりでしょうか」

「懐かしいわ、それとローズ女王の件は本当に残念でした」

「本来は、すぐにでも教会が支援を行いたかったのですが、流行り病の対処に手いっぱいでしたので」

「いえ、教皇様の手を煩わせるわけには・・・」

「さすがローズさんの娘ですね、教会の支援なしによくここまで立て直しました」

「ありがとうございます」


それから教皇はミレニア王女と数分ほど会話をした後、一緒に連れてきていた従者に呼ばれ別室に行ってしまった。

やはり教皇というだけあって、忙しいのかもしれない。


「ミレニア様、教皇様とずいぶん仲が良かったようですが」

「はい、あの方は私の母上と帝国でご学友だったこともあって幼い頃からよくしていただいています」

「教皇様は教会の意向により結婚を許されていないため子供がいません」

「そのこともあって、まるでわが子のように接していただきました」

「なるほど、あの方はミレニア様にとってもう一人のお母さまのような存在なのですね」

「あの方には幼い頃からずっとお世話になっていますから、そうなのかもしれませんね」


その後祝賀会が開催される時刻になった。

今のところ刺客らしい人物は見当たらないが、警戒をしておくに越したことはない。

そこで最近使えるようになった、体の一部を各部屋の観葉植物に同化させる能力を使うことにした。

この能力は同化させた植物を操って探索範囲を広げたり、遠隔から直接敵を攻撃できたりなど、とても便利な能力である。

それから1時間ほどその状態を維持していると、会場の外でなにやら怪しげな魔術を行使している男を発見した。


「これさえ発動できれば・・・ククク」


するとその男はぶつぶつと呪文を唱え始めたため、それを阻止するために植物のツタで攻撃を行った。


「おっと危ない、誰だ!どこにいる!?」


男がどれだけ辺りを見渡しても誰一人いない。


「まあいい、大した攻撃ではないからな」

「無視して続きをしなければ・・・」


男が魔術の行使を再開しようとした瞬間、イリスの声が響いた。


「観念しなさい!」


するとイリスの杖から大きな土の塊が発射され、男に直撃した。


「ぐ、人間風情がなにを」

「せやぁぁ!」

「グガ!」


イリスに続きアルも後ろから男に攻撃を加える。

すると男は地面に倒れこみ、怒り狂いながら体を起こした。


「調子に乗るなよ!?人間風情が!!!」


すると辺りに衝撃波が起き、イリスとアルを吹き飛ばした。


「大丈夫?イリス」

「大丈夫よ、てかなんであんただけ無傷なのよ」

「イリスとは鍛え方が違うからね」

「まぁいいわ、あの男からは恐ろしい雰囲気を感じるから気をつけなさい」

「了解イリス」


それから男は先ほどまでかけていた魔術を解き、懐から謎の宝石を取り出した。


「この俺の崇高な目的を邪魔をしたこと、後悔させてやる!!!」


男がそう言うと突然宝石が紫色に光りだし、周囲に膨大な魔力を放出した。

その瞬間男の背には黒く輝く翼が生え、頭からはまるで悪魔のような角が生えている。


「何の騒ぎですか!?」

「あの姿は・・・魔人!?」


どうやら祝賀会の人たちもこの騒ぎに気付いたらしく、大勢の人たちが様子を見に来ていた。

その中には教皇とミレニア王女の姿もある。


「逃げてください!」

イリスがそういうと、男はにやりと笑い、教皇目掛けて突進してきた。


「教皇の首、この俺様がもらってやるよ!」

「させるか!」


僕はとっさに教皇の目の前に立ちはだかり男の攻撃を受けたが、あまりの衝撃に吹き飛ばされてしまった。


「ぐは!」


なんとか教皇への攻撃は防げたが、衝撃で右手が折れていた。


「奏に何すんのよ!」


すると僕が吹き飛ばされたことに激高したイリスが、男に火の魔法を放つ。

だが男は平然と魔法をよけ、イリスに魔法で反撃した。

その時イリスは精一杯の防御結界を張ったが、それでもすべての衝撃を防ぎきれず、そのまま気絶してしまった。


「へ!大人しく寝てな」

「さて、もう一人か・・・」


男の視線の先には、教皇を庇うアルの姿があった。


「教皇様、王女様、私がなんとか逃げるまでの時間を稼ぎます」

「ですのでイリスと奏ちゃんを連れて逃げてください」

「ですがあなた一人では・・・」

「大丈夫です、こう見えて人一倍頑丈なので」

「イリスと奏ちゃんを頼みます」

「まってよアル姉、私も手伝う」

「でも奏ちゃん、そのケガじゃ・・・」

「大丈夫、援護くらいならできるから」

「正直助かるよ、ありがとう奏ちゃん」

「分かりました。アルさん、奏さん・・・どうかご武運を」


その後ミレニア王女と教皇様は気絶したイリスを連れてこの場から退散した。


「クソが!クソが!どいつもこいつも俺の邪魔をしやがって!」

「先に教皇からぶっ殺したかったが、先にお前らをじっくりいたぶってからだ!」

「この俺の邪魔をして、楽に死ねると思うなよ?」


そういって魔人の男は恐ろしい勢いで襲い掛かってきた。





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