第5話 依頼
宿屋を離れてからは、アル達と屋台で食べ歩きをすることになった。
雑貨屋の商品が届くまであと2日はかかるらしく、どうせならみんなで観光をしていこうとなった。
「奏ちゃん見てください、ゲインでは見たことない食べ物が売られていますよ」
ユラが指をさした先には、前世で見たイカ焼きに似た食べ物が売られていた。
「イリス、これ何かわかる?」
「それはクラーケン焼きっていう食べ物よ」
「クラーケンって何ですか?」
「海の生き物なんだけど、私も見たことはないわね」
「イリスさん食べてみたいです!」
「そうね、おじさんこれ一ついくらかしら?」
「一つ300ミルスだよ」
「4つもらえるかしら」
「毎度、てかお嬢ちゃんもしかして銀級冒険者かい!?」
屋台のおじさんはイリスが身に着けていた冒険者の銀の腕輪をみて驚いていた。
「えぇ、最近昇格したわ」
「へぇ、その若さでか・・・」
「おっと引き留めてすまねぇな、最近この国には銀級冒険者なんてめったにいないもんだから珍しくてな」
「銀級冒険者なんてこの国だったらそれなりにいたような気がするんだけど」
「確かに昔はたくさんいたさ、けど前の王様あたりから資源が豊富だなんだって言って国を挙げて魔獣の森を探索するようになってな」
「無謀だって当時のギルドは反対してたんだが、この国に所属する以上どんな理由があろうと王様が決めたら行かなきゃいかん」
「そしたらバタバタと死んじまって、最後にはこの国で最高戦力だった金級冒険者までも死なせちまった」
「その後貴重な冒険者を使いつぶす野蛮な国っていう噂が広がってな、何処からも冒険者が来なくなっちまった」
「そんなことがあったのね」
この世界には前世よりもブラックな労働環境なんてとてもありふれたものなんだろう。
目先の利益ばかりを追って貴重な戦力を使いつぶした王様が、前世で働いていた会社の上司と同じように見えた。
「そうだ、最近王女様が、臨時の護衛を募集してたんだよ」
「確かこの辺りに・・・あったこれがそうだ」
おじさんが屋台の奥から出してきた紙には、「教皇様も出席される祝賀会の護衛を募集する」と書かれていて報酬欄にはたった一日の護衛で1パーティー当たり100万ミルスも支給されるという破格の依頼だった。
「なんでこんなに高いのかしら?」
「この国じゃ、腕利きの冒険者なんて集まらないからな」
「祝賀会は毎年教皇様を狙って、別の宗派の人間なんかから刺客が送られるんだ」
「だから並の冒険者を集めても意味がねぇ」
「この紙は腕の立つ冒険者に出会ったら見せてくれって城の兵士達に頼まれてんだよ」
「それにこの祭りは俺たちの国の信頼を取り戻すことを目標にしてる」
「もし今回の祝賀会に失敗することがあったら、今度こそこの国はおしまいだからな」
「今の王様は病気がちで実質王女様が国を引っ張ってんだ、いまがこの国を変える最後のチャンスなんだよ」
「見たところそっちの赤髪の子も銀級だろ?」
「えぇ一応は」
「銀級が二人もいるパーティなら絶対に歓迎される、俺たちを助けると思って受けてはくれないか?」
屋台のおじさんは必死に頭を下げていた。
この人の言う通りこの国はかなり危機的な状況だと思う。
実はあの後雑貨屋以外の店も回ったがどの店も品薄だった。
祭りが原因というだけではここまでの品薄は起きない。
その原因はやはり冒険者不足による、物流の停滞なのだろう。
おじさんをよく見ると、服もかなりボロボロで新しい服すら買えていないのが分かる。
このままいずれ食料品までも届かなくなれば、待っているのは飢えによる地獄だ。
「どうするのイリス?」
「分からないわアル、このまま何もしないでいれば亜人とバレることはないの」
「けど、馬鹿な王様のせいでなんの罪もないこの国の人達が苦しむのは嫌なの」
「奏はどうしたらいいと思う?」
「イリスが今、心の中で思っていることをすればいいと思うよ?」
「イリスにとってこの国は一応生まれ育った故郷でもあるんでしょ?」
「ええ」
「だったらイリスがこの国のために今したいことをしようよ?私も手伝うからさ」
「今、したいことか・・・」
イリスは少し考えたのち、決意を決めたのか言葉を発した。
「決めた、この依頼受けることにするわ」
「了解」
「イリスならそういうと思ったよ」
「私もイリスさんについていきます!」
それから依頼を受けるために王城に向かった。
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