第4話 アルの過去

「奏ちゃん起きてる?」


そう声をかけてきたのは一緒の布団で寝ているアルである。

聖女の生誕祭のせいで屋根裏部屋しか借りられず、部屋も狭かったため2人一組で寝ることになってしまった。

いくら性別が変わったとはいえ、年頃の女の子と一緒に寝るのはすこし抵抗がある。

だが今日のアルはいつもの天真爛漫な性格とは違い、少ししおらしくなっていた。


「起きてるよ」

「奏ちゃん、まずはゲインで町の人たちに襲われたときに守ってくれてありがとう」

「なかなかお礼を言うタイミングがなくて言えなかったけど、奏ちゃんには本当に感謝してるんだ」

「別にいいよ、あの場所は私にとっても帰る場所だったからね」

「それとね?お願いがあるんだけど・・・」

「私と家族になってほしいの」

「家族?それって・・・」

「うん、姉妹とかそんな感じ」


そっちか~い!まぁわかってたけど・・・


「孤児院にいたときに私の両親は私が小さい時に亡くなったって話してたでしょ?」

「うん」

「それって私のせいなんだ」

「え?」

「私の両親は世界中を旅する商人だったんだけど、私もよく一緒に着いていってたんだ」

「でもある日、魔獣の森の近くで護衛の人たちと野営をすることになってね」

「馬車には魔物除けの魔術も付与されてたし、もし魔物と遭遇してもせいぜい数匹くらいだったから安全な旅になるはずだった」

「だから私は浮かれてたんだと思う」

「私はその時両親から絶対に離れないでって言われてたんだけど」

「好奇心っていうのかな、魔獣の森がどんなところかわからなかったから、夜中にみんなの目を盗んで抜け出したんだ。」

「その時運悪く強い魔物に見つかってね、急いで護衛の人達が駆けつけてくれたんだけどみんなあっという間にやられちゃった」

「私は両親に手を引かれながら必死に逃げたけど、町まであと少しのところで魔物に追い付かれてしまった」

「その時に両親は私をかばって魔物に切り裂かれてしまった」

「すぐに町の冒険者が駆けつけて魔物は倒されたんだけど、その時にはもう両親は息をしていなかった。」


それを聞いて唖然とする。

以前イリスからアルが元々孤児であったことは聞かされていたがそんな境遇だったとは知らなかった。


「それからは孤児として生きてたんだけど、ある日ついにお腹が空きすぎて道端で倒れてしまったの」

「その時助けてくれたのがイリスのお母さんだったんだ」

「そのあと身寄りのない私に一緒に暮らさないかって提案してくれたの」

「それからの生活は本当に幸せだったよ、イリスと私と三人でずっと暮らせるって思ってた」

「でもある日、イリスのお母さんが流行り病にかかってしまった」

「当時はどうすることも出来なくて、私もイリスも毎日泣いてたよ」

「そんなある日、突然イリスが薬草を探すために魔獣の森に行くって言ったの」

「本当に少なかったけど、魔獣の森に自生している薬草で治った人たちがいたらしくて」


それはたぶんヒルク草のことだろう。

流行り病の特効薬の原料になっている薬草で、すり潰して飲むだけでも効果がある。

当時はその存在も知られておらず、自生している場所もわからない未知の薬草だった。

たぶん病が治った人たちは、たまたま魔獣の森でヒルク草見つけた冒険者から譲ってもらったのだろう。

そのことが当時のイリスの耳に入ったのかもしれない。


「私は必死にイリスを町から出ないように説得したの、もしかしたら薬が出来て治るかもしれないから危ないことはしないでって」

「それから何日も説得したかいあって、イリスは行くのをやめてくれた」

「けど病気になって半年が過ぎても薬なんてできなくてさ」

「そのままイリスのお母さんは亡くなってしまったの」

「本当にあの時は後悔した・・・なんで何もしなかったんだろうって」

「今でも思うよ、もしあの時イリスと一緒に薬草を探していたら未来は変わっていたのかなって」


アルはきっと今でも責任を感じているのだろう。

最愛の人たちを目の前で3人も亡くし、その原因が自分のせいだったと攻めているのかもしれない。


「けど家族になってほしいっていうのはどういうことだ?今のアルの話とは関係ないような気もするんだけど・・・」

「家族が増えて欲しいのもあるけど、一番はイリスのためかな」

「私はもうこれ以上家族を失いたくないんだ、この先私は自分の人生をイリスを守るために使いたいって思ってるの」

「それがイリスのお母さんを亡くした時に決めた覚悟だから」

「もし私がいなくなっても奏ちゃんがいれば、イリスは独りぼっちにならずに済むと思うんだ」

「その、やっぱり嫌だよね?今日言ったことは忘れて」

「別にアルにそういわれなくても私はみんなのこと家族だと思ってるよ」

「え・・・?」

「なんだかんだ半年以上一緒にいるんだし、なによりアルはこの世界のことを教えてくれた先生でもあるんだよ?」

「それにアルもいい加減幸せになってもいいと思うんだ」

「でも、両親もイリスのお母さんも私のせいで・・・」

「だったら俺がその責任、半分背負ってやるよ」

「アルがイリスを命をとしても守るっていうなら俺がアルを守ってやる!そうすればアルも幸せになれるでしょ?」

「だからいなくなるなんて言わないでよ」


するとアルはプルプルと震えだし、思いっきり抱きしめてきた。

その時ちょうど僕の顔あたりに胸があったため、アルの豊かな胸に押しつぶされ息が

出来なかった。


「ぐぶ!息が・・・」

「奏ちゃん!好き好き!大好き!」


ちょっと!急に胸を押し付けないで!息できないから!

あまりの急変ぶりに驚いていると、今度は匂いを嗅いできた。


「はぁ♡はぁ♡いい匂い♡」

「そうだ!奏ちゃん、私と結婚しよう?この国だとできないけど亜人の国だったら同性同士でも結婚できるから!」


アルがさらにヒートアップしていると後ろには見慣れた人影が写っていた。


「ア~ル~?」

「ひぇ!」


アルが振り返るとそこには鬼の形相をしたイリスがいた。


「アル、言ったよね?」

「はい・・・」

「明日覚えておいてね」


その日はおとなしく寝ることになったが、後日アルはイリスに、正座したまま3時間も説教をされ続けていた。

これから聖女の生誕祭が始まる。

この先良からぬことが起きないといいが・・・

そういえば昨日の夜、アルの話を聞いているときに、ぼそっとイリスの声が聞こえた気がするが気のせいだろう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る