第3話 ミルス公国
ミルス公国はこの世界で三大宗教と呼ばれているサルビア教を国教とする宗教国家である。
サルビア教は知恵と愛を司る女神サルビアを主神としていて、ミルス公国が建国する以前から存在している歴史のある宗教だ。
女神サルビアは長く白い髪に赤色のドレスを着ていることから、この国では赤色と白色が神聖視されている。
そのため首都セージの町並みは赤色に近い建物が多く、王城までもがその色で統一されている。
「ようやくついたね~」
「お疲れ様、アル」
「けどここからが問題よ、私たちはともかく奏はあまり表立って歩けないわ」
「髪の色か」
「えぇ、この国でその色はとても目立つから」
「私はミラと一緒に馬車の中で待ってるから、二人で行ってきてよ」
「えぇ~奏ちゃん達も一緒に行こうよ」
「行きたいのは分かるけど、亜人だってバレたら騒ぎになると思うよ」
「あの!」
「ん?どうしたのユラ?」
すると話を聞いていたユラがある提案をしてきた。
「私の幻惑魔法を使えば大丈夫だと思います」
「幻惑魔法?というかユラって魔法使えたの?」
「はい、みなさんには黙っていましたが、実は馬車の中でこっそり練習していたんです」
「実は検問所でも密かに使っていました」
「そういえば、一番亜人の特徴が大きいはずのユラが何も言われていなかったわね」
「あの時、皆さん以外にはどこにでもいる商人の娘に見えるように魔法をかけていたんです」
「ユラちゃんってこの旅の間に家事も一通り出来るようになってきたのに、片手間で魔法も使えるようになるなんて・・・もしかして天才?」
「少なくともこの旅でほとんど役に立ってないアルよりはすごいわね」
「うわーん!イリスがいじめる~お姉ちゃん傷ついたから慰めて」
するとアルがとつぜん僕の膝に顔をうずめてきた。
「ちょっと!」
本人たちが言うには平均的な顔らしいが、日本人からするとアルは美少女だ。
非モテの元アラサーが突然美少女に顔をうずめられたら緊張してしまうのは仕方ないと思う。
僕はすぐさまアルを引き離そうと抵抗した。
「暑苦しいから、離れて!」
「嫌だよ~だ」
さらにアルが突然匂いをかいできた。
「はぁ♡はぁ♡それにしても奏ちゃんいい匂いだね♡なんだかお花のにおいがする」
まずいな・・・最近アルが変態になってきている気がする。
そんなアルを見かねたのか、イリスが本気でアルのお尻をひっぱたいた。
するとアルはその場に座り込み、おしりを抑えながら少し涙目になっている。
「こら!奏が困ってるでしょ!」
「うう・・・痛いよイリス~」
「変態アルはほっといて、ユラお願いできる?」
「はい!任せてください!」
その後ユラに魔法を使ってもらい、この世界でよく見かける金髪の少女にしてもらった。
それから街を歩いていると至る所で町の人たちが屋台の準備をしていた。
これからこの国で大きなイベントでも起きるのだろうか。
するとイリスが日付を見て、あることに気付いた。
「そういえば明日だったわね」
「何かあるの?イリス」
「この国では毎年、聖女が生まれたことを記念して生誕祭を行っているのよ」
「それがたまたま今回の旅と被ったらしいわね」
「それってバレやすくなるんじゃないの?」
「それは心配ないと思うわよ?」
「今年の祭りにはサルビア教の教皇も現れるらしいから、この通りも周りの国から来た信者で溢れかえって、亜人を見つけるどころじゃないと思うわ」
「そうなんだ」
それから旅に必要な物資を補給しようと雑貨屋に向かったが、祭りが影響しているのかどこも品薄で次の入荷まで数日はかかるらしい。
「困ったわね、あまり長居するのは危険だし」
「ユラちゃんの魔法もずっとかけ続けられるわけじゃないもんね」
「魔力が少なくてごめんなさい」
「気にしないでねユラちゃん、おかげでこうしてみんなで買い物できてるんだから」
「ひとまず、今日の宿を探した方がいいね」
「そうね、当日だから空き部屋があるといいけど・・・」
イリスの不安は的中し、町中の宿屋を探したがほとんど空きがなかった。
やはりここでも祭りの影響が出ているのだろう。
そんな中で心優しい店主が以前から荷物置き代わりにしていた屋根裏部屋なら貸せると言ってくれた。
「おぉなかなか良くない?」
アルが窓を開けるとそこから町を一望することが出来た。
「けど狭いから、布団が二つしか置けないね」
「仕方ないから窓側で私とアル、入口側でユラと奏が一緒に寝ればいいかしら?」
「奏ちゃんがいいならそれでいいです」
「それで構わないよ」
危ない、アルと一緒に寝たらなにされるか分からないからな。
ユラなら孤児院でいつも一緒に寝てたからか、特に問題ないだろう。
胸はまぁ・・・抱き着かれなければいける。
するとアルが不満そうに言葉を発した。
「私がアルちゃんと一緒に寝たい!」
「何言ってるの?、あんたただでさえ奏に変態行為してたんだから、ダメに決まってるでしょ?」
「けど私たちが二人並んだら、どっちか布団からはみ出すじゃん」
「それだったら体格の小さい子とペアで寝た方がいいでしょ?」
「ダメだよ~?春になったとはいえまだまだ寒いんだから、ここで風邪なんて引いたら旅に支障が出るよ?」
「お願い!絶対に何もしないから!」
「はぁ・・・分かったわよ、ただしなんかしたら即追い出すからね?」
「分かったよ!奏ちゃんの姉一号として、ぜったいに何もしないって約束する!」
いつの間にかアルと一緒に寝ることが決まってしまった。
はたして今夜は無事に寝られるのだろうか・・・
そんな不安を抱きながら、あっという間に寝る時間がやってきた。
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