第2話 出会い

ゲインの街から馬車に揺られて早3日、ようやくミルス公国に入る検問所にたどり着いた。

ここは魔獣の森とミルス公国の境にあり、魔獣の森調査隊の駐屯地にもなっている。

イリスの言う通り銀級冒険者である証拠を見せると、門番の反応を見るに問題なく検問を突破出来そうだった。

だがその途中で魔獣の森の近くで異変が起きたのか検問が一時中断され、周りの兵士達が何故か慌てていた。


「何か起きたのかな?」

「分からないわ、とりあえず待ちましょう?」


イリスの言う通り馬車の中で待っていると、近くから兵士の叫び声が聞こえた。


「魔物だ!誰か応援を!」

「隊長!一人やられました!」


どうやら魔獣の森の魔物が大軍を引き連れてここまで迫ってきているらしい。

すると森の方角から少女の声が聞こえた。


「安心してください!助けに来ました!」


兵士たちの視線の先には、この世界では珍しい黒髪の少女が立っていた。


「これから魔法で足止めします!」

「あなた様は?」

「私は魔獣の森第5期調査隊として派遣された、茜といいます」

「これから皆さんを援護します!私が魔物を足止めしますので、負傷者の方は避難してください!」


しばらく茜と名乗る少女が魔物を足止めしていると、森から同じ黒髪の少女達が出てきた。


「茜早すぎ!一人で行ったら危ないっての!」

「まあまあ春ちゃん、間に合ったんだからいいじゃない」


僕は突然の出来事に困惑していた。


「茜?それにあの子たちは・・・」


あの黒髪に幼い顔立ちは、どこか懐かしさを感じる。


「飛んで!」


春と呼ばれた少女がそう叫ぶと複数の魔物が宙にふわふわと浮きあがり、そのまま動けなくなっていた。


「水樹、お願い」

「はいよ~」


すると何処からか水の刃が魔物達に向かって発射され、ぼとぼとと魔物の首を落としていった。


「燃えてください!」


突然茜がそう叫ぶと周りにいたほとんどの魔物を一斉に燃やし尽くした。


「ありゃりゃ、私たちの出番なくなっちゃうかも」

「はぁ茜遠慮なく燃やしたわね・・・水樹、急いで火を消してくれる?」

「了解だよ、春ちゃん」


それから一方的に少女たちが魔物を蹂躙し、すべての魔物を倒し終えると兵士たちの歓声が上がった


「さすが、勇者様と同じ世界の人たちだ!」

「一瞬で倒すなんて、すごすぎる!」

「この方々がいれば、この国は安泰だ!」

「えへへ、褒められちゃったね」

「ニヤニヤしないの水樹」

「2人もありがとうございます、助かりました」

「後半は茜の無双状態だったけどね」


すると一番激しく戦闘していた少女が馬車のほうに近づいてきた。


「馬車にいた方も大丈夫でしたか?」

「大丈夫よ、強いのねあなたたち」


他の二人もついて来ており、水樹とよばれていた少女が馬車の中を覗き込んでいる。


「あ!茜ちゃん、白髪の女の子だよ!?しかもめっちゃかわいい!」

「ほんとだ、ミレニア王女意外だと初めて見るかも」

「ねぇ、よかったら名前教えて!」


まずいな、もしこのまま素性がバレたらここを通れなくなるぞ・・・

そう思っていると、イリスが言葉を発した。


「悪いけど、私たち早くいかないといけないから」

「ええ~」

「こら!水樹さんだめですよ?邪魔をしては」

「それに今回は失踪した第4期調査隊の形跡を見つけるためにここに来たんですから、急いで団長に報告しにいきますよ?」

「ちぇ~せっかくかわいい子見つけたのに」


それから無事に検問所を抜けることに成功した。


「あの人たちは何者なの?」

「分からないわ、門番の人たちは勇者の世界から来たって言ってたけど」

「そういえば奏ちゃんと一緒に調べものしてた時にたまに出てたね」

「そうなの?」

「うん、イリスは勇者についての文献って読んでなかったでしょ?」

「えぇ、奏と同じで自分の種族についてしか興味がなかったから」

「奏もあの子たちのこと、何か知ってるかしら?」

「え?いや知らないかな・・・」


ここはとぼけることにした。

前世が日本人だったことを知られると余計にめんどくさくなると思ったので、アル達には黙っておこう。

その後順調に旅は続き、ついにミルス公国の首都セージにたどり着いた。

一度ここで食料や物資を補充して、亜人の国をめざす予定である。

当初の予定通りこのまま何事も起きずに、無事に旅を再開できるといいな・・・


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