第2章 ミルス公国編

第1話 旅立ち

無事に4人分の渡航費を稼いだが、実はもう一つ大きな問題があった。


「ミルス公国か・・・」


旅支度を終え、集合場所である町の入り口で一人ポツリとつぶやく。

亜人の国に行くためにはどうしても亜人差別の強いミルス公国を経由していく必要がある。

特に問題なのが国境を跨ぐ検問で、亜人であることがバレればきっと通してはくれないだろう。

しばらく待っているとイリスたちがやってきた。


「奏どうしたの?浮かない顔してるけど」

「ふと思ったんだが、イリスはどうやってミルス公国の検問を突破したんだ?」

「あの時は母が銀級冒険者だったから、特に身元を調べられなかったのよ」

「身元か・・・」

「けどそれなら大丈夫だと思うわ」


そう言って、冒険者用の腕輪を見せてきた。


「これって・・・」

「私達今日から銀級冒険者になったから」


冒険者は見習いから鉄、銅、銀、金級と別れており、銀級以上の冒険者は全体の約10%しかいない。

銀級以上の冒険者ともなると、個人で戦況を変えられるほどの力を持っているため各国も躍起になって人材を集めている。

そのためほとんどの国は上位の冒険者たちに特権を与えている。

ミルス公国もその一つで銀級以上であれば公国内での身元の絶対の保証や、王族への謁見、公国魔術アカデミーの優先的な入学資格を得られたりなど破格の待遇を得られる。

なおその待遇を得るにはその国のギルドに所属する必要があり、そうなると国のために働くという義務も発生するため一概には良いとは言えないらしいが・・・


「しかも史上最年少で銀級冒険者になったんだよ?」


アルの発言は本当の話である。

ほとんどの冒険者は銀級冒険者になる年齢が25歳を超えている中、冒険者になって僅か4年で銀級に至った二人は異例であった。


「よくギルドが承認したね」

「魔獣の森での功績が認められたみたい」


どうやら渡航費を稼ぐためとはいえ、魔獣の森の魔物を討伐し続けていたおかげで近隣の村の治安が良くなり、その功績が認められたらしい。


「本当は奏ちゃんも銀級クラスの実力はあるんだけどな」

「すでに私たちよりも強い気がするから、最近は本当に年下なのか疑ってるわ」

「はは、一応年下だよ」


中身はアラサーのおっさんだけど。

やはりこの体はここでも足を引っ張っていると思う。

この世界に来た時よりも少しだけ身長が伸びてはいるが、見た目的には7歳児くらいの身長しかない。


「奏ちゃ~ん!」


聞きなれた声が聞こえたため振り返ると、ユラが後ろから抱き着いてきた。

ユラの服装は亜人であることを隠すため大きな猫耳の形をした帽子をかぶっている。


「えへへ、捕まえた」

「奏ちゃんこんなにかわいい帽子を作ってくれてありがとう」


ここ数か月の間に森で自分の服を修復したり、新しく仕立てたりして大抵の衣服は作れるようになってしまった。

徐々に自分の女子力が高くなっていることに最近恐怖している。


「いつの間にか奏に家事能力を追い抜かれてた・・・」

「家事得意なミルスがそこまで言うなんてすごいね」

「これは将来、いいお嫁さんになりそう」

「いや、男の人に興味ないから!」

「てか、くっつきすぎだって!」


ユラに抱き着かれ、立派に成長した胸部装甲が背中に当たっている。

あれからユラは恐ろしいスピードで体が成長していた。

出会った当初のユラはかなり小柄な体をしていたため、勝手に年下の妹のような存在として扱っていた。

だがここ数か月の間にどんどん体が成長し、見た目だけなら高校生と言われてもおかしくないほど成長していた。


「マリーさんが言うには、獣人の子達はみんなあれぐらいの年齢から急激に成長するんだって」

「ぐ・・・まさか12歳の子に負けるなんて」


イリスの視線はユラの胸元に注がれており、悔し涙を浮かべている。

ちなみにイリスの胸は見た感じA・・・これ以上は詮索しないでおく。


「胸なんかあっても肩凝るだけだよイリス?」

「うるさいわね、あんたは大きいからそんなこと言えるのよ」


それからもイリスの小言は続いた。

その後無事に全員の旅支度も終わり、いよいよ出発する時間になった。


「イリスちゃん達気をつけてね」


いつの間にか孤児院の子供たちを連れて、マリーさん達が見送りに来ていた。


「はい、マリーさんもお元気で」

「マリーさん手紙、絶対書くからね」

「マリーさん、またね」

「マリーさんお世話になりました」

僕たち4人の掛け声を終えてすぐに、乗り合いの馬車が出発した。





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