第8話 力の解放

イリスの話を聞いてからしばらくして町中の人たちが孤児院に集まってきた。


「この孤児院は以前から亜人をかくまっていたらしいぞ!」

「やっぱり病気の原因はこいつらだったんだ!」

「亜人をさっさと出せ!」

「亜人はこの町から出ていけ!」


そこら中で上げられる怒号に、子供たちは大泣きしてしまった。


「マリーさん、どうしますか?このままだとこの子たちが・・・」

「ええ分かっています、ですが亜人とは言えこの孤児院の一員なのです引き渡すわけにはいきません」

「何とか私が説得を試みてみます」

「シスターミル?あとは任せましたよ」

「はい!」


その後マリーさんが町の人たちの前に立ちはだかり、説得を試みた。

だがそれで町の人たちが止まることはなく、町の人が投げた石がマリーさんの頭に直撃し血を流して倒れてしまった。


「マリーさん!」

「奏ちゃん・・・早く、中に入りなさい」

「でも早く手当てしないとマリーさんが!」

「ふふ、あなたは本当に優しいですね」

「私がこの孤児院に来てから、数十年」

「あれからいろんな子たちが来ましたが、あなたのような人に優しく聡明な子は初めてでした」

「孤児院の子たちを頼みますよ、奏ちゃん」


そういってマリーさんは意識を失った。

その瞬間、心の奥底からどす黒い感情が湧いてくる。


「お前らか・・・」


すると突然地面が揺れだし、石床や建物の亀裂から植物のツタが恐ろしい勢いで生えてきた。

ツタはやがて孤児院を取り囲んでいた町の人たちを次々と拘束していき、だんだんと締め付ける力を強めていった。

いたるところで上がる悲鳴、さらに締め付ける力を強めようとしたとき、後ろからイリスの叫ぶ声が聞こえた。

「まって!」

気が付くといつの間にかイリスに後ろから抱きしめられていた。

「イリス?」

「それ以上したら、本当に悪者になっちゃう!」


イリスの発言により正気に戻ると、自分がこれから何をしようとしていたのか理解した。

もう少しイリスが来るのが遅れていたら、町の人たちを締め殺していたのだろう。


「マリーさんは私が治すから、これ以上町の人たちに危害を加えないで」

「・・・ごめん」


その後、町の人たちを拘束していたツタはスルスルと拘束を解いていった。

幸い軽い跡が残っただけで、誰一人けがを負わなかったため町の人たちはその場から逃げ出すように解散していった。


それから孤児院に戻り、状況を確認した。

マリーさんはイリスの魔法により無事に一命をとりとめて、今は自室で休んでもらっている。

孤児院の食堂でイリス達と僕が使った植物を操る異能について話し合った。

どうやらイリスが言うには植物を使った魔法はないらしく、あれは僕の種族固有の力が暴走したものだと結論付けた。


「これからどうしよう・・・」


あんな力を見せつけては、もうこれ以上この町にはいられないだろう。

しばらく悩んでいるとイリスがある提案をしてきた。


「奏は亜人の国には興味ある?」

「亜人の国?」

「うん、ここからミルス公国を超えてはるか東に亜人だけの国があるの」

「私、今回の件で思い知ったの」

「この国にいたら私だけじゃなくてみんなに迷惑がかかるって」

「だからあなたさえよかったら、その・・・一緒に行かない?」

「ちょっとイリスだけずるいよ!私も行く!」


そういってアルはジタバタとその場で暴れだした。

アルの年齢の子がそんなに暴れたら、ただでさえ丈の短いスカート履いてるんだから見えちゃいけないものが見えちゃうって!


「はぁ、アルも一緒にいいかしら?こうなったアルは絶対に言うこと聞かないから」

「分かったよ、ちょうどこの力がどんな種族によるものなのかも知りたいからね」


あれから自分の種族についてミルさんに付き添ってもらいながら図書館に通ったり、マリーさんにお願いして領主の館の本を見させてもらったりなどして毎日コツコツと調べ続けていた。

それでも手がかりらしいものは見つけられていない。

この町で調べるにも限界が来ていたためイリスの提案は渡りに船であった。


そう考えていると食堂にユラが現れ、声をかけてきた。


「あの・・・私も行きたいです」

「ユラちゃんも行きたいの?」

「私、奏ちゃんに何も返せてないから恩返しがしたくて」

「旅の途中の雑用は全部するから、お願いします」


頭を下げながら、ポロポロと目に涙を浮かべて泣いていた。

きっと断られるのを覚悟して頼み込んでいるのだろう。


「奏一人追加よ、いいわね」

「了解」


やっぱりイリスは優しいなと、感心する。


「けど亜人の国に行くためには大きな問題があるの」

「ん?」

「道中で乗る旅客船に乗るためのお金が足りないわ」

「船で行くの?」

「うん、亜人の国は海の向こう側にある島国だから」

「ちなみにどれくらい必要?」

「一人当たり約100万ミルスくらい・・・」

「え・・・」

この辺りの通貨のほとんどはミルス公国が製造しており、単位もミルスとなっている。1ミルス当たり一円と貨幣価値が日本と変わっていないためお金の計算はさほど苦労しなかった。


「たしか冒険者の給料って・・・」

「歩合制、基本的にクエストをクリアしたり、魔物の素材を持ち込んで換金してる」

「今どのくらい貯まってる?」

「一応一人分は・・・」

「あと300万ミルスってこと!?」

「たしか銅級冒険者の平均収入って20万とかそこらだよね。」

「そうだね、私たちはもう少し多いけど」

「月に25万ずつ貯めてもあと一年はかかるのか・・・」

「一応4か月以内に行く方法ならあるわ」

「それは?」

「奏と私たちで協力して魔獣の森の魔物を狩り続けることよ」

「そんなに稼げるの?」

「うん、魔獣の森の魔物は素材の宝庫だから、どんな魔物も一匹3万以上稼げるわ」

「そんなに!?」


つまり100体、一日三体狩れば3か月くらいで貯まる計算になる。


それからイリスに言われた通り魔獣の森で、魔物を狩り続ける日々が続いた。

ただ魔物は日によって全く出会わない日もあり、イリスの読み通り4か月はかかりそうなペースだった。

イリスはあれから町の人たちとは和解したようで、以前のように仲良くしているらしい。

ただ僕はあんな力を見せたせいで怯えられてしまい町にいられなくなってしまった。

そのせいで魔獣の森で野宿する羽目になったが、最近はだんだん慣れつつある。

僕が倒した魔物はイリスが責任をもって換金しに行ってくれている。

いつの間にか力も使いこなせるようになり、後半はイリスたちよりスムーズに魔物を狩れるようになっていた。

この森で暮らして早3か月半、地獄のような日々だったがなんとか予定よりも早く300万ミルスを貯めることが出来た。





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る