第5話 孤児院
冒険者ギルドで亜人について調べてから数日が経った。
さすがにいつまでもアル達に宿の手配をしてもらうのは申し訳なくなり、アルにお金を稼ぐ方法を聞くことにした。
「お金か・・・」
「うん、さすがにアル達にいつまでも甘えるのはいけないかなって」
「奏は大人びてるけど、奏くらいの年齢の子は普通、親に育てられているのが当たり前なの」
「だからどこも相手なんてしてくれないわよ?」
イリスの発言は正しいと思う。
一応前世は義務教育もしっかり受けたため、読み書き計算くらいならできる。
だがこの世界の文字は、少し変わっていて数字は前世と同じだが他は見たことのない形をしていた。
どうやらこの世界の文字のルーツは、魔王との戦いのために召喚された勇者が使っていた言語をこの世界独自の文化で変化させたものらしい。
ちなみに図書館の本はかなり古いものが多く、俺でもぎりぎり読むことが出来た。
こちらの世界の日本語は日本でいうところの現代文と古文のような関係性なのかもしれない。
そのため俺は言葉は通じるが、読むことが出来ない不思議な状態になっている。
そして何よりこの幼い見た目では、大人と一緒の仕事をまかせてはもらえないだろう。
「となると孤児院で見習いとして働いて、お金を稼ぐしかないね」
「孤児院?」
「うん、知り合いに昔お世話になったシスターさんが経営している孤児院があるの」
「この辺りにも身寄りのない子供はたくさんいるからね、見つけては引き取っているんだよ」
「ただ最近は子供の数が多くて常に人手が足りないの」
「だからたまに私たちが手伝ってたりするんだけど、奏ちゃんはどう?」
「やりたい!」
その後アル達に連れられ、孤児院についた。
中に入ると、年配のシスターと数人の若いシスターが子供達の世話をしている。
「マリーさーん!来たよ!」
アルが大声で呼びかけると、年配のシスターがやってきた。
「あらあらアルちゃんじゃない、今日来るなんて珍しいわね」
「この前ドジ踏んじゃってさ~今は臨時休業中なの」
「あら、大丈夫だったの?」
「マリーさん心配しないでいいわ、魔物に捕まったけど助けてくれた子がいてね」
「こうして無事に町まで戻ってこれたわ」
「そうなの?だったらお礼をしないとね、何て名前の子なの?」
「それが・・・この子なんです!」
するとアルに背中を押されながら、シスターの目の前まで連れていかれた。
「名前は奏ちゃん!こんなにかわいいのにすっごく力が強いんだよ!」
「奏ちゃん、アルちゃん達を助けてくれてありがとう」
「いえいえ、お礼によくしてもらってますから」
「あら、礼儀正しいのね」
「それでね、孤児院に人手が足りないって前に行ってたでしょ?」
「そうね、今も領主様に掛け合って人手を集めていただいてるんだけどなかなか集まらないの」
「そこで!奏ちゃんをシスター見習いとしてここで働かせてほしいのです!」
「あら、奏ちゃんはいいの?」
「はい、いつまでもアル達に甘えるわけにはいかないので・・・」
「ふふ、偉いわね。分かりました、明日からシスターの勉強をしながら見習いとしてあなたを育てます」
「ありがとうございます」
その後マリーさんに新しいシスター服をもらい、寝室も用意してもらった。
よくよく考えたら、30歳の良い年したおじさんが幼児サイズのシスター服着るのはだいぶまずいのではと一瞬考えたが、仕事のためだと割り切ることにする。
次の日、少し葛藤しつつもシスター服に袖を通しマリーさんのもとへ向かった。
「やっぱりかわいいわね、とても似合ってるわ」
「サイズは大丈夫かしら?」
「はい、少しぶかぶかですが問題ないです」
「奏ちゃんならすぐに大きくなるんだし、そのくらいがちょうどいいわね」
「ではまず、奏ちゃんには窓の掃除からしてもらいます」
「はい!」
孤児院はかなり広く、窓の掃除だけで2時間もかかってしまった。
やはり背の低さもあって高いところはかなり苦戦したが、何とか終わらせることが出来た。
途中飛び跳ねる俺を見て、若いシスターが後ろでほほ笑んでいたような気がするが見なかったことにする。
掃除が終わり執務室に入ると、マリーさんは書類仕事をしていた。
「掃除は終わったかしら?」
「はい、やっぱり背が低くて時間かかっちゃいましたが・・・」
「いいのよ、後ろから見てたシスターが一生懸命にやってたって言ってたから」
「なんでも一生懸命飛び跳ねてて可愛かったって言ってたわよ」
「うう、ちょっと恥ずかしいです」
「ふふ、それにしてもあなたを見てるとなつかしいわね」
そう言ってマリーさんは手に持っていたペンを置いて昔話を始めた。
「昔、アルちゃん達も見習いシスターとして働いてたのよ」
「そうなんですか?」
「ええ、アルちゃんとイリスちゃんは子供のころに両親を亡くしてね、それからは孤児として二人で暮らしてたのよ」
「でも子供二人だけでは生活なんてできないから、私が彼女たちを引き取って見習いシスターとして育ててたのよ」
あの二人にそんな過去があるなんて知らなかった。
いつも明るいアルに、常に冷静に物事を判断するイリス、普段の二人からはとても想像できない。
「それと、あなたも亜人なのよね」
「え?なんで・・・」
「昔から、私にはなぜか人のオーラが見えてね」
「あなたのように亜人の人たちは独特のオーラをまとっているのよ」
「安心してね、あなたを町の人たちに突き出したりなんてしないから」
「それにあなたも気づいてないと思うけど、イリスちゃんも亜人なのよ?」
「そうなんですか!?」
「あの子は亜人と人間とのハーフなの、だから外見上はほとんど人間と大差ないわ」
「昔はあの子たちみたいに、亜人と人間はとても仲が良くて、この辺りにもたくさんの亜人が住んでいたの」
「そうなんだ」
そして午後からは、この世界の文字を覚えるための勉強をした。
やはり元が日本語で構成されていた言語だったため、覚えるのはそこまで苦労しなさそうで安心する。
それにしてもイリスが俺と同じ亜人だったことにびっくりした。
今度イリスに昔の話を聞いてみようかな。
それから今日マリーさんに言われた通り、俺は何かしらの亜人であることも分かった。
そうなるとますます自分の種族が知りたいという思いが強くなる。
明日からはシスター見習いの仕事をした後に、もう一度自分の正体について調べてみよう。
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