第6話 獣人の少女
見習いシスターとして働き始めて、3か月が経った。
相変わらず背が低いので掃除は苦手なままだが、子供たちのためにやっていた裁縫や料理の腕はかなり向上したと思う。
ただここ最近精神に肉体が引っ張られているせいか、口調がだんだん子供っぽくなっている気がする。
なんだか幼いころの自分に戻ったような気分だ。
それからこの孤児院は女の子が多い。
どうやら前の戦争や流行り病で男性がかなり減ってしまい、特に農家からの養子縁組の話が後を絶たないそうだ。
教会の庭で水汲みを終え、仕事の報告をしに行くことにした。
すると庭の花壇に水をやっているシスターの姿が見えた。
「ミルさん、井戸の水組み終わったよ」
「奏ちゃんありがとう、そんなに小さいのによくあんなに重たいもの持てるね」
「この孤児院にいるのはほとんどが女の子だから、奏ちゃんみたいに力が強い子は本当に助かるわ」
この人はシスターのミルさん。
僕がこの孤児院に来て、初めて掃除をしていた時に後ろで眺めていた人だ。
本人はかわいいものが好きらしく、よく僕の髪型を変えて遊んでいる。
「奏ちゃん、こっちで遊ぼ?」
後ろから、小さな少女の声がした。
そこには獣人の少女であるユラが、ドアの隙間からこちらに手招きをしていた。
「ユラ?庭に出たら危ないよ、誰が見てるか分からないから」
「ごめんなさい」
僕に注意されてしおらしくしているユラの頭をそっとなでる。
ユラはあの時亜人狩りにあい、殺されそうになっていた少女だ。
どうやら領主が交渉し、何とか無事に解放されたようだった。
その時この孤児院に引き取られたが、ユラはかなりふさぎ込んでいてまともに会話もできなかった。
それでもここ最近は元気を取り戻したのか、よく遊ぶようになっている。
「また前みたいに亜人の子たちも大手を振って街を歩けるようになるといいんだけどね・・・」
ミルさんは少し悲しそうにつぶやいていた。
ここ数か月の間にようやく流行り病の特効薬が作られ、事態は収束しつつある。
以前に比べ亜人狩りはかなり少なくなったが、代わりに亜人差別が残ってしまった。
そのためユラのように生き残った亜人が外に出られない日々が続いている。
「ユラ?今日は部屋で新しい遊びを教えてあげるよ」
「本当!?この前教えてもらったしりとりって遊びとは違う遊び?」
この数か月で僕は孤児院の子供たちに、日本の子供たちがよくやっていた遊びをたくさん教えた。
しりとりにあやとり、鬼ごっこやかくれんぼなど、どれも子供たちに好評である。
「今日はそのしりとりを絵だけでやる絵しりとりってやつを教えるよ」
「おもしろそう!、早くやろう?」
元気にはしゃぐユラを見ていると、なんだか子供が出来たような気がする。
前世の年齢からするとユラくらいの子供がいてもおかしくないんだよな・・・
最近はよく遊んであげているからか、子供たちに人気になっていて少し複雑である。
もし自分が男として転生したら、モテモテだったのかもしれない。
すこし感傷に浸りつつ、その日は子供たちとの遊びに集中することにした。
次の日何やら孤児院の人たちがかなり騒いでいた。
マリーさんに話を聞くと、驚くべきことが判明した。
「イリスが亜人だってことがバレたんですか!?」
「そうみたいなの、幸い亜人狩りにはあってないけど、かなり酷い差別を受けたみたいでね」
「今は部屋で休んでもらってるわ」
イリスが休んでいる部屋に入ると、アルも一緒に過ごしていた。
「イリス、奏ちゃん来たよ」
「奏?」
いつもの冷静ですました顔をしているイリスがとてもしおらしくなっていた。
よく見ると目元が赤くなっており、一晩中泣いていたのが分かる。
「イリス大丈夫?」
「大丈夫よ奏、心配かけたわね、こんな扱いされたのは久しぶりだったから」
「前にイリスがミルス公国の出身だったって言ってたでしょ?」
「うん」
「ミルス公国はもともと亜人差別がひどい国だったから、比較的差別の少なかったこの国に逃げてきたの」
「まってアル、そこからは私が話すわ」
それからイリスの壮絶な過去について話を聞くことが出来た。
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